Come sta? – イタリア車椅子珍道中 -〈前編〉
二週間のお休みを相方ともども取って、イタリアはプーリア州縦断の旅を計画していた。(プーリアは長靴型のイタリアの最も南の踵部分に当たる。)ところが、出掛ける10日程前になって、右足首を痛め歩くのが困難になってしまった。足首以外はまったく元気で、お休みもせっかく取ったのである、なんとか行けないかと考えた解決策が車椅子をレンタルすることだった。幸いに今回のプランは列車とレンタカーの旅、行って行けないことはない!そもそも車椅子に乗ったこともないし、新しい経験だ、このエッセイのネタにもなる、と意気揚々と出掛けたのであった。
私がインターネットで見付けて借りた車椅子は介助型と呼ばれるもので、介護の人が後から押して動くものだった。そして旅行用に軽量(10kg程)でコンパクトに折り畳めるもの。畳むと幅はわずか27cm、奥行きは84cm程になる。車椅子も今や多種多様で、大きくは介助型の他に自走型といって、乗る人が自分で動かすものがある。ちなみに私がこの自走型を借りなかったのは、初めての人が乗るには危険であると、介護用品専門のレンタル会社の方にアドバイスをされたのと、自走型の方がタイヤが大きく、畳んだ時に介助型程は小さくならない点であった。列車やレンタカーに積む際、より邪魔になる可能性があったのである。
車椅子の種類に話を戻すと、電動のもの、膝下に補助具が着いて足の角度が調整出来るもの(骨折などした方用)、座る高さや背もたれの角度が調整出来るものなど、カスタマイズが出来てより座り心地を良く考慮されたものもある。こういったものは自然と重量も増す。私が借りたものは、座面はテント生地一枚仕立てで、一時間も座ればお尻が痛くなるといわれて特性クッションも借りた。5cm程の厚みながら、これのおかげで苦痛に感じることはなかった。
さて、いよいよ旅の話である。今回私が選んだのはフィンランドの航空会社フィンエアーであった。以前にも搭乗して機内の淡いブルーのインテリアが気持ちが落ち着いて好きだったのと、ヘルシンキまでの10時間程のフライトで一度降りて体を伸ばせるからという理由からであった。歳とともに長時間のフライトはきつく感じるようになったので、一度降りて歩くだけで(今回は歩けなかったけれど)随分と疲れが違うように思う。
ということで、今回は成田・ヘルシンキ・ローマそれぞれの空港での車椅子への対応を観ることが出来た。
車椅子への対応は各航空会社によって違うと思われるが、フィンエアーは流石福祉の進んだ北欧の会社で何かとスマートだった。まずは借りた車椅子は荷物として預けなくてはいけないが、それは無料でスーツケースの重量に加味されない。(ちなみにベビーカーは手荷物の重量に加算される)そして席は予め指定していたものとは変わっていて、長時間のフライトはトイレの近く、EU内の短時間フライトは出入り口の近くであった。歩けるけれど、歩くと足が痛い私にとって、素晴らしい配慮であった。以降、順を追って空の旅に関して記して行きたい。
まず最初は成田でのチェックインである。事前に車椅子使用の旨を伝えていたので、大変スムーズであった。私の借りた車椅子を預けた後は成田空港のものを拝借する。その後成田空港のスタッフが搭乗ゲートまで車椅子を押して行ってくれるのだ。ご存知の通り空港は無駄にいっぱい歩かされるところで、また手荷物検査だ、ボディチェックだ、出入国審査だと何かと並んで無用に疲れる。ところが、空港スタッフの案内で進むのはクルー専用のレーン。
相方も同伴でスイスイ進み、座っているせいもあるけれど大変楽チンであった。そして優先搭乗で、機体の側まで車椅子であとはゆっくりと歩いて席に落ち着けた。
ヘルシンキに着陸すると、降機したところで空港スタッフが待機していた。ここでも空港の車椅子を借りて、スタッフが乗り継ぎのゲートまで付き添ってくれる。日本から行くとフィンランドがEUの入り口になるので、チェックは厳しく、再び手荷物検査からのフルコースだ。ここでは通常の旅客と同じレーンを通るのだが、全て優先されて、つまり割り込んでズンズン進んだ。成田と違う感じを受けたのは、背の高い人が多いので、座った高さだと人混みはけっこう怖い。ローマまでの便は生憎ゲートからバスに乗って、タラップを上るタイプ。膝や足首等が悪い人は概して階段は降りる時の方が辛い。ゲートからバス乗り場までは階段だったが、そこは空港スタッフ同伴である。一般の人には分からないようなところにエレベーターがちゃんとあるのだ。地上に降りると、他の旅客とは違うカーゴバス(車椅子ごと乗れるような)に広々と相方と二人乗り込んだ。そしてタラップは自力で上がる。これも優先搭乗でゆっくりと乗り込めた。
そして目的の国イタリアはローマ フィウミチーノ空港に到着。同様にタラップを降りたところで空港スタッフの出迎えがあり、また別立てのカーゴバスでイミグレーションに最も近いところで下ろしてもらい、再び空港の車椅子を拝借して、スタッフの誘導の下進んだ。まずはイミグレ。これは流石イタリアという対応だった。ずらりと並ぶ入国審査員の列には目もくれず、脇のスタッフの通り道のようなところを通り抜け、一番端の審査員のボックスをノックして、我々二人のパスポートの表紙をちらっと見せて「いいよね」という感じでパスしてしまったのだ。これには笑った。イタリアらしいラフさであるが、日本のパスポートを持っているという点も大きいだろう。経済が落ち込もうが、政治が荒れようが、日本人の信用はまだある。この後、空港スタッフはタクシー乗り場まで車椅子を押してくれて、相方は二つのスーツケースを難無く運ぶことが出来て、無事ホテルまで辿り着いた。 〈 続く >>> 後編〉
(記:平尾朋子)
-こぼれ話-
どこの空港スタッフもとても親切だった。一番細やかに気が回るのはやっぱり日本人と感じた。一番面白かったのは到着の際のローマの彼である。
私は幼稚園レベルと思うがイタリア語を話す。それに応じて彼も少し日本語が話せるんだと自慢げに日本のアニメのタイトルを5~6本云った。日本のアニメがイタリアで人気だとは聞いていた。彼が云った中で私が唯一知っていたのは「キャプテン翼」くらいか。後はたぶん新し過ぎて知らなかった。「アルプスの少女ハイジ」なども大変な人気だったらしい。
彼は意味は分からないけどもうひとつ日本語が話せるという。聞くと、「ただ君だけをみつめてる」と驚く程流暢に。日本人女性に会うと喜んで披露していたらしい。意味を教えてというので、解説したところ、たいして照れた様子もないのはやはりイタリア男だからか?しかし、大変真面目で車椅子を日本語で教えて欲しいといわれて、頼まれて彼のノートに書いた。椅子という字が一瞬出てこなくて焦ったが、ちゃんと読みとそれぞれの漢字の意味を書いてあげた。
件の台詞は誰か日本人が、ステレオタイプのイタリア男のイメージでいたずらして教えたのかと思ったが、帰国して甥っ子と話していて謎が解けた。漫画のタイトルにあったのだ。日本のアニメと漫画が好きだって云ってたもんなぁ。(笑)