デザインの権利と保護

Vol.102「対比する意匠の類否判断に必要な視点」

2018.4.17

特許庁の意匠公報検索を行い、制作したデザインが意匠権を侵害していないかどうかの安全性を確認するための調査は、まず、似ていると思われる先行登録意匠を見つけ、次に、検索した登録意匠を対比し、似ているかどうかの判断を行うところまで進める作業となります。それでは、この類否判断は、どのような手法で行えばよいのでしょうか。

本稿では、着目する要素に違いがある審査例を挙げて、意匠の要素がどのように判断されたかを具体的に解説し、類否の傾向の見つけ方を提示しています。相違する部分と共通する部分の整理から類否を比較し、また、どの程度の違いであれば類似と判断される傾向にあるか、要素が複数の場合の判断はどのようになされるのかの原則が、注意点と共に書かれています。

本稿の「3.最終判断について」部分でも触れていますが、類似しているか否かの判断は一筋縄ではいきません。しかし、検索により似ている登録意匠が見つけられたら、最終的な判断まで進めなくても、ある程度の見当をつけることはできると思います。その<類否の傾向の見つけ方>を本稿から学んでいただけたら幸いです。

(2018年4月17日 編集・文責:デザイン保護委員会 担当/丸山 和子)

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情報発信


対比する意匠の類否判断に必要な視点<審査例を活用しよう>

弁理士 鈴木 行大 レクシア特許法律事務所 (LEXIA PARTNERS)

この稿で、先行意匠を見つけた後、両意匠の類否判断をする上で何をすれば良いかを説明します。
新たに創作した新デザインが他人の意匠権を侵害しないかどうかの調査は、似ている登録意匠(以下、「先行意匠」といいます)を見つけて終わりではありません。新デザインと先行意匠とが本当に類似するかの判断を行うところまで行わなければなりません。

1.審査例の調査
新デザインと先行意匠との類否判断については、「何となく似ているから」という理由ではもちろん判断できません。客観的な根拠に基づいて判断しなければなりません。

■その根拠として重要なものの1つが、特許庁での「審査例」です。
例えば、長さが異なる登録意匠Aと登録意匠Bとが類似と判断されて、それぞれ本意匠関連意匠として登録されている場合、この審査例からは「長さ違いであっても類似」と判断される傾向にあることが分かります。逆に、両意匠が非類似と判断されて、それぞれ独立意匠として登録されていれば、「長さ違いであれば非類似」と判断される傾向にあるということになります。

すなわち、
審査例を調べることで、「この程度の違いであれば類似」、「ここまでの違いがあれば非類似」という類否のボーダーラインがある程度見えてくるようになります。
また、審査例は、特許庁による判断であり、客観性があるため、意匠の類否判断を行う上で非常に有効な根拠になります。

そのため、
調査により先行意匠を見つけた後は、新デザインに係る意匠と同一分野の周辺意匠についても調査して、新規デザインと先行意匠の類否判断に適用できそうな審査例をできるだけ多く集めることが重要です。

※パッケージに関する意匠分類である「F4(包装紙、包装用容器等)」については、2016年において、全意匠分類中で最も多い2,615件の意匠出願がされており、審査例が多数存在しますので、類否判断の参考になるものが見つかると思います。

2.事例紹介
ここからは、どのような審査例があるか、ペットボトルの登録意匠を例に挙げて紹介します。

A 高さの違いについて
ペットボトルは容量により様々な高さのものが製造されていますが、その高さの違いについては審査においてはどのように判断されているのでしょうか?
資料1に示すように、「高さ違いであっても類似」と判断されている審査例が多く見つかりました。いずれの審査例においても、本意匠と関連意匠とは、高さのみが相違し、それ以外は共通しています。

【資料1】

B 胴部の凹部について
次に、ペットボトルによく見られる胴部の凹部については、その数を変えた程度の変化は類似すると判断されることが、資料2に示す審査例から分かります。いずれの審査例においても、本意匠と関連意匠とは、胴部の凹部の数のみが相違し、それ以外は共通しています。

【資料2】

このほかに、資料3及び資料4に示すように、「胴部の横溝の数違い」や「首部の形状違い」についての類似の審査例があり、以下に示す程度の相違であれば、類似と判断される傾向にあることが分かります。

【資料3】

【資料4】

資料1から資料4に示す審査例を踏まえると、新デザインと先行意匠とが「高さ」、「胴部の凹部の数」、「胴部の横溝の数」及び「首部の形状」のうちいずれか1つにおいて相違する場合であっても、他の条件が同じであれば、両意匠が類似する可能性が高いと考えることができます。

このように、審査例を調べることで意匠の類否の傾向が分かりますので、新デザインの安全性を調査する際には、周辺意匠についても調査して、新規デザインと先行意匠の類否判断の参考になるような審査例を集めることをおすすめします。

