エコとパッケージデザイン

デザインの現場訪問 第1回

ポーラ化成工業 デザイン研究所(2011年1月)

「物語るカタチ」が実現する、その先の高品質リフィルを徹底追及した化粧品パッケージ

1929年創業、2006年に持株会社体制へ移行したポーラ・オルビスグループ。最上の品質とホスピタリティを提供する訪販・店販でのカウンセリング販売の「ポーラ」、オイルカットという独自のコンセプトを軸とした通信販売中心の「オルビス」、デイリーケア商品をドラッグストア・量販店を中心としたセルフ販売の「pdc」。その他、百貨店、TV通販など多様な販売チャネルに即したブランドを有してマルチブランド戦略を展開しています。そしてこれらのブランドの研究・開発・生産を担っているのがポーラ化成工業です。
今回は主要ブランドのデザイン開発を担当するデザイン研究所の碓井所長に、ポーラの環境配慮デザインについてお話を伺いました。


●“その先の高品質”を目指したモノ創り
ポーラ化成工業において研究部門のひとつとして位置づけられたデザイン研究所では、日々、研究・生産の技術スタッフと連携しながら商品開発をしています。
「デザイン開発のテーマは“心を満たすモノ創り”です。新しい価値を創造して市場に出すことで、お客様に美しくなれる喜びを感じていただきたい、だから常に“その先の高品質”を目指した造形を志しています」(碓井氏)   
デザイン作業のスタートはコンセプトづくりです。イメージを広く深く掘り下げたうえでアイデアスケッチを描き、それをもとに図面を引き手づくりのモデルにて造形の骨格を詰め最終模型を作ります。流れとしては一般化粧品メーカーと大差ないものの、独特なのがデザイナー自らカタチを削り出しているプロセスです。「自分の手でカタチをつくりだす過程で、また新たなイメージがわいてくる。頭だけでなく手でも思考するという感じですね。そうして出来上がった形状を図面に落として細部を詰めることで、さらにブラッシュアップできるわけです」(碓井氏)
手作業とデジタル機器の併用が、造形性に優れかつ量産化を実現したパッケージを生みだしているようです。

●新しいものには前例がない
実はもう一つ、ポーラのモノ創りには大きな特徴があります」と碓井氏。
「技術的チャレンジに躊躇しないこと。包装材料、印刷・塗装等加飾技術、金型製作などにおいて、異なる業種・分野からも積極的に技術導入をしてデザイン開発に活用しています」(碓井氏)
確かに新技術へのこだわりは相当なものがあり、たとえば金属キャップのダブルアルマイト、ガラス上へのイオンプレイティングなどもいち早く実現。今ではお馴染みの楕円型チューブも他に先駆けて開発したそうです。他にも自動車のインパネに採用されている技術を応用した<ギャラントム II>、インテリアに使用される人造大理石で容器のパーツを成形した<ディニュー>、繊維メーカーの合皮をコンパクト天面に成形した<メサージュ>など。コンパクトの開閉音にこだわって、オシログラフで音のデータを分析したこともありました。
「創業者自身も研究者で、妻のために開発したクリームが創業のきっかけでした。“モノ創り”へのこだわりはポーラの伝統とも言えますね」(碓井氏)
モノ創りへの意識が高いという社風が、新しいモノへの挑戦を後押ししているようです。
「確かに前例があるほうがつくりやすい。でもそれでは新しいことはできません。造形力も必要だし、裏付けする技術力も必要です。それが揃って初めて新しい価値を生み出すことができます」(碓井氏)


