デザインの権利と保護

Vol.122 著作権侵害と非侵害、その境界とは

2020.11.25

「デザインの権利と保護」では、これまで著作権について様々な原稿をお願いしてきました。今回は、いくつかの裁判例を題材に、著作権の範囲に属するかどうかについて、分かり易い原稿をお願いしました。また、はじめての試みとして、判決文は難解な場合が多いですので、本文から除いて別途リンクで表示し、皆さんに読みながら考えて頂くようにQ&Aを書いて頂きました。面倒な依頼に快く応じて頂いた川本弁理士に感謝いたします。

(2020年11月25日 編集・文責:デザイン保護委員会 担当 山本 典弘)

◆このページに限らずVol.1~これまでに掲載した内容は著作権・他で保護されています。
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情報発信

著作権侵害と非侵害、その境界とは

しろくま特許事務所   弁理士 川本 篤

今回、非常に難しいお題を頂きました。タイトルの通り、著作権侵害と非侵害の境界を分かり易く説明してほしいというもの。正直に申し上げますと、私が知りたいと思っているぐらいです(笑)。
明確な基準を設けることは困難ですが、裁判で実際どのように侵害/非侵害が判断されているかを考察することで、注意すべき点が明らかになると思います。そこでいくつかの事件を参考に、著作権侵害の成否がどのような考え方で行われているかを解説したいと思います。

複製権と翻案権

著作権侵害において模倣したかどうかは、分かり易くいえば、作品をまるまる真似したかどうかを問う「複製権」と、もととなる作品の一部を変えて真似したかどうかを問う「翻案権」の問題となります。既存の著作物を参考にした上※1で、既存の著作物とほぼ同じもの創作したのであれば複製権の侵害、同じではないが似ているものを創作したのであれば、翻案権の侵害といえます。

複製権、翻案権の侵害において、侵害の成否を分けるキーワードは、既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得できるかどうかです。既存の著作物の表現上の本質的な特徴がそっくりそのまま感得できれば複製権侵害を構成し、既存の著作物に新たに表現を加えてもなお既存の著作物の表現上の本質的な特徴が感得できる場合は翻案権侵害を構成します※2。つまり、既存の著作物の表現上の本質的な特徴が共通すれば著作権侵害となる可能性が高くなります。では、「既存の著作物の表現上の本質的な特徴」とは一体どのような特徴をいうのでしょうか。

著作権侵害事件では、まずは対象となった作品の著作物性が判断されます。著作物性は対象作品に創作性があるか否か(高いか低いか)により判断されます※3。裁判では、著作物性の認定の際、その対象作品のどの点が、創作性がある表現部分であるのかが認定されます。創作性があると判断された表現部分は、その著作物の最も特徴的となる部分であるといえます。つまり、「著作物の表現上の本質的な特徴」=創作性がある(高い)表現部分といえるでしょう※4。既存の著作物の創作性がある表現部分を含む形で模倣した場合(創作性がある表現部分が共通する場合)、他に差異があっても侵害となる可能性が高くなるということです。
では、この前提を踏まえて、実際の事件でどのような判断が下されたのかを確認してみましょう。

ケース1 同人誌写真イラスト化事件

(東京地裁平成29年(ワ)672号 平成29年(ワ)第14943号 [反訴])
この事件は、写真素材を有償で提供する原告が、この写真に基づき作成したとみられるイラストを同人誌の一部に掲載した被告に対し、著作権(複製権及び翻案権)侵害を理由に訴えた事件です。
結論を急ぎたいところですが、折角の機会ですので本件が著作権侵害かどうか一緒に考えていきましょう。

Q1 原告写真の創作性はどこにあるでしょうか(原告写真の表現上の本質的な特徴はどこか)?
Q2 被告イラストは原告写真と似ていると考えますか?

