デザインの権利と保護

Vol.112「ストック素材の利用に潜む罠に落ちないために!」

2019.4.18

本稿で著者は、「ストック素材は写真データです。したがって、ストック素材は、写真の著作物として、著作権法で保護されている可能性が考えられる。」とし、まず、<写真の著作権>を第1の罠としています。

第2の罠は<写真の被写体に関する権利等>。
1枚の写真から権利関係が多重に発生しているケースがあること。写真の著作物には、写真の著作権以外に被写体自体に何らかの権利がある可能性があることが解説されています。

続いて、<被写体に何らかの権利がある場合>として、トラブルになりやすいケースと、トラブルを避けるためのポイントが紹介されています。

※著者には、2月7日実施の当委員会セミナー「ストック素材を安全に利用するための実践講座」にご参加いただきました。
ネットからダウンロードするだけの気軽な利用が招く思わぬトラブルを避けるために、本稿をお届けします。

また、関連するテーマの下記ページもご参照いただければ幸いです。
>>> Vol.75 「ストックフォト活用法」
>>> Vol.111 「セミナー報告/ストック素材を安全に利用するための実践講座」

(2019年4月18日 編集・文責:デザイン保護委員会 担当 丸山 和子)

◆このページに限らずVol.1~これまでに掲載した内容は著作権・他で保護されています。
無断転用はお断りいたします。引用の場合は引用部分を明確にし、出所の明示をお願いいたします。
 

情報発信


ストック素材の利用に潜む罠~トラブルを避けるために

三好内外国特許事務所 弁理士 安立 卓司

1.はじめに
パッケージデザインや広告デザインを創るデザイナー、これらのデザインを利用する企業にとってお馴染みの「ストック素材」。アマナイメージズ、ゲッティイメージズ、シャッターストック、アフロなどの大手エージェンシーが提供するものから、「著作権フリー素材」なるものまで、インターネット上には無数の素材がアップロードされています。
このようなストック素材をめぐってトラブルが多発していること、皆さんはご存知ですか?
-ストック素材の利用にはどのような罠が潜んでいるのでしょうか。-

2.<写真の著作権>という第1の罠
ストック素材は写真データです。したがって、ストック素材は、写真の著作物として、著作権法で保護されている可能性があります。
ストック素材が写真の著作物に当たる場合には、写真の著作権者から利用許諾を得る必要があります。

この点、大手エージェンシーが提供する素材では、基本的に、ここの権利処理をしてくれています。また、「著作権フリー」と謳われる素材も、「写真の著作権の権利関係はフリーだよ(だから安心だよ)」という訳ですね。(注1)

それでは、写真の著作権について権利関係の処理がされていれば、トラブルから完全に解放されるのでしょうか?
残念ながら、答えはNOです。

3.<写真の被写体に関する権利>という第2の罠
写真の権利関係について考える上でまず知っておいて頂きたいのは、1枚の写真から、権利関係が多重に発生しているケースがあるということです。
つまり、写真の著作物には、写真の著作権以外に、被写体自体に何らかの権利がある可能性があるのです。
模式的な図で、写真の権利関係を考えてみましょう。

図1

写真には被写体が写っています。被写体との関係で権利関係が問題にならないケースでは、写真の著作権の問題(写真家との権利関係)だけ考えておけばよいでしょう。
しかし、被写体自体が何らかの権利の対象となっている場合、写真の著作権の問題のみならず、被写体の権利の問題(被写体の権利者との権利関係)も考える必要が出てきます。

図2

このように、権利関係が二重構造になっているケースがあるということです。この場合、適法に素材を利用するためには、被写体の権利者と写真の権利者、2人から利用許諾を得なければなりません。(注2)

図3

「(写真の)著作権フリー」が、(権利的に)全くフリーとはいえないことがお分かり頂けると思います。

また、エージェンシーの利用許諾契約を再度ご覧になってみて下さい。ちゃんとエージェンシーの免責事項 「写真の著作権以外の権利侵害の可能性はあるが、エージェンシーの責任ではない。」 が入っていると思いますよ。最終的な判断は、素材利用者の自己責任ということですね。

4.トラブルになりやすいケース
それでは、被写体に何らかの権利がある場合として、どのようなケースが考えられるでしょうか。ここでは、トラブルになりやすいケースをご紹介します。

(1)被写体が建築物(大写し)である場合
トラブル事例でよく聞きます。筆者も相談を受けたことがあります。
やはり素敵な建築物は絵になりますから、みんな使いたい。代表的なところでは、東京スカイツリーや著名な神社仏閣などでしょうか。