<ギャラントム II> バッファローしぼ皮の質感


<ディニュー> 人造大理石を一部に利用


<メサージュ> 独特のテクスチャー

●リフィルはポーラ伝統の環境配慮  
ところでモノ創り集団・ポーラのデザイン研究所では、どんな環境配慮を実践しているのでしょうか。
「実は、ポーラのリフィル対応は1950年代から。かなり早かったんです。」と碓井氏。メイク商品中心だったリフィル対応が、スキンケア商品にまで広がるようになったきっかけは、1985年に発売の<B.A クリーム>でした。3万円台の高額商品にもかかわらず発売2ヶ月で30万個以上を売り上げる大ヒットでしたが、あるときお客様から「容器を捨てるのがもったいない」という声が。確かに、価格に見合うイメージをと開発された容器は当時としてはとても豪華なものでした。そこで、当時の所長がリフィル開発を積極的に推進、現在のリフィル容器の原形が完成しました。
「そもそも創業当初は量り売りでした。お客様が自分で用意した容器に必要な量だけ詰め替えて売っていたそうです。好きなものを好きなだけ買えるシステムでした。考えてみれば、その頃から環境にやさしい売り方をしていたんですね。リフィル対応の導入は企業姿勢から言ってもごく自然な流れだったのかもしれません」(碓井氏)

●使い続けてもらえればゴミも減る
確かに昔は味噌も醤油も油も量り売りで、包装容器のムダがなかった時代だったよね、と一同納得。その伝統が背景にあるとはいえ、なかなかどうして、ポーラのリフィル容器の比率は相当なもののようです。
「スキンケア商品の50%強がリフィル対応になっています」
他分野はさておき、平均2~3割と言われる化粧品でこれはかなりの高比率です。アイメイクやファンデーションはもちろん、クリーム、ローションから口紅まで、ほとんどありとあらゆるものを網羅しているとのこと。一旦購入すれば、中身を取り替えるだけでそのままずっと使い続けていけるシステムです。
「化粧品は日用品であると同時に、夢や憧れに繋がる非日常的なものです。だからこそ美しくなれる予感や手にした時の感動を与えるデザインが必要になる。リフィル対応にしたのも長く継続して使って頂きたいという思いから始まったものでした」(碓井氏)
手にしたときの感動をデザインで、時が醸成する愛着をリフィルで実現するという、モノ創りの姿勢が伝わってきました。ちなみにリフィル容器はシンプルで扱いやすく工夫し、簡略化・軽量化にも取り組んでいます。外容器を捨てなければ、ゴミもぐんと減ってくる、リフィル対応は環境配慮の大きなポイントになっています。

●それぞれの商品に、それぞれのリフィル 
実際に具体的な商品を見せていただきました。
「クリーム類はジャー容器と称する広口のリフィル容器で、タイトシームで密閉して内容物を保護しています。中身がなくなったら容器ごと入れ替えて使います」
リフィル対応も画期的なら、タイトシームの採用も業界ではかなり早い方でした。見せていただいたのは2009年発売の<B.A ザ クリーム>で、デザインコンセプトは「生命美」。ブリリアントブラックの球状の容器は、キャップと本体の接合部が揺らぐようなウェーブを描く有機的な形状。透明な底部から入りこんだ光が、スリットから漏れ出し、発光しているかのように輝きます。
「ゴールド色の金属製リフィル容器が溢れ出る光を増幅させているんです。リフィル容器までデザイン要素として組み込みました」(碓井氏)
ローション・ミルクでは、ポンプやスプレー部を継続使用にして、ボディとなる容器を交換する方法が中心です。<ポーラ アグレーラ>をはじめ、ガラス容器をそっくりそのまま付け替えるシステムになっています。


<B.A ザ クリーム> 手に持っているのがリフィル容器。その輝きがスリットから漏れ出る構造になっています。

●リフィル対応を前提でデザイン開発を
「画期的だったのは1999年に開発した<ワンズワン>です。PPとPETの薄肉積層フィルムのリフィル容器を開発しました」(碓井氏)
主としてコーキング材に使用されるフィルム容器にヒントを得たとのこと。今でこそ薄型ペットボトルもありますが、<ワンズワン>はそれより遥か以前でした。しかも化粧品の容器はバリヤー性をはじめ、内容物の保護機能が厳しく求められます。開発は困難を極め、完成までに2年近くかかったと言います。キャップには紙とPPの混合樹脂の素材を用い、当時としては画期的な環境配慮型パッケージとなりました。
「ポーラでは基本的にリフィルに関して、中身を移し替えるのではなくリフィル容器ごとの取り換えを前提にしています。移し替え式だとこぼす恐れがありますし、二次汚染の問題もあります。安心・安全を提供するためにもリフィル容器は最適です」(碓井氏)
年齢を重ねる毎に細かな作業は苦手になるし、手間のかからない取り替え型は便利です。
「販売チャネルやターゲットにより、最適なリフィル形態の提案を行っています」(碓井氏)
商品ごとに柔軟な対応ができるのも技術的チャレンジを厭わない精神があるからなのでしょう。


