調査・体験日記② 1から考えるやさしいデザイン アメリカ・イリノイ編 <PART 1>
やさしいパッケージ分科会では、社会課題・環境問題・ユニバーサルデザインといった「さまざまな課題を解決するデザイン」を、「社会に・環境に・人にやさしいデザイン」と総称し、その中からJPDAとして取り組むテーマを絞るべく現在は情報収集・取材・体験等を行っています。
今回は、アメリカのイリノイ州在住の菅木綿子さんをお招きし、様々な“やさしいデザイン”について事前に委員会メンバーからいくつか質問を投げかけ、それに対する菅さんの視点や見解を伺いました。
<菅木綿子さん>
国内大手印刷会社、食品メーカーに勤務し商品のデザインに携わった後、インドネシアを経て現在はアメリカ(イリノイ州)在住。日本とは異なる現地のパッケージデザインの様子をSNS等で発信している。日本包装技術協会、包装管理士。日本官能評価学会、官能評価士。著書「パッケージデザインを学ぶ 基礎知識から実践まで」
・内容はあくまでイリノイ州をメインとした市場の様子を観察したものであり、グローバルスタンダードを解説するものではありません。
■国による「社会的なやさしさ」の違い
まず初めに「社会的なやさしさ」の方針について、日本と海外諸国の違いをお話くださいました。人種や歴史といった背景が絡むとマイノリティーや弱者の定義が複雑になり、社会的なやさしさの方針にも違いが出てくるといった内容です。例えば、Aというマイノリティーなアイデンティティーを持つ健康な若者と、Bというマジョリティーなアイデンティティーの高齢者では一体どちらが弱者であり配慮されるべきなのか?または、Cというアイデンティティーに配慮した結果、Dというアイデンティティーを否定する可能性があるのでは?といったものです。多種多様な人々が共存する国と、そういった社会に慣れない日本では、やさしさを配慮する相手も、そもそも「社会的なやさしさ」の定義も異なるという大前提の事実に、参加している一同は目から鱗状態となりお話に引き込まれて行きました。
■環境配慮は脱プラの流れ、代替素材を使用
パッケージにおける環境配慮のひとつとして、脱プラスチックの流れが目立つようです。代替素材にアルミが多く使用されていることが日本と大きく異なることだと感じました。スポーツの観戦席で飲むビールの使い捨てカップもアルミにするという大きな動きになっており、ペットボトルの飲料容器やハンドソープなどの容器をアルミに変更するブランドも増えているそうです。
また紙化の例としては、水やアルコールなどの飲料が紙パックになったり、パルプモールドを採用した液体洗剤もあるとのことでした。飲料水やアルコール飲料に紙パックを使用した製品は日本でも見かけますが、飲料にとどまらずホームケア製品の容器までも紙化していることに驚きました。
代替素材の選び方は各国のゴミ処理の事情に依るものも大きく、イリノイ州でアルミ化・紙化が目立つのはゴミがほぼ埋め立て処理される背景が影響している可能性も考えられます。一方日本ではリサイクルの仕組みや焼却設備が整っており、埋め立ては僅かという背景があります。どの素材がどういった点で環境配慮に優れているのか、正解は一律ではないことを議論しました。他国で大きなムーブメントになっていることが日本でも正解とは言い切れず、また今現在も各国それぞれが模索し試行している最中であり、素材と環境については常に考え続けるべき課題だと感じました。
■SDGsにはどう取り組んでいるか?
「SDGs」は消費者にさほど浸透していないイメージとのことですが、SDGsにおける「5. ジェンダー平等を実現しよう」「10. 人や国の不平等をなくそう」「14. 海の豊かさを守ろう」「17. パートナーシップで目標を達成しよう」などに関しては、「SDGs」にこだわらずに、地域においてサスティナブルな取り組みが実施されているとのことです。
「SDGs」というパッケージされたムーブメントに安易に乗るのではなく、自分たちが暮らす社会の課題にフォーカスし、向き合う姿勢は、私たちも改めて考えるべきだと思わされました。
<PART2>に続く……(近日公開)
(調査研究委員会:小林絵美[記]、齋藤郁夫、鈴木樹子、福本佐登美、丸本彰一、三原美奈子)