情報の森コラム

エコでおしゃれな手ぬぐい-TENUGUI-のお話

[エコ/サステナビリティ] 2015.3.12

先日、友人達と食事をしたレストランはビストロかと思いきや、パスタや和食も有る『枠にとらわれない』というコンセプトの店でした。
店に入って予約のテーブルを見ると、既に食器とテーブルナプキンがきちんとセッティングされています。席についてナプキンを手に取って広げるとそれは、なんと、手ぬぐい!それぞれに柄の違う手ぬぐいは空間に楽しさとカジュアル感を醸し出しています。
そこで、向かい側に座っている友人が私に向かって、「手ぬぐいってなぜ切りっぱなしなの?」と問いかけたので、「それはぁ踊り子の下駄の鼻緒が切れたときに、通りすがりの書生さんが、その場で手持ちの手ぬぐいをビビッと破って修理してあげられるからでしょう」(幼い頃に見た映画『伊豆の踊り子』でそんなシーンがあったかと…)と私はしたり顔で答えを返しましたが、さてあの答えで良かったのか….。ちょっと不安になったので、調べてみました。

手ぬぐいの大もととなる晒(さらし)は、綿が貴重だった奈良・平安時代には一般には出回らず、祭礼の装身具等に使用されていたそうです。江戸時代に入って綿花の栽培が盛んになるにつれ、庶民が木綿の着物を着るようになり、端切れをハンカチ、タオル代わりに使い、生活必需品として定着していったものが「手ぬぐい」。銭湯が流行った事も手ぬぐいの普及に一役買っているというからおもしろい。

両端が切りっぱなしの理由の一つは、「破りやすい」という事。それは確かに正解でした。しかしもっと重要な理由がありました。それは、洗濯機も脱水機も無い時代に、すぐ水が切れて乾き、雑菌が繁殖しにくい為に衛生的だということ。なるほど!立派なタオルほど乾きにくいので臭いやすい。 掃除の際の塵よけや日避けの機能として使っているうちに、職業別の被り方が決まって来て、瓦版などの物売りや、材木屋、米屋など粉を被ってしまう職業、そして子守りをする人達のトレードマークになっていったそうです。そういえば、時代劇ではさまざまな被り方が登場していますね。

機能性だけではなく、芸術性が重視されるようになるのも江戸時代で、粋な人々の間で「手ぬぐい合わせ」という催しが広がり、それぞれが考案したデザインを手ぬぐいに染めて競い合う事で染色技術も発達。
染色技術が更に向上してくると、柄も多様に染めることができるようになり、本来の汗や水の吸水の目的だけでなく、柄によって職業や趣味、主張を表すようになりました。そして、暖簾や看板にも使用されるようになったので、今でも落語や日本舞踊の小道具として使われる際には、「この柄を使用したらこの階級の人を表す」という決まり事があり、通な観客にとっては、見ればすぐわかる共通事項になっています。人気商売だった歌舞伎役者や大相撲の力士、落語家などは手ぬぐいを名刺代わりに配ることも多かった為、その名残りで現在も落語家は名刺の代わりに手ぬぐいを渡すそうです。落語家にとっての手ぬぐいは、話の最中に登場するお皿や手紙、財布等を表現しながら、実際に吹き出してくる自分の汗もササっとなにげなく拭える必需品。師匠からもらったものや大事な高座に使用したものなどは、切りっぱなしの端が乱れてくるときれいにハサミで切りそろえて、長く大切に使うそうです。

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手ぬぐいの主な用途としては、ふきん、ハンカチ、タオル。
破けば、包帯、紐代わり。
身につけるとなれば、帽子やストール、頑張ろうと思った時にはハチマキに。
被って、縛って、包むこともでき、いざとなれば破ることもできる。
なんと多様な手ぬぐい文化!
多様化のポイントは応用の利く長細いサイズと軽さ、丈夫さ、そして安さでしょう。明治時代からは文明開化とともに時代遅れとされ、昭和の高度成長期にはかつての人気はなくなってしまいましたが、手ぬぐいにはタオル地の製品にはない利点があり、今でも農作業、伝統芸能、祭や剣道などでのかぶり物、鉢巻、として利用されています。

そこで、幼少期から剣道を嗜む甥と姪にリサーチを開始。
防具(面)の下に被る手ぬぐいは「面下(めんした)」と呼ばれ、面の固定と衝撃吸収、更に汗を吸い取る重要な役割をしています。タオルでは厚さが邪魔になり代用できないとのこと。頭に巻く方法も人によってさまざまで、締め方によって気合いの入り方が変わってくる。ハチマキなどと同様に集中力を高めてくれるのかもしれません。折り紙のように帽子の形に折ってから頭に被る人もいるようです。試合の際には団体(学校)ごとに同じ柄の面下をつけるので、面を被った状況で、正面から見たら誰だか見分けがつかなくても、後ろから少し覗く面下の色で、どこの学校の選手なのかを識別できるとの事。優勝した大会の後は記念として名前入りの手ぬぐいを特別注文して、大切な思い出として取っておくそうです。

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つい先日、お茶会の裏方仕事を頼まれた際の調理場でも手ぬぐいは重宝しました。髪の毛や汗が落ちない為に頭に被り、首にも手ぬぐいをかけ、さっと手を拭く鼻を拭く。これがハンカチだと長さが足りなくて首に巻けないし、タオルだとモコモコして布ホコリが気になってしまう。そして濡れてもすぐ乾く。いろいろと利点があるものです。
手ぬぐいの元となる反物を浴衣として縫製して着用し→古くなったら布団や普段着の継ぎ当てにし→更に古くなったら鼻緒など、草履の一部に使用→そして更にぼろぼろになったらハタキとして再利用。とことんリサイクル出来るのです。無駄なく使い倒す、古き良き日本人のエコの精神ですね。継ぎ当てなどに活用しなくなった現代でも利用価値はたくさんあります。

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そんな究極のエコグッズ、鞄に一つ入れておくと便利ですよ。見直してみたらいかがでしょう。
昨今、手ぬぐいは海外でも「クールジャパン」として見直され、柄のおもしろさなどからも、冒頭の話のようにテーブルウエアやタペストリー、インテリア雑貨の一部として活用されています。北欧とのコラボ商品なども企画され、素敵なオシャレ手ぬぐい-TENUGUI-がたくさん売られていますが、ちょっとお高い。鼻緒が切れたときに気軽にビリっと破いて使えるくらいに気安く使える価格だと嬉しいですね。
ま、鼻緒が切れるシーンに出会う事も少ない今日この頃ですが。。。

(記:福本佐登美)

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