<ワンズワン> 右の画像がリフィル容器。廃棄時にはこんなにコンパクトになります。

●環境から伝統まで、大切なものを守るために
他には環境についてどのような対応をしているのでしょうか。たとえば通販中心のオルビスには外箱対応ではなく、ピロー包装が主流です。量販店が市場となるpdcでは<ピュアナチュラル>などのローションにいち早くパウチタイプのリフィル対応を採用しました。ポーラの健康食品では、外箱を開くと内面が説明書となるようにデザインし説明書を省略。またエステサロンなど業務用商品では包材を極力簡素化しているとのこと。
「ケナフやバガスなど非木材紙の使用、環境配慮型印刷として注目の水なし印刷の採用など、環境にできることはごくごく自然に取り入れているという感じです。もちろん、地球温暖化防止、資源循環、リスクマネジメント・教育など、環境負荷を減らすための取り組みは企業としてしっかり取り組んでいます」(碓井氏)
ところでポーラでは現在、日本が誇るモノ創りの真髄を社会に向けて提案し、地域産業の活性化に貢献する企業活動“3・9(サンキュー)プロジェクト”を展開中。江戸切子職人とコラボレートした80周年記念限定版容器<B.A ザ クリーム江戸切子>、兵庫県淡路島の香司(こうし)と組んで開発したギフト用石鹸<K・O・U(コ・ウ)>など、日本の各地域に伝承されている匠の技とコラボレーションした商品開発に取り組んでいます。これも人的資源という観点から見れば、大きな意味での環境配慮と言えるのかもしれません。


<pdc ピュアナチュラル> リフィル容器は抽出口つきのスタンディングパウチ。


<B.A ザ クリーム江戸切子> 職人技そのものの容器。


<K・O・U (コ・ウ) アロマソープ> 1枚の紙から立体をつくりあげるパッケージ。

●モノ創りの“目利き”を目指して
最後に、「これからのパッケージデザインとは?」と質問を投げかけてみました。
「パッケージはこれからますます重要になってくると思います。宣伝に踊らされる時代は過ぎ、ユーザー自身がモノを見る目を持つ時代になりました。だから僕らデザイナーも商品開発担当者も目利きにならないといけない。しっかりした価値観を持ち、より良いモノを判断する必要があります。自分自身が日々意識を持ち、素養を養うことでもっともっと目利きにならないといけないと思っています」(碓井氏)
最近では20代のポーラレディも続々と誕生しているというポーラ。若い世代にもユーザーが増えてきたといいます。しっかりと芯の通った“モノ創り精神” が、「自分なりの価値観」を模索する若い層の心に響くのかもしれません。

最後は、約2時間半にわたる取材にお付き合いくださったデザイン研究所の皆さんと一緒に記念撮影。ポーラの歴史や考え方から、具体的な商品づくりにおける環境配慮の事例まで丁寧にわかりやすく教えていただきました。碓井健司所長、アートディレクターの松井孝さん、白井信之さん、鈴木智晴さん、管理室の長谷川達也さん、そしてデザイン研究所の皆さま、ありがとうございました。
(調査研究委員:加藤憲司、桑 和美、中越 出)
<訪問:2010年11月>
※部署名、役職名は訪問当時のものです。

参考情報
■ポーラ・オルビスグループ/CSR情報/環境 https://www.po-holdings.co.jp/csr/environmental/index.html
 


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