A1 裁判では、原告写真の創作性は「被写体の配置や構図,被写体と光線の関係,色彩の配合,被写体と背景のコントラスト等の総合的な表現」にあると判断されました。原告著作物が写真であることも考慮されております。

A2 裁判では、原告写真と被告イラストは似ていないと判断されました。両者には共通点が存在します。具体的には、「右手にコーヒーカップを持って口元付近に保持している被写体の男性の,右手及びコーヒーカップを含む頭部から胸部までの輪郭の部分」が共通します。
しかしこれは、創作性があると認められた部分ではありません。あくまで原告写真の表現上の本質的な特徴は「被写体の配置や構図,被写体と光線の関係,色彩の配合,被写体と背景のコントラスト等の総合的な表現」にあるのであって、この部分が共通しているわけではないことから、複製権・翻案権を侵害しないという結論となりました。

一点注意して頂きたいのは、写真を元にイラスト(絵)を描くといったように、表現物である媒体を変更したからといって、必ずしも著作権侵害を免れるわけではないということです。本件は創作性があると判断された表現部分が、たまたまイラストに表現されていなかっただけであり、表現媒体を変更してもなお創作性がある表現部分が共通する場合は、翻案権(複製権)の侵害となる可能性があります。

判決文など詳細はコチラ

創作性の判断

ケース1では、「著作物の表現上の本質的な特徴」=創作性がある表現部分に着目しました。次点で問題となるのは、創作性の考え方です。創作性があるか否か、また創作性が高いか低いかを客観的に判断するのは非常に難しいです。様々な事情を勘案して判断されますが※5、分かり易い例として、その表現がありふれた表現であるかどうかを参考にすることができます。
法上、著作物性の判断においては、意匠のように新規性が問われることはありません。創作物が客観的に新しかろうが古かろうが著作物であることに変わりはありません。ただ、裁判となると新しいもの≓創作性がある(創作性が高い)と判断されている傾向にあります。ありふれた表現は誰しもが簡単に形にできるものであり保護に値しないこと、また、これを保護してしまうと創作活動に支障を来す場面も増えることが容易に推測されるため、このように判断されているものと考えます。
では、実際の裁判に基づいて創作性の有無を一緒に考えていきましょう。

ケース2 コンタクトレンズ広告事件

Q3  一見、両広告は構成の殆どが共通するようです。本件は著作権侵害を構成するでしょうか。

A3 両者を見比べると、被告広告は、原告広告を殆どまるパクりしているように思えます。しかし裁判では、原告広告のような広告は個性が現れているということはできない上に、着色や「!」を付して強調すること等は、広告においてありふれた表現方法に過ぎないのであるから、そもそも創作性はないものであり、著作権侵害を構成しないと判断されました。

既に述べた通り、著作権侵害事件においては、創作性のある部分の共通性に基づき判断されるものですから、創作性がないと判断された場合は、著作権侵害を構成しません。

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アイデアと表現

著作権侵害/非侵害を考える上で、もう一つ重要な要素があります。著作権の保護の対象となるのは、あくまで創作的な表現であって、アイデアではないということです。ゆえにアイデアのみが共通していても著作権侵害とはなりません。具体的に形に表れている表現が共通した場合にのみ著作権侵害を構成します。アイデアと表現の境界も判断し難いところではありますが、これも実際の事件でどのような判断がなされたのかを検討することにしましょう。

ケース3 博士イラスト事件

Q4 原告イラストと被告イラストにおいて、表現部分はどの点でしょうか。またアイデア部分はどの部分でしょうか。
Q5 Q4を踏まえて表現と判断された部分に創作性はあるでしょうか。

A4 裁判では、両イラストに共通する「角帽やガウンをまとい髭などを生やしたふっくらとした年配の男性」といった点はアイデアの範疇であり、博士イラストの具体的な表現(髭や輪郭といった細部)が表現であると判断されました。

