デザインの権利と保護

Vol.115「デザイナーの起業・スタートアップ法的支援」

2019.9.13

自分の創作したデザインを製品化し、主力商品として販売したいという相談を受けた著者が、デザイナーと二人三脚で起業に向き合い、デザインの意匠登録を済ませることからスタートし、ブランド名やロゴマークの作成に対するバックアップと、決定した商標の調査を経て商標登録出願を済ませ、新ブランドを持つ企業としてのスタートを多方面から支えた経験が書かれています。

スタートアップ企業に対する「補助金」や「助成金」の活用について、又、「クラウドファンディング」の注意点にも触れられています。また、中小企業の相談窓口も紹介されていますので、ぜひ最後までお読みいただければと思います。

(2019年9月13日 編集・文責:デザイン保護委員会 担当 丸山 和子)

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情報発信


デザイナーの起業・スタートアップ法的支援

三好内外国特許事務所 弁理士 安立 卓司

スタートアップ企業(独立した個人事業主を含みます。)は経営的に問題を抱えていることが多いです。人材リソースに限りがあるため、経営、財務、税務、法律などあらゆる分野で専門性が不足する傾向にあります。そうかといって、それぞれの専門家に依頼するだけの潤沢な資金もありません。

経営や法律の分野において、知的財産の保護や活用も、手が回らない専門分野の一つでしょう。(注1)(注2)

しかし、事業を営む以上、自らの知的財産とどう向き合うかは、避けては通れない問題です。自らの知的財産を適切に保護しないと簡単に模倣されて独自性が失われ、自社商品が売れなくなってしまいますし、他人の知的財産権を侵害すれば訴訟事件に巻き込まれるおそれがあるからです。いずれも、体力のないスタートアップ企業にとって、致命傷になりかねません。

そこで、本稿では、スタートアップ企業の方、又は将来的にスタートアップをお考えの方に向け、自分の知的財産とうまく向き合っているスタートアップ企業の事例をご紹介しつつ、弁理士がどのようにサポートしているのかも併せてお伝えしたいと思います。

1.出発点は「模倣されたくない」
Aさんが私の勤務する特許事務所に相談に訪れたのは、数年前のことでした。話を聞いてみると、「ユニークなプロダクトデザインを思いつき、これを主力商品とする会社を起ち上げたい」「とにかく模倣されたくない」とのことでした。

私は驚きました。スタートアップ企業にもかかわらず、特許事務所に相談に来るくらい、権利意識が高かったからです。

デザインを見ると、確かに独自性が高く、最初の段階で適切に保護できなければ、後々模倣品の排除は大変だろうと思いました。模倣品をうまく排除できなければ、その会社の商品の独自性が失われ市場で埋もれてしまい、いずれ勝負できなくなるおそれがあります。

そこで、私は、デザインを適切に保護すべく意匠登録出願を強く勧めました。

私は、スタートアップ企業に対して、常に出願を勧める訳ではありません。上述の通り、スタートアップの資金やリソースは限られており、それらを知財保護に割くことで経営が破綻しては本末転倒だからです。

また、知財保護に資金やリソースを割くとしても、私は通常、意匠保護より先に商標保護をお勧めしています。商売をすれば必ず商標がついて回ります。商売がうまくいけばいくほど商標の価値は高まりますし、商売が順調にいっているときに「商標権侵害」で社名変更を迫られるのは大きな痛手であるためです。まずは屋号の安定。最悪の場合であっても、個別具体的な商品デザインは事後的に変更、代替可能であるとの前提に立っています。この点において、Aさんのケースは例外的です。

スタートアップ企業を支援する取り組みは、弁理士や特許事務所によって様々です。そもそも何の支援もしてくれないところもありますし、応援したくなるような事業であることを条件に、分割払いや半ば出世払いのような料金プランを用意しているところもあります。弁理士や事務所の経営方針、あるいは案件の個別具体的な事情によるところが大きいので、まずは気軽に弁理士に相談されることをお勧めします。

