デザインの権利と保護

Vol.120「デザイン創作過程における留意点/知財塾第2回」

2020.3.5

知財塾第2回目は、デザイン業務の依頼や受注の際に留意しておくべき知的財産の権利の取り扱いについて、デザインの創作過程のどこに、どのような権利が発生するのかを、そしてその権利の保護の方法についてが、「コンセプト開発」→「デザインの具体化」→「製品化」までの流れの中で解説される授業となりました。

具体的には、次の講義がありました。
・デザインの依頼・受注時の留意点。
・デザインコンセプトの開発時の留意点。
・デザインの原案・最終案の決定時の留意点

最後に、【改正意匠法】※についての紹介があり、パッケージデザインに関係の深いところでは<意匠権の存続期間の変更/登録日から20年→出願日から25年><関連意匠制度の見直し→強化><出願手続きの簡素化>などを学びました。
※【改正意匠法】は本年(2020年)4月に施行されます。

知財塾に参加されなかった方々にも講義内容をお伝えしたく、当日の講師にお願いして、本ページの■情報発信&活動報告A-「知財塾」講義内容の紹介-として掲載いたしました。

(2020年3月5日 編集・文責:デザイン保護委員会 担当 丸山 和子)

◆このページに限らずVol.1~これまでに掲載した内容は著作権・他で保護されています。
無断転用はお断りいたします。引用の場合は引用部分を明確にし、出所の明示をお願いいたします。
 

情報発信&活動報告A


知的財産の留意点<創作から生まれる権利>第2回JPDA知財塾実施報告

2020年2月4日(火) 講義時間15:00~17:30
会場:東洋インキ株式会社 大会議室(京橋エドグラン29階)
講師:永芳太郎弁理士/みずの永芳特許事務所 所長
塾生:13名全員参加


第2回講義風景/撮影:デザイン保護委員 丸山和子

前号でお伝えしましたがJPDA知財塾は、10年前に一度、期間を空けて4回をワンクールで実施し、その時の塾生10名の内の2名が現在デザイン保護委員として活動しています。
今回の知財塾の開催側にまわっての感想をお伝えします。

< 第一期知財塾生 現デザイン保護委員 斎藤郁夫 >

知財塾の第1日目、第2日目と2回の知財塾に立ち会っての感想を、一期生の目で述べさせていただきます。

第一期知財塾は2010年12月から始まって全4回と、今回より1回多く実施されました。
この(約)10年の間に、ずいぶんと法令が改正されたり増えたと思いました。今回紹介された事例は非常に多く、範囲もずっと広くなった印象です。

前回の人数は10名で今回より少なく、場所も狭かったせいか、参加者同士がもっと固まって座っていて、今回が「講義」とすると前回は「座談会」といった印象があります。
「座談会」と言ったのは、もちろん先生からの講義はあったのですが、それを受けての参加者同士の発言の場がもっと多かった印象です。(悩み相談や愚痴も含んで)

前回も今回も、デザインを発注する側の立場の方と、デザインを依頼される立場のデザイナーの方が混在していますが、前回の方がデザイナーの方の比率が多かったように思います。
メーカー側は、亀田製菓株式会社デザインチーム、LOTTE商品開発部デザイン企画室、森永製菓株式会社デザイン室、理研ビタミン株式会社 食品開発部、竹本容器株式会社からの参加がありました。

参加者同士の発言の中でも、特にデザイナーの方々からの日々のクライアント企業とのやりとりにおける悩み、問題提起が多かったと記憶しています。

デザイナーの方によっては、不採用なデザインはフィーを支払われなかったり、不採用になったはずのデザインがいつの間にか使用されていたり、リニューアルの際にデザイン会社が別のところに変わってしまったが、どう考えても元のデザイン資産は自分たちのものを利用し改編されているので釈然としない・・
といったご意見があったり、コンペで負けた場合一切支払われない、契約書に不利な条項が盛り込まれているが承諾しないと仕事がこないのではと思い、受け入れざるを得ない・・・・云々がありました。

