デザインの権利と保護

Vol.133 パッケージデザインはメタバースでも保護されるのか?

2024.3.26

インターネット上の仮想空間でアバターを使ってのコミュニケーションやショッピングなどが注目されています。仮想空間の中の「パッケージデザイン」はどのように保護されるのでしょうか? 物品としての意匠、画像の意匠は? 商標はどうなるのか? 不正競争防止法との関係は?
今回の「知財くんがゆく」のテーマは、「パッケージデザインはメタバースでも保護されるのか?」についてです。安立卓司弁理士にわかりやすく解説してもらいました。 (編集・文責:デザイン保護委員会)

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(ロゴデザイン:大谷啓浩)

知財くんがゆく 第5回

パッケージデザインはメタバースでも保護されるのか?
弁理士 安立卓司

情報技術の発展が目覚ましい昨今、インターネット上に構築された仮想空間(いわゆるメタバース)を利用したビジネスが登場しつつあります。

例えば、メタバース空間に存在するバーチャルマンションが販売されており、この室内にはNFT[※1]アイテムやNFTアートなどを持ち込むことができます。

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000003.000096349.html

また、メタバース空間で使用できるアイテムとして、例えば次のスニーカーボックスが販売されています。このスニーカーボックスは三次元的に見える画像であり、くるくると回転させて全方向から見ることができます。このようなアイテムをメタバース空間に持ち込み、自由に配置して楽しむわけです。

「USARAPPER SNBOX #2/10」by MISTUAKI YAMAGUCHI HEAVEN

https://adam.jp/items/0xb30fc2d754c88c451275b743b6f530f19f643683/0x000000000001000008930000002d8764

このような状況からすると、現実に存在する三次元のパッケージデザインを模した3Dの画像データ(以下、「3Dオブジェクト」といいます)がメタバース内に持ち込まれる可能性は十分にあります。A社がリアルで使用しているパッケージデザインが第三者であるB社に勝手に流用され、その3Dオブジェクトがメタバース上で使用されてしまった場合、A社はB社に対し「やめてくれ」と言えるのでしょうか?

このコーヒー飲料のパッケージデザインを仮想事例として考えます。

デザイン保護の代表格といえば、意匠法です。まずは、意匠法による保護について考えてみましょう。

A社がこの缶のデザインを意匠登録していたとします(物品「包装用缶」)。B社は、このデザインを模した3Dオブジェクトをメタバースで使用しています。この場合、A社は「包装用缶」の意匠権を侵害することを理由にB社の使用をやめさせることができるのでしょうか?

結論からいいますと、やめさせることはできないと思います。意匠権の効力は登録意匠及びこれに類似する意匠に及びますが[※2]、物品の意匠が類似と判断されるためには、形態(カタチ)が類似しているだけでなく、物品も類似している必要があるからです[※3]。物品が類似しているかどうかは、物品どうしの用途・機能が共通しているかどうかで判断されます。コーヒー飲料などの液体を保存・運搬できるよう密封するのが「包装用缶」という物品の本質的な用途・機能であることを考えますと、3Dオブジェクトの缶にはそのような用途・機能がありませんから、両者の用途・機能に共通性があるとはいえず物品は非類似であって、意匠も類似しない(物品の意匠権は3Dオブジェクトの使用に及ばない)と結論付けるのが自然です。

それでは、物品の意匠権ではなく、画像の意匠権はどうでしょうか。令和元年の意匠法改正により、画像の意匠も意匠法で保護されるようになりました。

A社が上記のデザイン(缶)の3Dオブジェクトを画像の意匠として権利化しておけば、画像の意匠権侵害を理由として、B社の使用をやめさせることができるのでしょうか?

結論としては、缶のデザインを模しただけの3Dオブジェクトは、意匠法で保護される画像意匠に該当せず、そもそも権利化できません。

画像であればなんでも、意匠法で保護される訳ではありません。意匠法で画像意匠として保護されるためには、①操作画像(機器の操作の用に供される画像)か、②表示画像(機器がその機能を発揮した結果として表示される画像)に該当しなければなりません[※4]。画像意匠の登録例を2つ、ご紹介しましょう。いずれも部分意匠であり、実線部分が意匠登録を受けようとする部分です。参考図は文字通りあくまで参考にすぎず、権利範囲の解釈には用いられません。

操作画像の例


意匠登録第1741688号「商品購入用GUI」の画像図


意匠登録第1741688号「商品購入用GUI」の使用状態を示す参考画像図

 

陳列されている中から希望商品を選択し購入するための操作画像の登録意匠です。代表的な画像図と参考画像図しか紹介していませんが、実際は複数の画像図からなる、変化する画像意匠です。

表示画像の例


意匠登録第1715416号「デジタルショールーム用案内表示画像」の画像図1

 


意匠登録第1715416号「デジタルショールーム用案内表示画像」の画像図2

 

 

意匠登録第1715416号「デジタルショールーム用案内表示画像」の参考画像図1

 

 

意匠登録第1715416号「デジタルショールーム用案内表示画像」の参考画像図2

 

 

こちらも変化する画像の意匠です。画像図1(扉が閉じた状態)から画像図2(扉が開いた状態)に変化します。

このように、意匠法では実用的な用途・機能と結びついた画像しか保護されません。リアルの缶を模しただけの3Dオブジェクトは、単に装飾的な画像あるいはコンテンツの画像[※5]にすぎないとして、意匠法の保護対象にならないのです[※6]。

次に、商標法による保護について考えます。

このようなコーヒー飲料が実際に販売されていると仮定しますと、商品名である「JPDA」の文字、そして「d」のロゴマーク(dを図案化して丸の中に配置したマーク)は、指定商品「コーヒー飲料」について使用される商標になります。これを商標登録しておけば、A社はB社に対し商標権侵害を理由に3Dオブジェクトの使用をやめさせることができるのでしょうか?

