デザインの権利と保護

Vol.117「セミナー報告<意匠の類否判断の手法>」

2019.11.7

出願意匠と公知(既に知られている)意匠を見比べるときに、似ているか・似ていないかの判断を特許庁の意匠審査官はどのように進めているのでしょう。相対的に重視するべき部分と相対的に軽視するべき部分をどのような周辺背景のもとに整理していくのでしょう。そして、決定的な判断要因となるのは、いったい何なのでしょう。

本セミナーでは、特許庁で長年意匠の審査に係わってこられた講師により、実際の審査事例を基に解りやすく多角的に解説されました。講義後の参加者と講師とのQ&Aのまとめも、本稿に掲載しています。
次号Vol.118では、9/12セミナーの講師を務めてくださった原田雅美弁理士に寄稿いただき、意匠の類否判断における<意匠の類似とは>についてをお届けします。

※11月26日開講の「JPDA知財塾」塾生募集中です。(■委員会ヒトコト通信 参照)

(2019年11月7日 編集・文責:デザイン保護委員会 担当 丸山 和子)

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情報発信&活動報告


9月12日(木)デザイン保護委員会主催 知財セミナーを開催しました

<似ている(類似)?似ていない(非類似)?デザイナーのための類否判断セミナー>実施

■今回のセミナーを振り返って
デザイン保護委員会 担当理事/高田 知之

今回のデザイン保護セミナーは、特許庁で意匠審査官・意匠制度企画室長・意匠上席審査長・審判長などを歴任され、意匠の類否判断に長年携われてきた弁理士の原田雅美様を講師にお迎えし、“意匠の類否判断”をテーマに開催しました。

デザイン提案に際して、如何に他人の登録意匠との類否をチェックしたら良いのか、今回のセミナーでは意匠法における類似(似ている)の基本的な考え方に加え、類否の判断やそのための手法について、豊富な事例に基づき解説をいただきました。様々な事例の解説を通じ、類否の判断規準はどういった視点を持つべきなのかについて学ぶことが出来ました。
自身の提案デザインが他の登録意匠と類似するかどうかについて、悩まれる場面も多いと思います。その時は本セミナーで学んだことを思い出し活用していただければと思います。

今年は意匠法改正があり、来年に向けて意匠審査基準も改訂されます。デザインに関する知財関連知識を学ぶのにちょうど良いタイミングだと思います。デザイン保護委員会では今後もセミナー、勉強会を通じ、みなさんのデザインを強くするための基礎を学ぶ場を提供して行きます。

■実施セミナーの概要報告

日 程: 9月12日(木) 18:00受付開始 18::30開講 20:30終了
講 師: 原田 雅美 弁理士 (のぞみ特許事務所)
会 場: 東洋インキ株式会社 大会議室
参加費: 1,000円
参加者: 54名 (会員45名、非会員9名/内、弁理士4名)+デザイン保護委員7名
実 施: JPDAデザイン保護委員会/協力:JPDA事務局

 

(講義風景) ※以下の掲載写真撮影:委員/大谷 啓浩


(原田講師)


(開催挨拶/伊藤理事長)


(司会/徳岡委員長)

 
■質疑応答の報告
記録・整理:委員/斎藤 郁夫 ・内容確認まとめ:デザイン保護委員会

Q1) 原状として意匠を調べてまでプレゼンすることはしておらず、意匠登録はクライアント側がしているが、デザイン事務所としてどこまで関わるべきか。
提案デザインに対して「権利的に、これは大丈夫か?」と聞かれることが多々ある。
契約で決まっている場合は、双方で納得して進められるが、そうでない場合は、デザイナーは立場が弱いので責任を負わされてしまうことが多い。
A1) クライアントにもよる。デザイナーが自分で権利をとって売り込む場合はデザイナーだが、クライアントからデザイナーに依頼する場合はクライアントが調査することが多い。

一番てっとり早いのは意匠出願してしまうこと。そうすれば特許庁が調べてくれる。但しその場合、半年くらいかかってしまう。まずはJ-PlatPat(※注)で調べるなどはやっておいた方がよい。
また、デザイン事務所に責任がある場合もある。デザインをゼロから発想することは少ないため、どこかで見かけたものを、無意識にデザインしてしまうこともあり、結果的に似てしまうことがある時など。