なお、上記審査例は、説明の便宜上、シンプルなものを挙げています。
上記審査例のように、意匠間の相違点が1つであり、その相違点についての類否の傾向が明らかであれば、類否判断は比較的にしやすくていいのですが、実際にはこのようにシンプルなケースばかりではありません。
新デザインと先行意匠との間に複数の相違点がある場合もありますし、資料5及び資料6に示すように、類似の審査例も非類似の審査例も同程度存在し、類否の傾向が把握しにくい場合もあります。

【資料5】

【資料6】

3.最終判断について
意匠は複数の要素が組み合わされて構成されていますので、ただ単に相違点のみを取り上げて類否判断することはできません。また、意匠の類否判断は、審査例のほかにも、市場における公知意匠の存在やその物品の分野における商慣行等によっても変わりますので、その判断は難しく、一筋縄ではいきません。やはり、最後は意匠を専門とする弁理士に類否判断を依頼することをおすすめします。
(以上)
 

活動報告


平成29年度第6回JPDAデザイン保護委員会/3月23日(金)

18:30~20:30 於:株式会社プラグ 会議室

以下に、議事内容を議事録から抜粋してお伝えします。
議題1.2月セミナー(2/16)のまとめ
①アンケート回答結果から受け止めること
・J-PlatPatの使用経験のある方が多かったことは、受講対象者を上級者に合わせたことに適合したと判断できる。
・満足度で、「満足・やや満足」の回答が参加者のほとんどであったことは、テキスト内容が適切であったと受け止められる。
・自由意見で、類否の評価まで進みたいという回答があったが、今回は時間的な関係で先行登録意匠のピックアップまでとし、類否の評価までプログラムに含めなかったが、前述のような場合は、最初に、この点の説明が必要であり、類似するかどうかの解説ができるモデル例の準備も必要なことが確認された。これからのセミナーの実施では、類否判断に重点を置くことも考えられる。
・レベルの違いがあることに対しての不満への対応として、実施プログラムのレベルに対して、解りやすい周知が必要であることが確認された。

②次に実施する場合の注意点の確認
・持参の端末で推奨機種以外でもトラブルが無かったことに対しては、参加者募集時のアナウンスについて検討する必要がある。
・知財セミナーで初めて、参加者数が予想を下回った原因として、・機材持参(推奨機種指定)の条件のハードルがあったこと、・上級者設定としたこと、・実施時間帯が早かったことが考えられる。

議題2.HPレポート進行状況について
レポートページ編集担当から、以下の現在の状況が説明された。
Vol.101 「J-PlatPat検索セミナー実施報告」3月21日公開済
Vol.102 「対比する意匠の類否判断に必要な視点」※編集終了につき、4月下旬公開
Vol.103 「著作権の引用と認められる場合」(仮)※5月公開予定

議題3.来年度の活動方向について
①委員会の体制につい(新委員長選任)
委員長から、当委員会のスターティング・メンバーである、(株)YAOデザインインターナショナルの徳岡委員に引き継いでほしい旨の申し出があり、出席者全員の賛成の基に、次年度からは徳岡委員長を中心にして活動することが決定された。

②次年度予算
次の議案である次年度の年間を通しての活動検討のために、申請している予算内容、【a)HPレポート制作費、b)セミナー2回+D8参加に関して、c)公報検索補助資料作成検討費について】が、委員長より説明された。

③年間計画について
以下の内容で1年間の活動を進めていくことが決められた。
セミナー 2回/9月・2月実施予定として、今回挙がった候補テーマについては次回の委員会で具体的に検討していく。
ミニセミナー(委員会内勉強会)/11月実施予定とし、委員自身の勉強のための開催とする。
委員会開催/5月、7月、11月(委員会内勉強会)、12月、3月を予定月とする。

④HPレポートについて
公開のペースに余裕を持ちながら、現・編集責任者が、担当を継続することとなった。

⑤D-8デザイン保護研究会への参加について
担当理事・委員長が基本的に研究会に参加し、状況に応じて各委員も参加していく方針で決まる。

※次年度第1回デザイン保護委員会は、5月18日(金)18:30~20:30に決定。
 

委員会ヒトコト通信


委員長を交代しました

JPDAデザイン保護委員会委員長が、丸山和子(丸山デザイン事務所)から徳岡健(株式会社YAOデザインインターナショナル)に引き継がれ、平成30年4月1日から徳岡新委員長を中心とした委員会の体制で進められています。引き続き、委員会は、「デザインの権利と保護」について、デザイナーの立場・デザインを社会に提案する側の立場として、考え・学びながら活動を続けてまいります。

 


引き続き、記事へのご質問・ご意見・ご要望等は下記アドレスで受け付けています。
MAIL:info@jpda.or.jp

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