商標権侵害が成立するためには、商標が同一・類似であるだけでは足りず、商品が同一・類似である必要があります[※7]。そうすると、3Dオブジェクトの缶はあくまで画像であって、リアルの缶とは商品が非類似ですから、A社の商標権の効力はB社の3Dオブジェクトの使用には及ばないことになります。ただし、例えばA社が指定商品「オンライン上の仮想世界で使用するダウンロード可能な仮想商品を内容とするコンピュータプログラム」[※8]について「JPDA」や「d」マークの商標を登録していた場合には、商標権侵害に問える可能性があると思います。

最後に、不正競争防止法による規制について考えます。

令和5年に不正競争防止法が改正され、他人の商品形態を模倣した商品をデジタル空間で提供する行為についても、不正競争行為として規制されることになりました[※9]。先ほどの例でいいますと、B社がA社の商品・コーヒー飲料のデザインを模した3Dオブジェクトをメタバース上で販売する行為が、不正競争に当たる可能性が出てきました。

ただし、この規定の適用には、時間的な制約があります。B社の行為が不正競争となるのは、A社の商品が日本国内において最初に販売された日から起算して3年を経過するまでです。そのうえ、法改正はされたものの、その運用についての議論や裁判例はまだまだこれからという状況です[※10]。

なお、「JPDA」や「d」マークがA社の商品等表示として周知・著名である場合は、不正競争防止法の別の規定により不正競争に問える可能性があります[※11]。

本来、パッケージデザインはリアルの商品を包装して販売・流通させるために存在していますので、メタバース上で3Dオブジェクトが使用されたとしても、それほど問題はないと考える方もいらっしゃるかもしれません。しかし、自社のデザインを無断で拝借されるのは困るという企業もいらっしゃるでしょうし、今後メタバースが普及すれば、A社が自社のコーヒー飲料を買ってくれた方に3Dオブジェクトをおまけとして配布するとか、自社のブランド戦略・事業戦略の一環として3Dオブジェクトそのものを販売するといったことは十分に想定されます。技術とそれを取り巻くビジネス環境が進展するスピードは、どんどん早くなっています。突然トラブルに巻き込まれることのないよう、普段からアンテナを張って知識をアップロードしておきましょう。

■筆者プロフィール
安立卓司 弁理士
専門は、意匠・商標。
特許事務所勤務を経て、2023年、「安立特許事務所」を設立。
https://www.adachi3.jp/
日本弁理士会中央知的財産研究所 副所長 兼 研究員。日本弁理士会意匠委員会 委員。デザインと法協会 呼び掛け人。

(注)
1 NFT(Non-Fungible Token=ノンファンジブルトークン)。ブロックチェーン技術を活用してコピーや改ざんの難易度を上げ、デジタルデータがオリジナル商品であることを証明する。
2 意匠法23条を参照。
3 意匠法の条文上、物品の類似は意匠の類似の要件になっていないが、判例(知財高判平17年10月31日、カラビナ事件など)や特許庁の意匠審査基準では物品の類似が意匠の類似の要件とされている。
4 意匠法2条1項を参照。
5 コンテンツの画像は意匠法では保護されないが、著作権法で保護される可能性がある。
6 リアルの缶を模しただけの3Dオブジェクトは意匠法の保護対象にならないが、この3Dオブジェクトの画像をクリックすると購入画面に遷移するなど、機器の操作に用いられる場合には操作画像として意匠法で保護され得る。
7 商標法25条および同法37条1号を参照。
8 商標登録第6753723号を参照。メタバースを想定したその他の登録例として、「オンライン上の仮想世界で使用するダウンロード可能な仮想商品を内容とするコンピュータプログラム,仮想商品、すなわち、オンライン上の仮想世界及びオンライン上で使用する飲料・食品・サプリメント・化粧品を内容とするダウンロード可能なコンピュータプログラム」(商標登録第6685791号)、「オンライン上の仮想世界及びオンライン上で使用する非代替性トークン(NFTs)で認証されたダウンロード可能なデジタル画像・映像・音楽・音声・文字情報ファイル」(登録第6753707号)など。
9 不正競争防止法2条1項3号。他人の商品の形態(当該商品の機能を確保するために不可欠な形態を除く。)を模倣した商品を譲渡し、貸し渡し、譲渡若しくは貸渡しのために展示し、輸出し又は輸入する行為を不正競争として規定していたが、令和5年改正により、電気通信回線を通じて提供する行為も追加された。経済産業省HPの解説によれば、「商品形態の模倣行為について、デジタル空間における他人の商品形態を模倣した商品の提供行為も不正競争行為の対象とし、差止請求権等を行使できるように」する趣旨の改正である。
https://www.meti.go.jp/policy/economy/chizai/chiteki/kaisei_recent.html
10 令和5年不正競争防止法改正の趣旨は注9に記載のとおりである。しかし、他人のリアルの商品形態を模倣した商品である3Dオブジェクトを販売する行為を不正競争行為として差し止められるのかどうか、実務上の問題点がまだまだ積み残しになっているように見受けられる。
11 不正競争防止法2条1項1号、同項2号を参照。

今回のコラムについて、ご意見、ご感想などなどありましたらぜひデザイン保護委員会までお寄せください。
(公社)日本パッケージデザイン協会 事務局
デザイン保護委員会「知財くんがゆく」宛
info@mail.jpda.or.jp

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