もちろん弊社はそのようなことは決してしていませんが(最後の契約書を除き※)その場にいづらくなったことをよく覚えています。※契約書は弊社に限らず、多くの場合、「著作者人格権は行使しない」という条項が盛り込まれているので、せっかくの人格権が形骸化しているのが現状です。

内容は今回の方が高度で盛り沢山のため、座学っぽくなり、急ぎ足になりがちなため、途中に質問をはさみずらく、Q&Aの時間もあまりとれないため、参加者の中には消化不良の方がいらっしゃるかも知れません。

最終回に向けて、永芳先生はたくさんの教材をご準備されていることと思いますが、教材の量を減らしていただいてでも、後半1時間くらいは参加者からの質問や相談、意見交換の場に裂いていただけると、そのあとの懇親会への流れもスムーズで、万一時間切れになっても積み残した質疑は懇親会の場でお話合いができればいいなぁ~。と思います。

個人的な印象ですが、10年の年月を経てもデザイナーの方が抱える、主として権利関係やデザインフィーに関わる課題はあまり変わっていないような気がします。
ヘタをすると、WEB経由の新たなデザイン発注の仕組みの登場で後退してしまった恐れもあります。
(食品会社 資材部 包材担当)

< 第一期知財塾生 現デザイン保護委員 高林めぐみ >

第1期知財塾から10年が経ちました。当時私はフリーランスデザイナーから企業のインハウスデザイナーになったことで、それまでの状況と180度変わり、戸惑うことがたくさんあり、そこで学ぶ機会を得たのがJPDA知財塾でした。

契約書の重要性、著作権とは?商標とは??意匠とは???特許とは????仕事を依頼する側、請け負う側の両者が安心して仕事を進めるために知らなければいけないことばかりでした。
私と同様、インハウスデザイナーの方のトライ&エラーや、デザイン会社のデザイナーの進捗上の苦悩など、それぞれの立場で話ができ、次の一歩を踏み出す後押しになりました。

ここ数年でデジタルデザインの分野も大きく加速し、さらに情報量は膨大です。安価で手軽に入手できるデザイン素材やコンペティションサイトなど、注意しなければいけない「知的財産」も数多あります。そういう時代だからこそ、日々変わる情報や更新される法律にアンテナを張って、デザイナー同士が共有し、理解を深めることができるのも知財塾です。
回を重ねて、意見や質問が飛び交い、知財の苦手意識をなくし、むしろ知財と寄り添って仕事ができるのが理想だと思います。
(メーカー 商品開発部 デザインチーム)

 

-「知財塾」講義内容の紹介-

第1回(11月26日)で、意匠権、著作権、不正競争防止法など知的財産の概要をおさらいした「知財塾」は、2月4日に第2回として「デザイン創作過程における留意点」の授業を行いました。

1.デザインの依頼・受注時の留意点
デザイン業務の依頼や受注の際に、その内容を明確にしておくことが無用な行き違いを起こさないために必要ですが、業務依頼の契約は、「当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。」と規定されており(民法第632条 請負)、口約束でも合意があれば成立します。

しかし、行き違いによる紛争を予防し、トラブルが起きたときに契約の存在と内容を証明する有効な手段として、書面によって契約を交わすことが望まれます。デザイン業務の委託契約や創作物の利用に関する契約の具体的な注意点については、次回第3回の知財塾で確認する予定です。

2.デザインコンセプトの開発時の留意点
既存の商品の傾向をまとめたマップなどから市場のトレンドを把握して、デザインコンセプトの検討を行う際に、既存デザインの把握とともに、権利の有無を調査してデザインの実施に支障がないことを確認することが必要です。

特許権、実用新案権、意匠権、商標権は、たまたま似てしまった場合にも権利侵害になる強い権利ですが、権利内容が公報で公示され、調査をするデータベースが用意されているので(J-PlatPat : https://www.j-platpat.inpit.go.jp/)、思いがけず侵害になってしまうことを回避するために、デザインコンセプトの検討に併せて権利関係の確認調査をすることが大切です。
創作とともに手続きを要さずに権利が発生する著作権については、全ての存在を確認することは困難ですが、著作権は、近似するものであっても独自の創作には権利が及ばないので、他人の模倣をしない創作をすることが侵害の回避になります。