 
Aさんは意匠登録出願を決意。その後、出願は無事に登録となりました。プロダクトデザインを保護する足場は、ひとまず完成です。

2.いざというとき、事実を証明できますか?
Aさんの話から逸れますが、法律に詳しくないスタートアップ企業の場合、意匠登録出願の前に商品デザインをオープンにしてしまうことが往々にしてあります(これを「意匠が公知になって、新規性を喪失した」といいます)。事情は様々です。一刻も早く販売したかった、商談で見せたかった、展示会に出品した等々。

しかし、意匠や発明といった創作は、新しいことに価値があります。新しいからこそ、法的に保護する価値があるのです。したがって、新規性を喪失した意匠を出願すれば、新しくないことを理由に登録を受けることができないか、登録できたとしても無効理由を抱えてしまいます。

何気なくSNSにアップしたその写真が、将来の意匠保護を潰すかもしれません。

とはいえ、新規性を喪失した場合に全く権利化できないとすると厳しすぎるため、意匠法には新規性喪失の例外規定があります。この規定の適用を受ければ、自己の公知意匠の存在にかかわらず、意匠登録を受けることができます。しかし、そのためには、「証明」が必要になります。

新規性喪失の例外規定の適用を受けるための条件は、概ね次の通りです。

・自己の行為により意匠が公知になったこと
・公知になった日から12ヶ月以内に出願すること
・出願と同時に例外規定の適用を受ける旨を記載した書面を提出すること
・公知事実の「証明」書面を出願日から30日以内に提出すること

 
このように、法的な問題をクリアするため、当初予期していなかった「証明」を求められることがあります。

出願の局面だけではなく、訴訟の局面でも同様です。自分が権利を持っていなくても、権利者から訴訟を提起され、事件に巻き込まれることがあります。

例えば、「意匠権を侵害している」と言われて訴訟を提起された場合、出願より前に自分がその商品を販売していれば、「新規性を喪失していたので、意匠登録は無効だ」などと切り返すことができますが、たとえそのような事実があったとしても、その事実を立証できなければ反論は封じられます。
したがって、いざというときに証拠が提出できるかどうかは、大変重要なのです。

とかくスタートアップ企業の経営者は時間がなく忙しいと思いますが、少なくとも次の①~⑤の事実を記録しておくことをお勧めします。
①デザイン創作の経緯
例えば、「著作権を侵害している」と言われて訴訟を提起された場合を考えます。複製権侵害の要件は、依拠(真似したこと)と、著作物の同一性です。すなわち、相手方の著作物の創作や公開より前に自分の著作物が創作されていたことを立証できれば、依拠を否定し、非侵害との結論に導くことができます。

②デザインを譲り受けた経緯(他人にデザインしてもらった場合)
意匠を創作すると、「意匠登録を受ける権利」が創作者に原始的に帰属します。意匠登録出願をすることができるのは、「意匠登録を受ける権利」を持っている人だけです。この権利の帰属をめぐって争いになることがあります。また、権利をきちんと譲り受けていないと、意匠登録をしても無効理由を抱えることになります。したがって、デザインの創作を委託したケースにおいて、委託者が意匠登録出願をするためには、当該「意匠登録を受ける権利」を受託者からきちんと譲り受けている必要があります。

③デザイン公開の経緯
新規性喪失の例外規定の適用を受けるためには通常、「意匠登録を受ける権利」を有する人が、意匠を公知にしたことが条件になります。それ故、例えば自分が公知にしたケースだと、「いつ、どんな意匠を公知にしたのか」に加え、意匠を公知にした時点において自分が「意匠登録を受ける権利」を持っていたことも証明できるようにしておく必要があります。

④商品を展示した経緯(展示会に出品した場合)
⑤商品販売の経緯

 

