情報の森コラム

東京すずめ物語

[エコ/サステナビリティ] 2011.6.16

都会の雀の数が減少して来ているのをご存知だろうか?
理由のひとつには、その巣を作る場所が、瓦屋根の日本家屋が減ったことによって、少なくなったことが挙げられる。従来、雀は軒下つまり瓦屋根の裏側に巣を作っていたようである。そこは天敵から彼らを護ってくれる最適な形・位置だった訳である。近頃では、信号機や橋などのちょっとした穴を巣にしたりしている。しかしながら、そういった場所はカラスなどからも見付けられ易く、ヒナが襲われてしまうことも多い。結果、少子化が進んでいるのである。また田畑や庭などが減少し、エサに苦労していることが追い討ちをかけている。

私の仕事場の小さなベランダには親子三代に渡って(なぜ親子と分かるかは後述)、遊びに来ている雀がいる。時にはエサをねだりに、時にはただ日向ぼっこをして羽繕いをしに、そして春から初夏にかけては託児所の如くヒナを残して行く。雨や雪の日は避難に来る雀が多く、20羽近く集る時もある。こんな風に雀と仲良くしているのは、ここ3年くらいのことである。

発端はパンくずがもったいないので、時々見かける雀が食べないかと思い、ベランダに撒いたことである。私は数週間に一度、浅草のお気に入りのパン屋さんで三斤分ある食パンを2本買って来て、それを好みの厚さに切り(ちょっと厚めのトースト用と、薄いホットサンド用に。どうでもいいことだが..)冷凍して毎朝焼いて食べている。これだけのパンを切るのでパンくずは相当出る。カップ半分くらいはあるだろうか。これに雀達は大喜びだった。小さな舌でなめる様に綺麗に食べて行った。一度味を占めると一日何度も様子を見に来る。気の毒なので、クッキーやおせんべいのかけらなどをあげるようになった。最初は私が扉を開けると一斉に逃げていたのが、手すりで平然と待つ様になり徐々に慣れていった。そうこうする内に、最も良い場所、素早くエサをもらえる場所、つまり扉のすぐ下で待つ雀が現れた。この度胸のいい雀は、私が室内にいることを発見すると、ガラス扉の前でホバリングしてアピールするようになった。この雀に私は「ホバ」ちゃんと名前をつけた。

ホバはそのうちにガラス扉の枠にガシッと爪をひっかけてくっつき、部屋の中を覗き込むようになった、そしてそのまま羽ばたいて取手まで飛ぶ技を身につけた。エサをあげるまで、窓枠と取手を忙しく行き来するのである。


▲取手にとまり、家の中を窺うホバ


▲窓枠にくっつくホバ

結局パンくずだけでは到底足りなくなり、シリアルだ、お麩だといろいろあげてみたが、彼らに最も評判がいいのはピーナッツとビスケットだった。いずれもくちばしのサイズに合うように小さくし(ピーナッツは殻付きを剥いて文鎮で叩いている)あげている。ちなみに雀は雑食で虫や花の蜜などを主に食べているようである。我家にも春であれば青虫をもぐもぐしながら来るし、ある時は白いヒゲが生えたのかと思ったら、蛾を食べていてその羽がくちばしからシンメトリーに出ていた。観た中で一番大きな虫を食べていたのは蝉だ。ベランダのコンクリにくちばしで叩きつけながら食べていた。

雀はなかなか賢く、ホバがエサをもらう様を見て、真似をするものも出て来た。沢山の「ホバまがい」達は窓枠にガシッとつかまり、取手にとまることが出来る。しかし、いざ扉が開く段になると怖くてベランダの遠くの手すりまで後退してしまうのである。この動きで私は「あぁ、ホバまがいか・・」と理解するのである。本物のホバは私とアイコンタクトも取れるのである。

私が名前を付けた雀はもう1羽いた。「堂々」ちゃんである。この子はホバのように窓枠にすがりついたりしない。取手にはとまるが、姿勢が良くて鳥なりに品格を窺わせる。ガラス扉の真正面、30cm くらいの距離に仁王立ちして、「頼もうっ!」って感じでエサを所望するのである。ある日、突然の不幸が堂々ちゃんを襲った。誰が捨てたか糸くずが足に絡み付いてしまったのである。それでも我家に現れた堂々ちゃんの姿勢は毅然としていた、最初の頃は。くちばしで糸を取ろうと引っ張れば引っ張る程、糸は堂々ちゃんの片足を締め付けて行った。何度か捕まえて、糸を切ってあげられないかと試みたが、逃げてしまって無理だった。日に日に弱って行く堂々ちゃんはもう過日の背がすっと伸びた姿勢ではなかった。片足がほぼ壊死していて、うずくまるようにして、それでも取手にとまって外出から戻る私を待っている堂々ちゃんの姿を度々見た。ねこやカラスに襲われないかと心配だった。しかし、その願いも虚しく、ある日冷たい雨が降り、その翌日以降、堂々ちゃんが現れることはなかった。


▲これが、「トリプルガシッ」。本物は誰だ?

一方、ホバは相変わらず元気な様子で来ていた。このホバとの出会いは2009 年の冬のことであった。明けて2010 年の春、ホバは自分のヒナを連れてくるようになった。ヒナは成鳥に比べると全体に薄茶色でぼんやりしている。成鳥は頬と咽が黒いのが特徴だが、ヒナは頬はほんのり薄茶色で咽もベージュだ。くちばしも成鳥は黒いが、ヒナのくちばしは黄色(くちばしの黄色いヤツなのである!)でまだ小さく、噛む力も弱い。因って、親が噛み砕いたものを口移しであげるのである。開けると黄色いくちばしは親が見付け易いカラーリングなのではないかと察する。


▲ヒナにエサをやる親鳥

ホバの子は大人の羽が生えて来て、産毛が抜けて行く過程の姿で、まるで宝塚スターがダチョウの羽を肩からかけて登場する時のようなゴージャスな様子だった。(残念ながら写真は無い)私はこの子を「ウブゲ」ちゃんと呼ぶようになった。ウブゲは順調に大きくなり、ほっぺは徐々に黒くなり精悍な若鳥になった。そして親のホバ同様に、ガラス扉にガシッと掴まり、取手にホバリングし、扉のすぐ下でエサをねだるようになったのである。

しかし、ホバとの別れも突然であった。昨年の夏、私はあまりの暑さに耐え切れず、3 日程箱根に避暑に出掛けた(実際昼間の気温はあまり変わらなかったが・・)。帰宅後、ホバはもう二度と私のベランダには姿を見せなかったのである。雀にとってもあの暑さは厳しかったに違いない。自然とは過酷なものである。雀の一生は1年から1年半、長くて4~5年、飼われていれば10 年くらい生きるものもいるそうである。先日、第二次世界大戦中にロンドンで飼われていた雀の話を読んだが12 年弱生きて、老衰で死んだそうである。

そして季節は巡り、今年2011 年の春はウブゲが3羽のヒナを連れて来た。しばらくは一緒に来る日が続いたが、今は既に巣立ちをした様で、親子と云えど別々に現れる。ヒナの80%は成鳥まで生きられないという。少しでも長生きしてよと願いながら、今日もピーナッツの皮をむく私である。


▲まだヒヨッコながらひとりで生きて行くヒナ。ガンバレ!!

(記:平尾朋子)

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