建築物は、著作権法の保護の対象になります。
といっても、全ての建築物が保護対象になる訳ではなくて、
①実用性や機能性とは別に、独立して美的鑑賞の対象となり、
②建築家・設計者の思想又は感情といった文化的精神性を感じさせるような造形芸術としての美術性を具備するような建築物に限り、著作権の保護対象となります。(注3)
この基準だと、東京スカイツリーや著名な神社仏閣は、建築の著作物になるといえそうです。(注4)

とはいえ、著作権は原則、著作者の死後50年を経過すると消滅します。東京スカイツリーはバリバリの現役ですが、著名な神社仏閣については著作権が消滅している可能性が高いでしょう。

それでは、「著名な神社仏閣は建築物の著作権が切れているので、権利フリーだ!」と考え、バンバン素材を使うことに問題はないかというと残念ながらそんなことはなくて、クレームが来るおそれは十分にあります。
「権利がないのになぜ?」と思われることでしょう。重要なのは、「権利の有無にかかわらず、使われると嫌な人はクレームをよこす」という事実です。(注5)
「嫌だ」の理由が、信仰に関わる宗教的な理由に起因するのか、神社仏閣のビジネス上の理由に起因するのか、真相はわかりません。
ともかく、違法かどうか(裁判で勝てるか)と、クレームがくるかどうかは、全く別次元の問題なのです。 

これを踏まえ、素材を利用するあなたが考えなくてはならないのは、
「適法であれば文句を言われる筋合いはない」として、クレームをものともせず進むのか、
それとも、「いかなるクレームをも受けたくない」のか
・・・ということです。

これにより、素材の採否の結論が、180度変わると思います。
デザイナー個人としては前者の立場であっても、クライアントのことを考えると後者の立場に立たざるを得ない場合もあるでしょう(クレームが付いたために、全国規模での商品自主回収となることもある)。

このような状況に置かれたとき、デザイナーとして、また企業として、どう行動するのか、スタンスを明確に定めておく必要があります。というよりも、本来的には、スタンスを定めておかないと、そもそも素材の採否の決定ができないはずです。

(2)被写体がブランドもの(大写し)である場合
この場合、注意が必要なのは、商標が大写しになっているケースです。

商標というのは、商品やサービスの出所を識別するための文字や図形のことで、著名なものでは「SONY」や、ナイキのスウッシュマークなどがあります。商標が大写しになった写真素材を商品や広告に使ってしまうと、需要者が商品やサービスの出所を間違えるおそれが生じますし、SONYやナイキからすると、「うちのブランドにただ乗りされている」ように見えるでしょう。
そうすると、商標権侵害や不正競争防止法違反で訴訟を提起されかねません。なお、広告業界では、写真に商標や商品が写り込む場合、可能な限り、使用の許可をもらうそうです。これもトラブルに発展させないためのひとつの方法だと思います。

他方、商品や広告に使用するケースではありませんが、ブログをはじめとしたメディア記事に写真を載せる際にも、注意が必要です。例えば、「コーヒーの飲みすぎが体に悪い」という記事を載せるときに、某有名コーヒー店の写真を併せて掲載したらどうでしょうか?掲載した方に悪気はなくても、当該コーヒー店にしてみれば、「イメージダウンに繋がるし、営業妨害だ」と感じるかもしれません。こんなところにも、トラブルの種は潜んでいます。

(3)被写体が人(大写し)である場合
人には肖像権があります。肖像権とは、みだりに自己の容ぼう等を撮影されない権利のことです。(注6)

したがって、他人の肖像が大写しになっており、個人を特定できてしまうような素材の扱いには、細心の注意が必要です。とりあえずのスタンスとして、モデルの許諾があるかどうか不明な素材については、使わないのが賢明といえます。
実際に、通りすがりの人を撮影し、無許諾でウェブサイト上に掲載した行為について、肖像権侵害が認められたケースがあります。(注7)
他方、群衆が背景になっている場合など、他人の肖像ではあるが大写しではなく、個人を特定できないような素材の場合は、肖像権を気にする必要はないと考えます。

(4)被写体が美術品(大写し)である場合
著作権法の保護対象に、美術の著作物というのがあります。絵画などがイメージしやすいでしょうか。

ところが、美術の著作物というのは、おそらく一般の方が考える美術品よりも広い。青森県にねぶたという祭りがありますね。その山車灯篭(大きな武者絵や人型が特徴)の写真について改変を加えた行為が、山車灯篭(美術の著作物)の著作権を侵害するとして、事件になったことがあります。
原告が勝訴し、被告には700万円の損害賠償が命じられました。被告は、写真は有料インターネットサイトで購入したものであり、違法性の認識はなかった旨の反論をしましたが、認められませんでした。
有料で素材を購入したにもかかわらず、不用意な改変をしたために、損害を賠償する羽目になりました。(注8)