意匠権を持っていなくても、不正競争防止法に基づき、他人の模倣を排除できる場合があります。不正競争防止法は、日本国内において「最初に販売された日から起算して3年」以内であれば、他人の商品形態の模倣は不正競争行為に該当する旨規定しています(不正競争防止法2条1項3号、同19条1項5号イ)。
この「最初に販売された日から起算して3年」について、保護期間の始期は展示会の出展時(商品販売前)であるとした判例があります(知財高判平成28年11月30日、平成28年(ネ)10018号)。
保護期間が3年で終了することは条文上明らかなのですが、保護期間が(a)商品の販売時から開始されるのか、(b)それより前の商品の公開時から開始されるのか、定説がない状態です。

したがって、不正競争防止法による保護を受けるためには、商品を展示した経緯や商品販売の経緯を立証できるようにしておくことが重要です。

また、ヒット商品となり、周知・著名になった場合は、商品の形態が「商品等表示」として保護される可能性があります(不正競争防止法2条1項1号、2号)。
この場合には、自己の商品等表示が周知・著名であることを立証する必要があり、いつどこでどれだけ宣伝広告をし、どれだけ売れたかなどの証拠を揃えなければなりません。

とはいえ、不正競争防止法で他人の商品を排除するには、原則として訴訟を提起しなければならず、「排除の根拠がそもそもあるのかどうか」から、訴訟で主張・立証していくことになります。そうすると一般的に、特許庁の審査を経て登録された意匠権があった方が、権利行使は楽だといえます。

 
3.かっこいいブランドにしたい
Aさんの話に戻りましょう。意匠登録出願は完了したAさん。

しかし、大きな問題が残されていました。当初使用していたブランド名やロゴマークが、どうもしっくりこない。折角商品のデザインがよくても、これではお客様や業者に魅力が十分に伝わりません。

そこで、伝手を頼り、ブランド名やロゴマークの作成を手掛けるデザイナーのBさんをAさんに紹介しました。AさんはBさんに自社のブランド名とロゴマークの作成を依頼します。

ブランド名やロゴマークは商標です。
つまり、自分の商品やサービスと他人のものとを識別するための標識ですね。他人の商標権と抵触するようなブランド名やロゴマークは採択できません。万一侵害事件に巻き込まれたら、スタートアップ企業の体力ではとてももちません。
逆に、商標権を取得すれば、自らの登録商標と紛らわしい他人の商標使用を排除できます。

 
ブランド名やロゴマークの決定に当たっては、Aさん、Bさん、そして私、三者が共同して行いました。Aさんがブランドへの想いをBさんに伝え、Bさんが商標案を作成・提示、私が商標調査をしてNGを除外し、残ったものから選出する。
こうして、商標が決定し、商標登録出願を済ませた後(その後、いずれも登録)、新ブランドとしてリリースの運びとなりました。

4.スタートアップを逆手に資金を調達する
信用力のないスタートアップ企業にとって、資金調達は難しい課題です。
しかし、スタートアップ企業だからこそ可能な資金調達方法があります。

(1)補助金や助成金の活用
Aさんのように意匠や商標を出願して権利化するためには、当然それなりの費用がかかります。ちゃんとした権利を取ろうとすると弁理士費用がかかりますし、特許庁に印紙代も払わなければなりません。

しかし、中小企業や個人事業主には、数多くの補助金制度、助成金制度が用意されています。申請は面倒ですが、メジャーな制度だと、費用総額の2分の1を限度として、国内出願であれば15万円、外国出願であれば60万円までの補助、助成を受けられます。借り入れではないので、返済する必要はありません。(注3)

Aさんは果敢な営業が実を結び、最近では大手百貨店にも商品を置いてもらえるようになりました。代理店を通じて海外販売の話も出始めました。Aさんもそろそろ外国出願に向けて、補助金申請を検討する時期に差し掛かっています。