(※注) 特許情報プラットフォーム https://www.j-platpat.inpit.go.jp/

Q2) シンプルを追及すると、インターネットで調べてみたら似ていたということもあるが、このような場合はどう対応したらよいか。(A1.を受けて続けて同じ方から) 
A2) 心配であれば出願して権利を持っておくのがよいかと思うが、何から何までそういう訳にもいかないので、最低限、公知の資料で(J-PlatPatなどで)チェックすることは、クライアント側もデザイナー側もやるべき。
補足として言い添えたい。
クライアント側、デザイナー側どちらが調査し、また権利を取得するかは契約内容による。
一般的にはクライアント側がデザインされたもの一切を引き取り、調査、出願を行い、権利を取得し、デザイナーは名前を公表して知名度が上がればよい、とするケースが多い。

Q3) 世の中で売られているパッケージデザインの何割くらいが意匠出願していると思われるか。
A3) それは分からないが、デザインされているものすべてが出願されているとは思えない。
例えば、ペットボトルは形状を設計したところが登録しているが、表面の模様(ラベルデザイン)をすべて出願しているとは限らない。

Q4) テキストp.13の【新規性の条件】で(第3条1項二号)「電気的通信回線を通じて講習に利用可となった意匠」とあるのはどういうことか。
A4) インターネットのこと。出願前にみんなが見られる状況になっているものは登録にならない。注意しなければいけないが、間違えてホームページに載せてしまった場合もこれにあたる。

いったん公知になると出願できない。
展示会に出して一番反応のよかったものを出願しよう、ということがよくあるが、展示会に出すと公知になり、新規性を失う。
しかし、展示会に出してから1年以内に意匠登録出願をして、展示会に出品した事実を示せば、展示会に出品したことは無かったとみなされ、例外的に意匠登録を受けられる場合もある。

Q5) ①デザインの市場調査で、例えば、1.000人や10.000人に聞いた場合も公知となるのか。
②類似するかどうかをインターネットでアンケート調査をして、「類似する・しない」を判断することはできないか?(A4.を受けて)
A5) ①この場合は公知となる。
②アンケート調査は、不当競争防止法では使われる場合もあるが、「似ている・似ていない」の判断で、アンケート調査を使った事例は知らない。

Q6) パッケージデザインの核となるアイデア、表現を開発してクライアントに提案したデザイナーがいた場合、リニューアルなどで少しだけ変わる場合の権利は元のデザイナーにあるのか、それともクライアント側にあるのか。
A6) 契約による。
クライアントがその核となるデザインで意匠登録出願をして、登録になり、その登録を本意匠として、リニューアルのデザインを関連意匠(本意匠に類似する意匠として)として出願をして登録を受けた場合、本意匠の創作者と関連意匠の創作者が違うことはある。
リニューアルにはいろいろな方が関わること多いが、出願人が同じであれば関連意匠とされることが多い。

但し、来年から意匠法が変わるため、継続してリニューアルしたものも本意匠の出願から10年間は、関連意匠として出願できるようになる。
元の本意匠の権利を持って出願した者は関連意匠の権利者になれる。

Q7) 類否判断の中で「常識的な範囲で」とあるが、その定義について知りたい。常識といっても個人、年齢、性別で変わるのではないか。
A7) ひとつの決まりはない。法律に書かれているからといって、どこまでが常識か明確になるわけではない。例えば、「タッパー」(※注)などは口径、深さなど様々で、その世界でよくあるものが常識の範囲とされる。
意匠権は日本国内のものなので、少なくとも日本においては同一線上で捉えることができるか、常識的となるかの判断は争い方次第。

(※注)保存容器「タッパーウェア」

Q8) アンケートをとって、これを我々は常識と判断している、とすることはできないか。
A8) 裁判の場合、出願されたものの「似ている」「似ていない」の判断は「100人中99人が似ていると言った」などではなく、創作の中にどこを守っていく価値があるかなどの考え方が働いて判断している。