(5)トリミング等の加工をする場合
写真がアナログからデジタルになったことにより、1枚の写真から、特定の建築物、特定の商標、特定の人物などを、鮮明にクローズアップしてトリミングすることが可能になりました。トリミングは便利な反面、権利侵害の側面から見ると、極めて危険な行為です。もともと被写体との関係で法律上の問題がなかったとしても、トリミングして被写体を大写しすることによって、権利侵害の問題が事後的に生じることがあります。また、被写体を改変することにより、(4)のケースのように、被写体の権利者との間でトラブルになるおそれがあります。
利便性の裏に潜む危険性に、十分ご注意下さい。

5.素材利用をめぐるトラブルを避けるために
以上、駆け足でモデルケースを見てきました。 いずれも、「大写し」という言葉が強調されていたことに、お気づきでしょうか?

(1)大写しのものを避ける
例えば、街の風景写真を撮影する際に、どうしても著名な建築物が一部に入ってしまうこともあるでしょう。このような場合であっても、当該建築物が写真全体のウェイトにおいて軽微な構成部分にすぎないといえる場合には、当該建築物の撮影が著作権侵害にならない可能性が高いです。(注9)
街の風景写真を撮って、無数の商標が入ってしまう、これも仕方ありません。これらが全て権利侵害になってしまうと、風景写真など怖くて撮れませんし、そんな素材は使えませんよね。

しかし、もっと深く考えると、どこまでが「大写し」で、どこまでが「軽微な構成部分」なのか?という問題は、依然としてあります。この判断は、ケースバイケースになります。具体的な判断に迷ったら、弁護士や弁理士にご相談下さい。

(2)法律も重要だが、大切なのは敬意を払うこと
デザイナーであっても、企業であっても、経済活動を営む以上、ルール(法律)を守らなければなりません。ルールを守らない人は、しっぺがえし(訴訟を提起され、敗訴により差止や損害賠償など)を食らう仕組みになっていますし、何より信用を失いかねません。その意味において、法律を守る姿勢は必要不可欠です。しかし、上述の通り、法律を遵守したとしても、クレームは発生するおそれがあります。

それでは、どのようにすればクレームを回避することができるのでしょうか?

私は、クレーム回避のポイントは、被写体を「大写し」にしない、そして被写体を「不用意に改変しない」など、権利者に対する気配りにあると思っています。

「大写し」にしないということは、特定の被写体に近づきすぎないということです。特定の建築物に、特定のブランドに、特定の個人に、特定の美術品に、迂闊に近づきすぎない。そして、「不用意に改変しない」とは、被写体にこめられた創作者の想いを尊重するということです。

近づきすぎると、人は「マネされた」と思って感情を害します。「自分のビジネス領域を荒らされた」と思って排除しようとします。また、自分の創作だと思っているものを無断で改変されると、「自分の創作が汚された」と感じて反発します。そうすると、クレームの原因になるし、事件にもなりやすい。

被写体、そして被写体の向こうにいる人たちに敬意を払って、必要以上に彼らのテリトリーに踏み込まない。それを意識するだけで、事件化のリスクを下げることができるのではないでしょうか。

