情報の森コラム

ご当地レトルトカレー・パッケージデザイン考 7)シズル表現あれこれ

[特産品/地域活性化] 2018.3.8

ご当地レトルトカレーのパッケージを継続的にウォッチングしていると、共通した変化に気づくことがあります。その一つが、パッケージ正面へのシズル写真の追加。これまで見てきたように、ご当地レトルトカレーは開発コンセプトが幅広く、パッケージ正面に打ち出すモチーフやストーリーも様々、必ずしも料理写真が主ではないともいえます。買う側も、日常的にスーパー、コンビニで目にするパッケージデザインとは一線を画したローカル感を期待することもありますね。とはいえ、食品ですので中身、特に具材など気になるところ。ということで、今回は料理写真、シズル表現を探ってみます。

*商品名の次はパッケージ裏面に表示されている販売者名または製造者名です。(法人格省略)
*参考価格は、時期、場所で異なる場合があるので、ご承知おきください。(特に記載がない場合、税込み価格)

■シズルの王道、持ち上げ
テレビのグルメ番組でも、持ち上げと断面(例えば肉まんのようなものでは、割って中身が見えてくる瞬間)は、よく使われますね。静止画像で勝負するパッケージデザインでは、中身を伝えると同時においしさ感を増幅することを狙って、一瞬を切り取ります。

◆鳥取
どっさり豚肉の梨キーマカレー
テラファーマ(鳥取県鳥取市)
参考価格:729円

スプーンの持ち上げは、器からすくって口へ運ぶプロセスを、食べる人の目線で切り取って臨場感を出すので、器と持ち上げの距離感が必須です。ここではスプーンにピントをあて、器はソフトフォーカスにしています。
画面左のキャラクター「とっとりなしお」は、公式サイトによると、鳥取の二十世紀梨から生まれた梨人間(着ぐるみではない)とのこと。

◆富山
ほたるいかカレー
川村水産(富山県滑川市)
参考価格:594円

上のパッケージと比べて持ち上げの違いに気がつきましたか? そうです、スプーンが左から出ています。さて、問題です。なぜスプーンが左から出ているのでしょうか? 
A)左利きの人を想定している。
B)製版で裏焼きをしてしまった。
C)誰かが「あーん」と差し出してくれている。
気になる方は反対面をご覧ください。 >>> 反対面画像

◆宮崎
椎茸屋が作ったキーマカレー
杉本商店(宮崎県高千穂町)
参考価格:460円

持ち上がっているようで、持ち上がっていない、今まさにすくおうとスプーンを入れた瞬間。原木露地栽培の乾椎茸を使用したこの商品、テーブルの木目や切り絵調のロゴ・シンボルなど全体の風合いが一貫しており、スプーンも木製です。裏面には「650人の生産者と一緒に作ったカレー」のコピーとともに複数の椎茸生産者の写真も掲載されています。
*開発ストーリーはこちら >>> 特産品開発事業者事例集(椎茸屋が作ったキーマカレー)

■よそう瞬間
スプーンでの持ち上げは、料理を食べる直前を切り取ったものであるのに対し、もう少し前のプロセスで動きを感じさせるものに、調理過程や盛り付けの瞬間というものがあります。

◆北海道
熟成 三十年カリー
YOSHIMI(北海道札幌市)
参考価格:906円

鍋からすくったカレーを器に盛る瞬間、湯気ができたての温かさを感じさせます。コピーは「カレー作りを始めて三十年。熟成された最高のレシピが今、完成しました。」 熟成させてきたのはレシピ、サイトには「カリーと洋食をこよなく愛するオーナーシェフ 勝山良美が試行錯誤を繰り返して 三十年かけてたどり着いた理想の味。」という文章も。

◆静岡
まぐろカレー
丸美屋食品株式会社(静岡県焼津市)
参考価格:492円

こちらは上からカレーをかけているシーン。やや高いところから注いでいる感じですね。器やお玉からは湯気が上がっています。湯気を強調するには背景を暗い色にするのが効果的。プロの写真家は、湯気をそれらしく見せるためにあの手この手を使います。熟成されたプロの技は、パッケージデザインにも生きてきます。

◆北海道
函館五島軒 海鮮カレー
五島軒(北海道函館市)
参考価格:905円

先の2点が鍋から器に盛るシーンで、これはカレーポットからお皿に移すタイミングの持ち上げ。スプーン上の具材は全体がカレーに浸かっているわけではありません。それもそのはず、この商品はカレーと具材が別々の袋に入っていて、カレーソースの上に具材を盛り付けるよう裏面で説明されています。カレーポットはレストラン感が出ますね。

◆福岡
合馬産 筍カレー
さつま屋産業(福岡県北九州市)
参考価格:600円

寸胴鍋の上で輝きを放つお玉、これから器に盛るのか、あるいは煮込んでいる最中か。バックには竹林の写真。この画像でははっきりと見えませんが、商品名やコピーの背景に、光沢と梨地マットを利用したテクスチャー加工で、筍の線画イラストが表現されています。ツルツルとザラザラ、質感の違いを出すこの表面加工は、チョコレートのパッケージでもよく目にします。ご当地レトルトカレーでも増えてきているようです。

持ち上げにもいろいろとあるものですね。ところで、「シズル表現」という言葉を当たり前のように使ってきましたが、耳慣れない方のために簡単な説明・・・

「シズル」は、肉を焼いたり油で揚げる時のジュージューという音”sizzle”という擬音が元になっていて、広告やデザインの業界では、食欲を刺激するおいしさ感のことを「シズル感」という言葉で表現します。シズル感をさらにアップさせる(=おいしさ感を増幅させる)ために、デザインに関わる人々は、日々たゆまぬ創意工夫にチャレンジしています。「おいしそう!」と感じてもらうよう、写真などの視覚表現だけではなく、言葉の使い方でシズル感を強調することもあります。(言葉についてはいずれまた)

料理写真のシズル表現について、今回はここまで。次回は盛り付け、小道具などでの演出事例を見ていきます。

(記:中越 出)

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