更に、無用な権利侵害に至らないように、提供されるデザイン素材(容器の形状、写真、イラスト、キャラクターなど)が、利用許諾を得ているのものであるか、自由に加工して良い素材であるかなどを確認することも必要です。

3.デザインの原案・最終案の決定時の留意点

(1) 創作によって発生する権利
著作物(写真、イラストなど)は、創作によって、無断で複製されたり改変されない権利(著作権・著作者人格権)が発生しますが、デザインに関する意匠権は出願して登録を受けないと発生せず、創作時には、「意匠登録を受ける権利」が発生します。
この意匠登録を受ける権利を有していない者(創作者でない者や創作者から受ける権利を譲り受けていない者)の出願(冒認出願)は、登録を受けることができず、登録を受けても無効事由があるものとなります。
なお、共同で創作した発明やデザインは、共同で出願しなければなりません(特許法73条)。共有に係る権利は、共有者の同意を得ずに実施できますが、持分の譲渡は同意なくすることができません。

また、従業者の行った発明について、青色発光ダイオード事件(2004年1月30日、発明者に200億円の支払いを命ずる東京地裁判決。2005年1月、発明者に8億4000万円を支払うことで和解)を契機として、会社の予期せぬ負担を回避するとともに、発明者が発明の価値に応じた利益を得られるように法整備が行われています。
①従業者が行った、
②会社の業務範囲に属する発明(デザイン)であって、
③従業員の職務として行われた発明(デザイン)は、
「職務発明」(職務創作)として、会社が、契約や規則で登録を受ける権利を創作時から会社のものとすることができ、一方従業者は、相当の利益(相当の金銭その他経済上の利益)を受けることができます(特許法35条)。

(2) 意匠の類否判断のポイント
J-PlatPatの調査で、デザインの原案や最終案と似た要素がある登録意匠が発見された場合、両意匠が類似するか否かについて的確な判断が求められます。

意匠の類否判断手法については、特許庁は新規な創作を評価し、裁判所は商品の誤認混同が起きるか否かを評価する、と説明されていたことがありますが、以下のように、裁判所の判断手法や特許庁の意匠審査基準に示されている判断手法は大きく異なるものではなく、「公知の意匠」や「先行意匠群」を参酌して、「意匠の要部」、「注意を引く部分」を見定め、そこにおいて「構成態様を共通にしているか否か」、「共通点及び差異点」を評価する、ということになります。

・特許庁の意匠審査基準に示された「意匠の類否判断の手法」

(3) 類否判断の基礎となる資料
J-PlatPatで行った先行意匠調査の結果を評価するときに、「関連意匠」と「参考文献」が類否判断の基準を把握するために有効な資料になります。

① 「関連意匠」の確認
「関連意匠」に着目して、調査で抽出された似ている要素のある登録意匠について、それらの意匠同士が関連意匠(類似する意匠)として登録されているか、単独で(類似しない意匠として)登録されているかを確認することで、その分野における類否判断の基準を知ることができます。

例えば上記タイヤの事例では、基本的な構成に共通する要素があってもそれぞれ単独で登録され、類似する意匠とは判断されていないことが確認できます。
更に、右側3つのタイヤを見ると、本意匠(登録1337993)に対して、右側のタイヤ(登録1338228)は類似すると判断され(関連登録)、左側のタイヤ(登録1276846)は類似しないと判断(単独登録)されています。
これらによれば、この分野の類似する意匠の範囲は比較的狭くて、基本的な構成の共通性だけで類否が決せられることなく、各溝が直線的に形成されているか、サヤエンドウのような曲線的な形状であるか、という違いが類否判断を左右する要素になっていることが把握されます。

② 「参考文献」の確認
登録意匠公報に「参考文献」として掲載されている文献は、審査段階で抽出されながらその登録意匠とは類似しないと判断された文献なので、やはり、その分野における類否判断の基準を知る貴重な資料といえます。

