ご当地レトルトカレー・パッケージデザイン考 1)探索の旅が始まる
JPDA調査研究委員会で2013年度に実施した事業者調査でいくつもの特産品開発事例が集まりました。
そこには「淡路島しらすカレー」(兵庫県南あわじ市)、「白桃ピオーネカレー」(岡山県新見市)と2件のレトルトカレーが掲載されています。(その後、独自に収集した他のご当地レトルトカレーも追加しました)
>>> 特産品開発 事業者事例集
委員として調査に関わった筆者のご当地レトルトカレー探索の旅はこの時から始まりました。実際に旅に出なくても東京都内にあまたある自治体アンテナショップや百貨店で開催される物産展を巡るだけでもかなりの数を目にすることができます。一説には、全国にあるご当地レトルトカレーは1000種類を優に超えるといわれています。筆者の探索の旅はまだまだ途中で、その何割かに達したばかりですが、旅は道連れと申します、魅惑のご当地レトルトカレー・パッケージデザインの旅にお連れいたしましょう。(とはいえ、今回は全般的なことだけで、具体的な細かなお話は次回から。)
*ご紹介する個々のご当地レトルトカレーは、筆者が現物を入手し実食したものです。パッケージデザインを考察するうえで、パッケージ形態や構造を知る、表面だけでなく側面・裏面のグラフィックも見る等、どうしても現物を確認する必要があります。(なので実店舗で購入する) 参考のため購入価格(税込み)を記載しますが、時間経過や店舗によって異なる場合があります。デザインが変更されている場合もあります。なお、本稿は“パッケージデザイン考”なので、中身の味にはあまり触れません。あわせてご了承ください。中身に興味のある方は、レトルトカレー評論家の宮内見(みやうち・み)さんが、電子書籍『日本全国レトルトカレーの旅 ご当地レトルトカレーを食べつくせ!』(あの出版)をエリア別に7巻著していますので、そちらをご参照ください。(筆者も全巻購入、読了しました)
>>> 日本全国レトルトカレーの旅(honto.jp)
2016年12月には、紙の本で、カレー大學学長・井上岳久さん監修の『日本全国ご当地レトルトカレー図鑑』(ダイアプレス)も出版されています。あわせてご覧ください。
>>> 日本全国ご当地レトルトカレー図鑑(ダイアプレス)
■レトルトカレーと特産品の相性
ご承知のとおり、レトルトカレーは特産品の商品化方法として定着しています。都会の大きな食品スーパーでも、ナショナルブランドのこだわりカレーや有名カレー店の味を再現したものだけでなく、ご当地カレーを取り揃えているところが多くなってきました。価格は高くても、こだわりのレトルトカレーには根強いファンがいるようです。カレーを独自に進化させてきた日本各地の食志向や、カレーには意外な食材の組み合わせを許容する懐の深さがあるなど、カレーであること自体がご当地カレー人気の要因のひとつかもしれません。
もうひとつ忘れてならないのがレトルトという加圧加熱殺菌の包装技術。煮込み系のメニューと相性のいいレトルト加工で長期保存、常温流通ができるので、一次産品の活用法が広がっているともいえます。OEM生産も浸透していて、自前でレトルト釜の設備を持たなくても商品化ができるのは特産品開発の重要な要素ですね。また、内袋+外装という包装形態も一般的で、缶やビンに比べてデザイン面が広く平らというのもグラフィックの自由度を広げています。
■側面を並べて見る
ご当地レトルトカレーの品ぞろえが豊富で、本棚に本を並べるように展示しているスーパー「北野エース」は、デザイン雑誌でも紹介されたのでご存知の方も多いでしょう。ということで、コレクションの一部を本棚に並べてみました。(特定のお店の棚を再現したものではありません、順不同) サイズもいろいろです。やけに背が低いものがあるのは、左右側面に商品名がなく天面を見えるように並べたからです。(そのようにしているお店もあります)
本でいえば背表紙に相当する凾(ハコ、パッケージ屋はこの漢字を使う)の側面に書かれたタイトル(商品名)も様々で、さて正面はどうなっているか、気になりますよね。材料の一次産品をプッシュする、その土地らしさを打ち出す、などなど商品コンセプトとの関係やインパクトの出し方などでさまざまな系統が見られます。
一次産品を活用したご当地レトルトカレーは、原料・素材が何か、販売者・製造者など当事者が誰か(業界団体や原料に特化した業種、地域おこしの企業や自治体などなど)によってアピールの仕方が変わり、グラフィックデザインにも反映されてきます。一次産品をドドーン!とパッケージに表現した「ドドーン!系」は、野菜、肉、魚、それぞれで見られます。また「顔面ドドーン!」や「文字ドドーン!」といった変わり種も。
文字を強調した系統には、この他にシズル写真やイラストを一切入れずに文字だけで攻める「文字だけ系」というのもあります。さらには、「乗り物系」「キャラ系」「萌え系」「戦国系」などの系統や、コンセプトやネーミング、キャッチコピーも今後考察していきます。
いずれはパッケージ形態や表面加工の探索など少々マニアックなところにも踏み込んでいきますので、お楽しみに。予告はこれぐらいにしまして・・・
■ご当地レトルトカレーの専門店
ネット通販では、いながらにして各地の商品が手に入るので便利ですが、筆者は現物のパッケージを見て購入決定したいので、リアル店舗に足を運びます。特に箔押しやテクスチュア表現などの表面加工は現物を見ないとなかなか確認ができないこともあり。
度々訪れているのが、浅草・かっぱ橋道具街から一本入ったところにある前述の「カレーランド」。テレビのお散歩番組に何度も取り上げられたので、ご覧になった方もいらっしゃるでしょう。「在庫は600種類ぐらい、並びきらないので店頭には300点ほど」(店主の猪俣さん)。さまざまなご当地レトルトカレーがエリア別に所狭しと並んでいます。すべての商品を店主ご夫妻で実食済み、お昼は毎日ご当地レトルトカレーだとか。またオリジナル商品「カレーですよ」も開発、いつも人気ベストテンの第1位だそうです。
お店の横には世にも珍しいご当地レトルトカレーの自動販売機があります。「日本初!」と書いてありますね。24時間いつでも好きな時にご当地レトルトカレーが買えます。15種類のカレーが並んでいて・・・ あっ、よく見たらひとつはハヤシじゃないですか。
>>> カレーランド
*お店の情報・画像は、2016年10月訪問時のものです。猪俣様、ご協力ありがとうございます。
筆者は、基本的には旅先やアンテナショップ、物産展などで購入するのを旨としておりますが、日本全国全都道府県制覇も間近という時、埼玉県だけ手に入らず奥の手としてカレーランドを訪問、秩父小鹿野町歌舞伎カレーをゲットし全国制覇を達成しました。全国制覇したとはいえ、奥の深いご当地レトルトカレー・パッケージデザインの旅は緒についたばかり・・・
(記:中越 出)
追記:その後も度々「カレーランド」にはお邪魔して、コレクションを増強しています。時にシズル写真(盛り付け例写真)を追加したリニューアルデザインを目にすることもあります。お話をうかがうと「中身、具を気にする方が多いですからね」とのことでした。シズル写真なしで、ある意味吹っ切れたデザインだったのが、フツーになっていくのは、マニアにはさびしいところではあるものの、そのデザインの変遷を見ていくのも楽しいものです。