-文中の注記を以下にまとめます。-

(注1)
写真の著作権者との間で適切な権利処理がされていない写真をビジネス利用した場合、当該写真の著作物の複製権等の侵害となり得る(著作権法21条等)。また、一見「写真の利用OK」とされていても、複製(写真をそのまま使用)はOKだが、翻案や改変(写真を加工して使用)はNGということもある。契約で許諾されている利用態様について、注意を要する。
(注2)
各権利者が1人という前提で説明しているが、権利が共有になると、権利処理はより複雑になる。
(注3)
大阪高裁平成16年9月29日判決(平成15年(ネ)第3575号、グルニエ・ダイン事件)は、建築の著作物について美術工芸品及び応用美術に類似するとした上で「一般住宅が同法10条1項5号の『建築の著作物』であるということができるのは、客観的、外形的に見て、それが一般住宅の建築において通常加味される程度の美的創作性を上回り、居住用建物としての実用性や機能性とは別に、独立して美的鑑賞の対象となり、建築家・設計者の思想又は感情といった文化的精神性を感得せしめるような造形芸術としての美術性を備えた場合と解するのが相当である。」と判示している。
(注4)
建築の著作物は、建築による複製及びその複製物の譲渡による公衆への提供は禁止されているものの(著作権法46条2号)、原則として、自由に利用することができる(著作権法46条柱書)。しかし、建築の著作物であり、かつ、美術の著作物であるといえるような建築物については、建築物の写真を商品に使用等する行為が、「専ら美術の著作物の複製物の販売を目的として複製し、又はその複製物を販売する場合」(著作権法46条4号)に該当するとして、著作権侵害となる余地がある。加戸守行『著作権法逐条講義 六訂新版』348頁は、「万博会場の『太陽の塔』のように建築作品ともいえるし、彫刻美術品ともいえるような二面的解釈の可能な作品を市販カレンダーに入れる場合には、本号の適用があると解すべきでしょう。」とする。同様の点につき、田村善之『著作権法概説 第2版』211頁は、「・・・著作物と評価しうるようなものは、いずれも美術の著作物と評価しうるようなものばかりであり、取扱いを違える理由はない(東京タワーも美術の著作物たりうると思う。)」と述べている。
(注5)
モノのパブリシティ権という考え方が存在する。
モノに顧客吸引力がある場合、モノ自体の経済的価値を認め、これを保護しようとする考え方である。最高裁平成16年2月13日判決(平成13年(受)866号、ギャロップレーサー事件)は、この考え方を否定している。
(注6)
最高裁昭和44年12月24日判決(昭和40年(あ)1187号、京都府学連事件)は、「憲法一三条は、『すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。』と規定しているのであって、これは、国民の私生活上の自由が、警察権等の国家権力の行使に対しても保護されるべきことを規定しているものということができる。そして、個人の私生活上の自由の一つとして、何人も、その承諾なしに、みだりにその容ぼう・姿態(以下『容ぼう等』という。)を撮影されない自由を有するものというべきである。」として、肖像権を認めている。
さらに著名人の場合、ヒトに顧客吸引力・経済的価値があるとして、パブリシティ権が認められることがある。最高裁平成24年2月2日判決(平成21年(受)2056号、ピンク・レディ事件)は、「肖像等は、商品の販売等を促進する顧客吸引力を有する場合があり、このような顧客吸引力を排他的に利用する権利(以下「パブリシティ権」という。)は、肖像等それ自体の商業的価値に基づくものであるから、上記の人格権に由来する権利の一内容を構成するものということができる。」と判示している。
(注7)
東京地裁平成17年9月27日判決(平成16年(ワ)18202号、街の人事件)。
(注8)
青森地裁平成25年2月22日判決。
(注9)
いわゆる「写り込み」には複製権等が及ばない旨の規定として、著作権法30条の2がある。

以上
 

活動報告


第6回 D-8(デザイン8団体協議会)デザイン保護研究会 参加

日  時:2019年3月20日(水)18:30〜20:30
会  場:(公社)日本サインデザイン協会会議室 (東京都千代田区神田和泉町2-9 富士セルビル4F)

JPDAからは、デザイン保護委員会より高田知之理事、徳岡健委員長出席。
日本デザイン保護協会 本多誠一氏、特許庁企画支援課 原川宙氏がオブザーバーとして出席。
以下は、各協会からの参加委員数。
・JIDA(公社)日本インダストリアルデザイナー協会は1名。
・JAGDA(公社)日本グラフィックデザイナー協会より1名。
・JJDA(公社)日本ジュエリーデザイナー協会より1名。
・JCDA(公社)日本クラフトデザイン協会より1名。
・JPDA(公社)日本パッケージデザイン協会より2名。
・JID(公社)日本インテリアデザイナー協会より1名。
・SDA(公社)日本サインデザイン協会より2名。
・DSA(一社)日本空間デザイン協会より1名。
D-8デザイン保護研究会委員長(SDA)の司会にて会議進行。

<議事概要>
●D-8運営会議の報告
・委員長より無償コンペ、デザインの入札案件、デザインミュージアム、意匠制度について意見、等の報告
●意匠制度の見直しについて
・特許庁原川氏より全体スケジュールの説明
・空間デザインや街並などについて、形だけでしばるのは自由度がなくなり、あまり良くないのではないか
 D-8デザイン保護研究会で事前に細かな具体事例などをチェックすることはできないか、等の意見有り
●前回の議事録確認
●各協会より知財関連の情報提供
・各協会のデザイン賞、デザインコンペ等の報告
・JPDAからは2月実施のストック素材のセミナーについて概要説明と報告
●D-8デザイン保護研究会主催の「知財セミナー」企画について
・委員長からの素案をもとに、検討討議
・テーマ:「意匠法改正について」 特許庁に講師をお願いする予定
・実施時期:国会の審議スケジュールにより再度検討する
・対象:D-8会員以外にも参加していただけるように実施予定
・その他、毎年同じテーマ、同じ時期にセミナーを実施することも検討して良いのではないか、等の意見有り
・次回の研究会で詳細を再度検討
●6月より幹事協会がSDAよりDSAに移管、研究会の委員長の交代(立候補があれば)も次回検討
●次回は2019年5月22日(水)18:30よりSDA事務局会議室にて開催予定
(報告/デザイン保護委員会委員長 徳岡 健)

 


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