(2)クラウドファンディング
インターネットを使って、不特定多数の人に資金提供を呼び掛ける。1人当たりの提供資金はわずかでも、まとまれば大きな資金になる。実績がなくても、アイデアやプレゼンが共感を呼べば、資金を調達できる時代になりました。資金提供する人は「才能はあるが資金がない人」を積極的に応援しようとしているので、実績がないことがむしろ強みになります。
実はAさんも、クラウドファンディングにチャレンジし、見事50万円の資金調達に成功しています。

しかし、クラウドファンディングが知財保護の足を引っ張ることも多々あります。

クラウドファンディングでは、赤の他人に事業の魅力を伝える必要があるため、事業のアイデアから商品デザイン、商品名に至るまで考えなしにオープンにしてしまうケースが多いと聞きます。そうすると、意匠が新しくなくなるので、意匠権が取れなくなりますし、商標を横取りされる危険が生じます。

意匠について新規性喪失の例外規定があるとはいっても、通常適用があるのはあくまで「自己の公知行為」について。出願前に、他人が類似の意匠を創作し公開してしまえば、新規性が喪失するおそれがあります。また、原則としてすべての公知行為について立証する必要があり、考えなしに開示すると立証不能に陥ります。(注4)一旦デジタルデータがオンライン上に流出すると、揉み消すことは極めて困難です。SNSの浸透などにより情報発信の欲求が高まる昨今、発信する前に「今、本当に発信してよいのか」を的確に判断する能力が求められています。
知財保護のためには、クラウドファンディングの前に出願するのが望ましい。しかし、そもそも出願する資金がないから、クラウドファンディングをする。何ともジレンマがありますが、クラウドファンディングを考えている方は、せめて次の点を事前に検討してください。

・出願せずにクラウドファンディングをすると、有効な意匠権が取れなくなるおそれがある。商品が魅力的であればあるほど模倣されるリスクが高くなる。意匠権がないと、模倣を止めてくれと言いにくくなるが、それでもよいか?
・商品名やサービス名(商標)を発表する必要があるか?他人に出願・権利化されると、自分がその商標を使えなくなってしまう。
・補助金や助成金を使ってもなお、出願費用を捻出できないか?
・事業の魅力を伝えるために、どこまで情報を開示すれば足りるか?(具体的なデザインまで開示する必要が本当にあるのか?具体的なデザインの開示を控えることができれば、資金が集まり次第、追って出願し、意匠権を取得できる可能性がある)

 
5.権利の役目は侵害模倣品を排除することだけではない
先日、Aさんから電話がありました。「新しいコンセプトのデザインを思いついたので、是非とも意匠登録をしたい」とのこと。

Aさんに訊いてみました。
「意匠権を取って、よいことはありましたか?どれくらい模倣を排除できているか、実際には見えにくいでしょう」 すると、Aさんは「あります」と即答しました。

「金融機関で事業の評価をされるのですが、スタートアップ企業であるにもかかわらず権利をきちんと取っていることは、評価してもらっています。また、価格など交渉で揉めたときに『Aさんとではなく、他の人と組んでやる』と言われても、『権利を持っているので同じ商品を流用することはできない』と言い返すと、負けません」

嬉しかったですね。交渉の場面で権利の存在をカードとして使うようアドバイスをしたことはありますが、うまく活用してくれているようです。

6.法律家と親しくなろう
Aさんはよく私に連絡を寄こします。事業の進捗報告や新商品の相談などについてです。こう書くと、私が弁理士の業務の域を超えてコンサルティングをしているようですが、そうではありません。私はただ、Aさんの話を聞いたり、それについて感想を述べたりしているだけです。

しかし、意外にそれが重要なのです。Aさんの事業の実情を十分に知っていることで、いざというとき、Aさんの知財戦略について、弁理士としてより適切な助言ができます。

「法律相談」になれば費用が発生しますが、「雑談」は無料ですからね。そういう意味では、Aさんは「雑談」がお上手で、後々の「法律相談」の伏線をうまく張っていると思います。