A5 博士イラストの具体的な表現(髭や輪郭といった細部)は、きわめてありふれたもので表現上の創作性があるということできないと判断されました。つまり本事件においては、共通するのはアイデアの範疇である「博士のイメージ」と、創作性がない表現部分である「博士イラストの具体的な形、色など」にとどまるため、著作権侵害を構成しないという結論です。

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ケース4 釣りゲータウン事件

では、これまでのおさらいとして、釣りゲータウン事件ではどのように判断されたかを確認していきましょう。共通する部分が表現であるのかそれともアイデアであるのか、また、表現部分に創作性があるのかそれともないのか(高いのか低いのか)に注意して考えてみて下さい。

Q6 本件は著作権侵害を構成するでしょうか?

A6 この事件は一審と二審で結論が異なります。一審では翻案権侵害が認められたものの、続く第二審では結論が覆り、非侵害となりました。

第二審において、魚の引き寄せ画面はアイデアなど表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分が共通するにすぎない、また、三重の同心円は共通するものの、当該部分はアイデアの範疇である。それゆえ、著作権侵害を構成しないという判断です※6。ありふれた表現であるかどうかは、作品完成時を基準に、他にどのような作品が存在していたか等をもとに判断されています。

判決文など詳細はコチラ

まとめ

複数の裁判を確認していきましたが、どこまで似ていれば侵害となるかの境界を明確化するのはやはり難しいものがあります。一見似ていても、似ている部分がアイデアや創作性のない(低い)表現部分であれば、著作権侵害を構成しないことも、侵害/非侵害の境界設定の難しさを物語っています。現に、今回取り上げた釣りゲータウン事件は、一審では侵害が認められたものの、二審では翻って非侵害となっており、このことからも判断の難しさをお分かり頂けると思います。
しかしながら、著作権侵害事件がどのような論拠をもとに進められるかを確認することにより、おぼろげながらその輪郭を確認することはできたのではないでしょうか。最後に著作権侵害/非侵害の判断の重要な要点を箇条書きでまとめます。著作権侵害/非侵害の境界を知るための手がかりの一例として認識頂ければ幸いです。

著作権侵害/非侵害の境界を知るための手がかり

・対象作品の著作物の創作性のある(高い)表現部分に着目する。
・創作性のある(高い)表現部分が共通する場合、著作権侵害となる可能性が高い。
・表現がありふれている場合には、創作性が低く見積もられる傾向にある(結果、創作性がない(低い)として非侵害となる可能性がある)。
・表現が新規の場合、創作性がある(高い)と判断される傾向にある。
・アイデアが共通するだけでは著作権侵害とはならない。
・写真からイラスト(絵)のように、表現媒体を変更したからといって著作権侵害を免れるわけでない。

※1 裁判上の立証の難しさはあるが、既存の著作物を拠り所として創作されたものでなければ著作権の侵害を構成しない。
※2 最高裁判所平成11年(受)第922号同13年6月28日第一小法廷判決 江差追分事件判決 翻案権の定義及び創作的表現が共通する場合には著作権侵害を構成することを明らかにした判例である。
※3 創作性とは一般に著作者の個性が発揮されていることと考えられている。
※4 「創作的表現の共通性」=「本質的特徴の直接感得性」とみるのか、「本質的特徴の直接感得性」に独自の意義を認めるかのということに関しては争いがある(田村義之 著作権法概説第二版58‐61頁、同氏 著作権判例百選第6版 90-91頁 44「創作性的表現の共通性」、駒田泰土同92-93頁 45「本質的特徴の直接感得性」3全体比較論と創作的表現共通説 参照)
※5 創作性の判断については「創作の選択の幅」論がある(中山信弘 著作権法第二版65頁 参照)。
※6 釣りゲータウン事件は全体比較論の判断手法に依拠した判決である。(駒田泰土 著作権判例百選第6版 92-93頁 45「本質的特徴の直接感得性」3全体比較論と創作的表現共通説 参照)。

以上

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