デザインの権利と保護

Vol.121 デザイン業務契約、製品デザイン保護のために/第3回知財塾

2020.8.20

2020年4月7日(火)実施予定の第3回知財塾は、新型コロナウィルスの影響で延期していましたが、講師の永芳弁理士にもご協力いただき6月24日(水)に、感染防止のためオンラインで開催致しました。

第3回知財塾講義テーマ
デザインの業務契約について

  • 契約内容のチェックポイント
  • 著作権譲渡契約の注意点
  • 下請法
  • 製品デザイン保護について
  • 模倣品被害に遭わないための対応方法
  • 水際対策など

    • 実際の事例をもとに解説していただきました。
      また事前に塾生からいただいた質問について解答、解説をしていただきました。

      知財塾は、少人数で講義を聴くだけのセミナーではなく、講師と参加者が疑問点や問題点を話し合いながら意見交換できる勉強会を目指していましたが、第1回、2回とは違いオンラインでの開催は、意見交換の場としては少し難しい部分もありました。本来なら3回終了後にさらなる意見交換の場として交流会も検討していたのですが実施することができず残念に思っています。しかしながら今回オンライン開催を実施できたことは、委員会としても良い経験になり、さらなる工夫をして、次のセミナー企画などに繋げていきたいと考えています。知財塾で学んだことが参加者の皆様のお仕事に少しでもお役に立てれば幸いです。会場を提供していただきました東洋インキ株式会社様、準備などご協力いただきました事務局の皆様にこの場を借りて感謝申し上げます。
      (デザイン保護委員会 委員長/徳岡 健)

      ◆このページに限らずVol.1~これまでに掲載した内容は著作権・他で保護されています。
無断転用はお断りいたします。引用の場合は引用部分を明確にし、出所の明示をお願いいたします。
       


      オンラインで開催 第3回JPDA知財塾 実施報告

      2020年6月24日(水) 講義時間15:00~17:00
      東洋インキ株式会社 大会議室(京橋エドグラン29階)より
      Zoomを利用したオンラインでの開催

      講師:永芳太郎弁理士/みずの永芳特許事務所 所長

      塾生:11名参加、2名欠席

      「知財塾」第3回講義内容の紹介

      全3回で組まれた知財塾は、第1回「知的財産の概要」、第2回「デザイン創作過程における留意点」と「改正意匠法の概要と活用のポイント」について講義してきましたが、第3回は、「デザイン業務契約」と「製品デザインの保護」に関する留意点と、塾生のみなさんの疑問や抱える課題の解消のために、まとめの質疑応答を行いました。

      1.デザイン業務契約について

      デザイン制作業務の依頼、受託の際には、確認事項を書面化して契約を交わすことによって、発注側と受注側の間に行き違いなどが生じることなく円滑に進行することが望まれます。

      しかし、デザイン保護委員会のレポート「デザインの権利と保護」のVol.24 (https://library.jpda.or.jp/wp-content/uploads/2020/06/Vol.24「権利の帰属の考え方・会員アンケートより」.pdf)に掲載された、権利の帰属と契約に関するアンケートの回答を見ると、
      「権利の帰属、及び著作権のことを説明しても、たいした事はないと聞き流されることが多い。」
      「不採用案の無断転用を禁止する業界的な運動および規則を望む。」
      「デザイナーの存在を無視して、メーカーやコンバーターの都合で創作デザインが使いまわされる」などの回答があり、実状としては、必ずしも思うように進行していない状況があるようです。

      (1)契約内容のチェックポイント

      「知財塾」を主催したデザイン保護委員会は、簡易版であっても書面によって契約を交わすことを押し進めるために、デザイン保護の基本的なポイントを押さえた「デザイン保護ハンドブック」の中に契約書のサンプルを掲載(日本パッケージデザイン保護協会H Pの会員専用ページにも掲載)しています。

      「デザイン保護ハンドブック」にも挙げられている、契約内容のチェックポイントについて改めて確認すると共に、項目ごとに契約書の具体的な例文を紹介しました。

      <契約内容のチェックポイント>
      ①契約の目的
      *誰と契約するのか *何について契約するのか
      ②業務期間・納入期限
      *いつまでに完成、引き渡すのか
      ③納品の態様
      *どのような形で納品するのか *いつ納品が完了するのか
      ④対価・対価の内訳
      *対価の額 *対価の内訳 *支払方法
      ⑤不採用案の扱い
      *不採用案は、誰のものか
      <契約書の例文>
      第○条(不採用案の扱い)
      対価の対象とならない成果物(不採用案)は、乙に返却されるものとする。
      2甲は、不採用案を使用するときは乙にその旨を通知し、対価を支払わなければならない。
      ⑥目的外の使用
      *他用途への転用の扱い *仕様を変更した使用の扱い

      <契約書の例文>
      第○条(目的外の使用)
      甲は、成果物を「業務仕様書」に定めた目的外に使用する場合、及び仕様を変更した態様で使用する場合には、乙の許諾を得る必要があり、別途対価を支払うものとする。
      ⑧権利の帰属・譲渡
      *知的財産権、登録を受ける権利の譲渡の有無
      *著作権の譲渡、同一性保持権の扱い