いざというとき、親しい法律家が近くにいた方が絶対に安心です。だからといって、親しくなるのに、いきなり事務所に電話したり、押しかけたりする必要はありません。

例えば、私は時々、JPDA(日本パッケージデザイン協会)の知財セミナーやその後の懇親会に参加します。私以外にも何人か弁理士が参加していることがありますので、そういった場所で出会ったら気軽に話しかけてみてください。参加しているのは、デザインに関心のある弁理士ばかりですから、きっとウェルカムです。

そのような場で、皆様にお会いできるのを、心から楽しみにしています。

(注1)
「スタートアップが直面する知的財産の課題および支援策の在り方に関する調査研究報告書」(平成29年度特許庁産業財産権制度問題調査研究報告書、三菱UFJ リサーチ&コンサルティング株式会社)において、
「創業前及び創業期において『知的財産の出願・維持費用が高い』、『知的財産に取り組む資金が不足している』とする割合が高く、費用負担や資金調達面の課題が大きい」(同P28)

とのアンケート結果が紹介されています。
また、スタートアップと知財の現状について、同報告書から引用にてご紹介します。

・「知財に関する気づきや認識を高めた経緯について尋ねたところ、企業トップが前職時代に知財関連の業務経験があったケース、社内・関係者の中に知財業務経験や意識の高いメンバーがいたケース、第三者の専門家と付き合う中で知財に関する知識や認識を高めたケースに大別される。いずれも偶発的な要素が大きく、特に民間企業等での勤務経験がないまま起業した大学発スタートアップ等においては、知財に関する気づきや認識を高めるきっかけを未だに得られていないケースが、潜在的に数多く存在していると思われる。」(同P59)

・「スタートアップ自身における課題としては、分野によっては知財に関心のないスタートアップが多いこと、金銭面や体制面での社内リソースが不足していること、『本当にビジネス上効果的な知財になるか分からない』等の疑問や悩みを抱えながら事業を進めていること、資金や人材リソースの不足等が挙げられた。また、『競合企業が侵攻してきた際の対応策がなかった』等のトラブル事案も挙げられたが、知財を活用することでうまく対抗策を講じているケースもあった。」(同P60)

(注2)
スタートアップを含めた中小企業をワンストップで無料支援する事業があります。

・知財総合支援窓口(INPIT):「経営」と「知的財産」の相談窓口。全都道府県に設置。
https://www.inpit.go.jp/consul/chizaimadoguchi/index.html

・公益財団法人東京都中小企業振興公社:幅広い分野の相談にワンストップで対応。
http://www.tokyo-kosha.or.jp/support/shien/soudan/index.html

・福岡市スタートアップカフェ:起業相談、コワーキングスペースあり。
https://startupcafe.jp/

(注3)
主な助成金や補助金をご紹介します。

名称 中小企業等海外出願・侵害対策支援事業費補助金(中小企業等外国出願支援事業)
主体 独立行政法人日本貿易振興機構(ジェトロ)
選定基準 先行技術調査等の結果からみて外国での権利取得の可能性が明らかに否定されないこと
・助成を希望する出願に関し、外国で権利が成立した場合等に、「当 該権利を活用した事業展開を計画している」中小企業者等であること
・産業財産権に係る外国出願に必要な資金能力及び資金計画を有していること 等
補助対象経費 外国特許庁への出願料、国内・現地代理人費用、翻訳費 等
補助率 1/2
上限額 1企業300万円、意匠・商標出願60万円

https://www.jpo.go.jp/support/chusho/shien_gaikokusyutugan.html

選定基準に「先行技術調査等の結果からみて外国での権利取得の可能性が明らかに否定されないこと」とあるのを見て、がっかりされる方がいらっしゃるかもしれません。「出願するお金がないから申請しているのに、申請するのに調査費用がかかるのだったら、本末転倒ではないか」と。

