情報の森コラム

割り箸のおハなシ

[エコ/サステナビリティ] 2011.10.16

「お箸はお付けしますか?」コンビニで、お弁当を買うと、当たり前のように声をかけられる。7年ほど前からだろうか。それまでは、当然のように割り箸は付いていたし、マックの「ポテトはいかがですか?」のごとくコンビニのお兄ちゃんに、けだるそうな声をかけられることもなかった。


▲コンビニでもらう割り箸

それは、京都議定書に基づいて環境を守る活動が世界的規模で動き出し、企業や個人が環境について考え、自分の出来ることをすることから始まった。身近なところでは、スーパーはレジ袋の配布をやめ、ハイブリットカーが走り出し、省エネ家電に買い替え、使っていないトイレの電気は当たり前のように消された。我が家は、レジ袋がもらえないので生ゴミを捨てる時に困り果て、大食らいの外車に肩身の狭い思いをし、真下しか明るくないLED電球に戸惑った。まぁ、そんなことはどうでも良く、バブル期の申し子というか、新宿のホストみたいに「使ったらポイッと捨てられる」割り箸も、みんなが考えるようになった。

そもそも、なぜ日本で割り箸を使う文化ができたのだろう?一回切りじゃなくて、洗って使えばいいじゃん。日本は「もったいない文化」を代表する国なんだから。何でも大切に使ってきた。なのに割り箸だけは、一回使ってポイポイ捨てる。おかしくない?なんか、その答えは普段の箸の使い方にあるのかも知れない。そういえば、洋食時のナイフとフォークは誰のって決まっていない。でも、日本の箸は「これはお父さんの箸」、「これはお母さんの箸」って、家族の中で誰のかが決まっている。なぜ?いいじゃん、おじいちゃんがベロベロなめても家族なんだから。洗って使えばいいじゃん。


▲私の魂が宿る箸

ネットで箸について調べてみた。日本で最初に箸を使い出したのは聖徳太子だそうだ。遣隋使が中国に行って見てきた食事の作法を真似したらしい。今では中国がドラえもんに耳を付け面長にしているのに、昔は日本がパクってた。それまでは全部手づかみ。本格的に普通の人たちが箸を使い出したのは8世紀に入ってから。この間、テレビの「世界ふしぎ発見」で、イタリア人は17世紀までスパゲッティーを手づかみで食べていたというから、ものすごく進んでいた。庶民の箸は、木を削って作った。木で道具などを作った時の廃材を利用したという話もある。木には神が宿っていると考えられ、食事の前には手を合わせ感謝した。それが、今の「いただきます。」だ。また、箸には自分の霊が宿るとも考えられ、箸を捨てる時はお祈りをしてから折ることで、霊を自分の元に帰すと信じられていたそうだ。
食事の作法は、別の見方をする。ほらほら、時代劇の食事シーンって、男の人と女の人、主人と使用人は別の場所、別の時間で、一人ずつ四角いお膳の上に箸と一汁一菜をのせて食べているのをやってるでしょ。あれは、身分、階級をはっきりさせることが目的。おかずの内容や点数に差があり、当然、箸にも違いがあった。
あと、日本人の潔癖症もあるのかな。湿度が高い日本では、疫病や伝染病がはやりやすい。生活の中で、誰も使ってない新しいモノが良しとされることがヨーロッパなどの乾燥した国に比べて多い。割り箸が最初から割れていないのもそのせいでしょうか。

そんな日本人の食習慣の歴史から、必然的に割り箸が使われるようになったのだろう。たかが、割り箸、されど割り箸・・・。現在、日本では年間250億膳も使われている。日本の人口で割ると、一年間にひとりが200膳弱使っている計算になる。1.8日に1回ポキポキ、ポイッ!
98%が海外から輸入され、そのほとんどが中国から。日本では廃材から作られていた箸が、中国では割り箸のためだけに木が伐採されている。中国政府は、伐採した森林に木を植えるように法律で定めているが、実際には農地などになり、森林が減少。大洪水を招く原因などになっているらしい。
昔、中国から日本に来た箸に、霊が勝手に宿っちゃったもんだから割り箸が生まれ、恩を仇で返すがごとく中国の森林を伐採し環境破壊を引き起こすことになった。う~ん、イヤな話だ。手をこまねいてばかりではいられない。そこで立ち上がったのは、大手牛丼メーカー各社。今まで使っていた割り箸を止めて、何回も洗って使えるプラスチックの箸に変えた。Good Idea!中国産の割り箸が価格高騰したこともあり、最初はちょっと高いけど何回も使えるし、環境破壊もしないプラスチック箸へと外食産業はシフトしていった。まぁ、最近は自分の霊を箸に宿す人もいなくなったしね。


▲居酒屋でもプラスチック箸


▲プラスチック箸も箸袋でかわいく

これでメデタシメデタシかと思ったら大間違い。プラスチックの箸は、当然使ったら洗う。外食産業では食器洗い機を使っているが、箸に付いた細かい汚れは手洗いでないと取れない。箸を洗うために水を使い、洗剤を使う。中国の森林を守っても、今度は日本の川を汚すことになってしまった。それにやっぱり、石油からできてるし、何度も使ってボロボロになって廃棄する時はへんなガスを出すかもしれない。割り箸に戻したお店もあるらしい。あちらを立てればこちらが立たずだ。

そして、今一番いいといわれるのが間伐材から作られる割り箸。木材としての利用価値が低く、捨てられていた間伐材で作られるので環境にもやさしく、中国産に負けないくらいの価格でできると頑張っている。使ったことがあるが、間伐材といっても普通の木の割り箸と変わらず、ちゃんと真ん中できれいに割れた。やるじゃん、間伐材!でも、まだまだ作れる工場が少なくなかなか安くは難しいのが課題。


▲My箸でエコ


▲持ち運びにも便利

「らっしゃい!今日はトロのいいのが入ってますよ。」白木の一枚板のカウンター。一定の間隔で並んだしょう油皿に、すっとエッジの効いた杉の割り箸。熱いお茶を一口すすり「じゃあ、一つ握ってもらおうか。」とお願いする。パキッ!と小気味良い音を立てて箸を割る。口の中でとろけていくトロの味を想像すると唾液が染み出してくる。日本人に生まれて良かった!と感じる瞬間。
そうなんだよなぁ、結論。日本人の生活と離すことのできない木。割り箸もその一つだ。「マイハシ」を持ち歩くことも大切だが、割り箸も文化の一つだ。なくなると絶対寂しいよ。環境のことを考えてムダに使いすぎないようにうまく使うことを心がけようではないか。あの、コンビニの割り箸に入っている「ようじ」はどうかと思うが・・・。

(記:加藤憲司)

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