      <契約書の例文>  
      第○条(権利の帰属)
      本件成果物の所有権、著作権(著作権法第27条及び第28条に定める権利を含む。)及びその他一切の知的財産権は、・・・をもって、乙から甲に移転するものとする。
      2乙は本件成果物につき、著作者人格権を行使しないものとする。
      ⑨契約の解除
      *中途解約時の取決め
      ⑩秘密保持
      *秘密情報の守秘義務
      ⑪非侵害補償
      *第三者の権利を侵害しないことの保証

      (2)下請法(下請代金支払遅延等防止法)

      契約書の手交については、前記1.の「権利の帰属と契約に関するアンケートの回答」の中でも、「発注者とは先々まで良い関係を保って行かなければならないので、両者間での取り決めはしておくべきだと思う。」とはいえ、「権利を主張しすぎて人間関係を悪くし、しいては仕事が来なくなるより、・・」と、揺れ動く心境が現れています。

      発注者の優越的な地位の濫用を禁止して、弱い立場の下請け事業者を守る法律として制定された下請法(下請代金支払遅延等防止法)は、原則の一つとして、書面によって発注書を交付する義務があることを明記しています。
      書面によって契約を取り交わすことが、無用な行き違いによる紛争を予防し、トラブルが起きたときに契約の内容を特定するための第一歩になります。

      2.注意すべき著作権の譲渡に関する契約項目

      著作権の譲渡契約書に「全ての著作権を譲渡する」と記載しても、譲渡されない権利があります。

      (1)著作者人格権

      著作者の人格的利益を保護する著作者人格権は、著作者本人にのみ認められる権利として、他人に譲渡することができないと規定されています(著作権法第59条)。
      譲渡契約書では、「著作者人格権は行使しない。」とされることがあります。

      2)著作物の翻案、加工に関する権利

      著作物をそのまま同じ形でコピーするのではなく、イラストからぬいぐるみなど形を変えて複製をする権利(翻案権)は、契約書に譲渡する項目として明記されていないと、譲渡されたものとは認められません。
      翻案権も譲渡の対象とするためには、譲渡契約書に、「全ての著作権(著作権法第27条、同第28条に定める権利を含む)」などと項目を挙げて記載する必要があります。

      (3)翻案権の帰属に関して混乱した例

      彦根城築城400年祭のキャラクター「ひこにゃん」について、応募作品から採用された3ポーズのイラストの著作権譲渡契約(全ての著作権を譲渡する契約)はされていましたが、ぬいぐるみへの翻案権、同一性保持権などの扱いが長く争われることになりました。

      (4)著作者人格権(同一性保持権など)をめぐる争いの例

      書籍の文中に使用する2色のイラストという指定で依頼されたイラストが、表紙に使用され許諾なく色彩を変更・追加されたことについて、同一性保持権の侵害であると認められた例があります。
      イラストを使用した側の、「表紙への使用は許諾があったと解すべき」、「編集権の行使として着色した。黙示の合意があったというべきである。」という主張は認められませんでした。

      3.製品デザインの保護について

      模倣品による被害を回避するためには、意匠権など有効な権利を確保しておくことが基本ですが、全ての製品について権利化の手続き、費用をかけることができないのが現実なので、製品の発売に至るまでの業務委託先の選定や情報の管理が大切になります。
      また、流通する製品に真正品であることを示す独自のマークなどを付すことが有効な場合もありますが、模倣品への断固たる対応の積み重ねによって、権利意識の高い会社、創作者であるという評価を確立することが、長く抑止力を得ることになると思われます。

      (1)模倣品への対応(警告の出し方、受け方)

      模倣品を発見し、製造販売の中止を求める警告書を発送する際には、まず相手製品を入手し、警告の対象を特定して具合的な対比を行い、必要に応じて弁理士など専門家の鑑定も得て、確信のある類否判断に基づいて対処することが重要です。とりあえず警告してみる、というような対応は、前記の権利意識の高い会社、創作者であるという評価の確立にはつながりません。警告を受けてしまった場合にも、あわてることなく一つ一つ確認、検討することで対処の方法が明確になります。

      (2)税関の水際対策の概要と利用方法

      税関では、特許権、実用新案権、意匠権、商標権のほか、不正競争防止法で規制されている商品形態を模倣した商品(デッドコピー商品)などに基づいて、模倣品の輸出入を差止めています。自社製品について模倣品が輸入される情報を得た場合には、国内に流通してしまう前の水際対策として、事前に税関に輸入の差止めを申し立てておくことができます。その手続きは、申立書のほか、差止めの根拠となる権利に関する資料、差止め対象品に関する情報を提出するのですが、書面の作成方法などについて東京税関の知的財産調査官が具体的な相談に応じているので、活用されると良いと思います。

      4.まとめの質疑応答について

      事前に寄せられていた質問を含め、同一性保持権に関する事例や、契約をめぐる具体的な事例の解釈などについて、質疑応答の時間を多めにとりました。

      (以上当日の内容のまとめ:講師/永芳太郎弁理士)

       


      引き続き、記事へのご質問・ご意見・ご要望等は下記アドレスで受け付けています。
MAIL:info@jpda.or.jp

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