しかし、安心してください。そもそも意匠が新規かどうか、公知意匠として何が存在するかを事前に完全に調べ上げることは不可能です。あくまで、申請の審査において、権利取得の可能性が「明らかに」否定されなければよいのです。
J-Platpat (https://www.j-platpat.inpit.go.jp/) やDesign View (https://www.tmdn.org/tmdsview-web/welcome)で公知意匠を検索し、似ているものが見つからなければ、その旨を申請すればよいです。困ったら、是非弁理士を頼ってください。

名称 外国意匠出願費用助成事業
主体 東京都知的財産総合センター
補助対象経費 外国出願料、弁理士費用、翻訳料 等
補助率 1/2
上限額 60万円

https://www.tokyo-kosha.or.jp/chizai/josei/isho/index.html

地域ごとに、地元の中小企業を応援するための制度も充実しています。
地域の補助金の例として、下記の事業では、国内出願も補助対象になっています。宮崎県に限らず各都道府県に似たような制度が存在します。

名称 宮崎県中小企業特許等出願支援事業
主体 公益財団法人宮崎県産業振興機構
助成対象企業(一部抜粋) 宮崎県内に主たる事務所又は事業所を有する中小企業者であること。
(本社機能を宮崎県外に有する場合は助成対象とならない。)
助成対象経費 ・日本国特許庁へ出願する場合
(1)日本国特許庁への出願手数料
(2)国内代理人に係る費用
(3)日本国特許庁への出願に係る経費のうち機構が必要と認める経費
補助率 1/2
上限額 2出願まで、1意匠出願15万円

http://www.i-port.or.jp/events/clst/19050101

各種補助金や助成金の情報は、中小企業基盤整備機構のJ-Net21でも確認することができますよ(https://j-net21.smrj.go.jp/snavi/support/)。但し通常、予算の関係上、年度ごとの申請期限があります。事業計画との関係で、大いにご留意下さい。

(注4)
意匠審査基準31.1.4.1は、次のように規定します。
意匠登録を受ける権利を有する者の行為に起因して同一の意匠が複数回公開された場合において、意匠法第4条第2項の規定の適用を受けるためには、原則として、それぞれの『公開の事実』が『証明する書面』に記載されていなければならない
ただし、意匠登録を受ける権利を有する者が、意匠登録出願前に公知の意匠に該当するに至った意匠を、先の公開に基づいて複数回に亘って事後公開した場合には、その先に公開された意匠について意匠法第4条第2項の規定の適用を受けるものであれば、その先の公開に基づく第2回以降の公開によっても、その意匠は公知の意匠に該当するに至らなかったものとする。」

また、大阪地判平成29年4月20日は次のように判示しています。
権利者の行為に起因して公開された発明が複数存在するような場合には,本来,それぞれにつき同項の適用を受ける手続を行う必要があるが,手続を行った発明の公開行為と実質的に同一とみることができるような密接に関連する公開行為によって公開された場合については,別個の手続を要することなく同項の適用を受けることができるものと解するのが相当である」

そうすると、「出願前に複数回、意匠を公知にした場合、原則として、全ての行為について、証明が必要。例外的に、証明した公知行為と実質的に同一とみることができれば、証明不要な場合がある。」ということになるかと思います。新規性の判断は厳格だということですね。

(以上)
 

委員会ヒトコト通信


セミナー予告 <JPDA知財塾を開講します>

デザイン保護委員会では、少人数で講師を囲み、日頃の疑問や問題点を率直に話し合い、意見交換やアドバイスを受けるなど、従来の講師からの一方的なお話を受け止めるセミナーとは一味違った勉強会を知財塾として開講します。

日程や講義プログラム・参加申し込みのご案内等の詳細は次号Vol.116(10月上旬公開)に掲載します。

 


引き続き、記事へのご質問・ご意見・ご要望等は下記アドレスで受け付けています。
MAIL:info@jpda.or.jp

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