J-PlatPatでは、検索結果を表示する画面中の「参考文献情報」をクリックすることで参考文献の一覧が表示され、表示された参考文献から更にその参考文献を探ることができるので、周辺情報を効率よく集めるとともに、近似する要素がありながら類似しないと判断された意匠同士の態様を確認することができます。

4.改正意匠法の概要・留意点
2019年5月に公布された、画像そのもののデザインや建築物のデザインを保護対象に加える改正や、創作デザインの保護を強化する関連意匠制度の見直しなどを含む改正意匠法が、本年(2020年)4月に施行されます。

(1) 保護対象の拡充
保護対象について、これまで市場に流通する製品の外観形状を保護対象としていた意匠法に、土地に定着した不動産である「建築物」や、物品の形状等ではない「画像」そのもののデザインを加えるために、意匠法の根幹である意匠の定義が以下のように改正されています。

(2) 関連意匠制度の強化
現在の関連意匠は、以下のように関連意匠に類似する意匠(関連の関連)は登録を受けることができず、また、本意匠の公報発行後は、本意匠に類似する意匠が登録を受けられないので、本意匠に類似する意匠の範囲を明示する関連意匠の機能を発揮することができませんでした。

改正された関連意匠制度は、本意匠と同一または類似の自己の公知意匠(実施品など)は、関連意匠出願の拒絶理由としない旨が規定され、本意匠の出願から10年まで関連意を出願して登録を受けることができます。また、関連の関連も関連意匠として登録を受けることができるので、幅広い権利による製品デザインの保護が実現できると思われます。

一方、関連の関連が連鎖する中で、途中の本意匠が消滅した場合、その本意匠と同一または類似の公知意匠は、その後の関連意匠出願の拒絶理由になるという運用があることや、基礎意匠と称される大元の本意匠の存続期間の満了とともに、付随する全ての関連意匠も消滅することなどに注意しながら、新しい関連意匠制度を活用して幅広く強い保護を確保していくことが大切だと思われます。

(以上当日の内容のまとめ:講師/永芳太郎弁理士)

 

活動報告B


D-8(デザイン8団体協議会)デザイン保護研究会 参加報告

日  時: 2020年1月29日(水)18:30〜20:30
会  場:(一社)日本空間デザイン協会会議室 (東京都港区元赤坂1-1-7 赤坂モートサイドビル4階B)
JPDAからは、デザイン保護委員会より高田理事、徳岡委員長出席。
日本デザイン保護協会 本多誠一氏がオブザーバーとして出席。
以下は、各協会からの参加委員数。
・JIDA(公社)日本インダストリアルデザイナー協会より2名
・JAGDA(公社)日本グラフィックデザイナー協会より1名
・JJDA(公社)日本ジュエリーデザイナー協会より1名
・JPDA(公社)日本パッケージデザイン協会より2名。
・JID(公社)日本インテリアデザイナー協会より1名。
・SDA(公社)日本サインデザイン協会より2名。
・JCDA(公社)日本クラフトデザイン協会より1名。
・DSA(一社)日本空間デザイン協会より3名
D-8デザイン保護研究会 藤井委員長(SDA)の司会にて会議進行。
<議事概要>
●各協会より知財関連の情報提供、報告
・JAGDA/大阪で知財セミナー実施の報告。
3月6日パッケージの知財についてのセミナーを実施予定。
大阪万博、アジア大会のマークの規定について働きかけを行っている。
・JPDA/知財塾についての報告。
6月より実施予定の「デザインの学校」について報告。
・SDA/ID5(意匠5庁:日本、アメリカ、ヨーロッパ、中国、韓国の意匠分野における意匠庁)
の会合についての報告。
6〜9月頃知財セミナーを検討中
・JDDA/クラフト展実施の報告
●特許庁知財セミナーについて
2020年4月頃を予定 会場、特許庁にスケジュールを確認。
テーマ:意匠法改正について(インテリア、内装、建築についてメインテーマに)
詳細は次回3月のD-8デザイン保護研究会にて検討
●次回は2020年3月17日(水)18:30よりDSA事務局会議室にて開催予定
(報告/デザイン保護委員会委員長 徳岡 健)

 


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