Q9) 意匠登録出願をして、意匠登録を争う場合、「登録されているもの」「世の中にあるもの」を参照して、判断するものなのか。
A9) 周辺意匠で、例えばA.のデザインの特徴はどこにあるのか、それが生み出された以前のものでどんな製品が世の中にあったか、その特徴は何か、などを見てA.のデザインの特徴が似ているか否かを判断する。

似ているものが周りにあって、それが登録を受けていたとするなら、すごく細かく見て登録されたと考えることもできるが、その意匠に「権利がない」として権利をつぶしにいくこともあれば、細かい違いがいっぱいあるので「類似していない」として申請することもある。
申請したものが通る、通らないは、特許庁にある資料で判断しているため、特許庁でもカタログや雑誌、ウェブの情報も資料として色々集めているが、特許庁に無いものは分からないので登録してしまうこともある。
よって登録を受けたからといって絶対に大丈夫なわけではないし、登録後に無効審判を請求されてつぶされることもある。

Q10) スライドp.51、52【意匠の利用について】の項で、先願の模様無しの形状(皿)が登録されている。そして後願の別の出願者の形状は同じ皿に模様を付けたものも登録されている。このような場合は類似と判断されないのか。
後願の模様付の皿は先願の利用関係にあるのではないか。
A10) 今のところ、形状のみの意匠は形状だけの権利、模様がついたものは形状と模様がセット、形状に特徴がある場合は類似、とされることもある。

しかしながら魔法瓶のように形状はありふれていて、模様に特徴が強い場合は、非類似として判断されて登録されることがある。
この場合、形状について他者が権利を取得している場合には利用関係が生じる場合がある。
裁判で利用関係を争った事例はあまり多くない。

Q11) 冒頭にデッドコピーとあったが、どういう判断でデッドコピーといえるのか。
A11) デッドコピーとは、悪意がある(例えば明らかに元があるのを分かっていて作っている)場合、わざと真似をして近いものをつくり、逃げるためにちょっと変えている、と思われるものをデッドコピーと判断している。

最近では三宅一生のバッグで三角形を散りばめたもの(※注)で、ひとつひとつの形は違えても雰囲気を似せているものは、不競法の視点で、そんなことをしてはダメ、といったような懲罰的な判断を下されたことがある。

(※注)https://www.fashionsnap.com/article/2019-06-18/avancer-baobao/

<文中(※注)は委員会による。質問・応答とも発言そのままではなく、要約しています。>

■アンケート集計 (有効回答:46名)
委員/山本 典弘

Q1.デザイン保護委員会のセミナーに参加したのは

Q2.あなたの仕事、役割など
 【業種】

 【職能】

 【経験】

Q3【A】意匠法における「類似」の概念について

Q3【B】意匠審査基準の解説/類似判断の基本について
 その1:類否判断の主なポイント

 その2:類否判断の事例

Q3【C】類否判断の進め方
 その1:審査官の手法の基本

 その2:意匠審査における類否判断結果の解説

Q3【D】類似範囲を推測する方法

Q3【E】意匠権調査の進め方

以上

 

委員会ヒトコト通信


JPDA知財塾/11月26日開講します。塾生の定員までもう一息です!

Vol.116でお知らせしました、11月26日開講の「JPDA知財塾」は下記の日程で進行していきます。
現在お申し込みをいただいていますが、塾生の定員までもう一息です。ぜひ参加のご検討をお願いします。

第1回 「おさらい知的財産権」
11月26日(火) 15:00~17:30 (30分の懇親会を含みます。)
第2回 「デザイン創作過程における留意点」「新しい意匠法の概要と活用のポイント」
2月4日(火) 15:00~17:00
第3回 「デザイン業務契約・製品デザインの保護のために」
4月7日(火) 15:00~17:00

詳細・お申し込み方法はVol.116(前号)に掲載してあります。
>>> Vol.116「塾生募集!JPDA知財塾を11月26日に開講します」

 


引き続き、記事へのご質問・ご意見・ご要望等は下記アドレスで受け付けています。
MAIL:info@jpda.or.jp

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