デザインの権利と保護

Vol.132 同じデザインの袋と箱は意匠が類似しているか?

2023.11.9

連載4回目の「知財くんがゆく」のテーマは、デザイン保護委員会の委員でもあります鈴木正次特許事務所 山本典弘弁理士の「同じデザインの袋と箱は意匠が類似しているか?」についてのコラムです。
会員の皆さんは、同じブランドで、容量違い、形態違いでのデザイン開発をする場合の意匠、商標の取り扱いなどどうしていますか?
今回のコラムについて、ご意見、ご感想などなどありましたらぜひデザイン保護委員会までお寄せください。

(公社)日本パッケージデザイン協会 事務局
デザイン保護委員会「知財くんがゆく」宛
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(編集・文責:デザイン保護委員会)

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(ロゴデザイン:大谷啓浩)

知財くんがゆく 第4回

デザイン保護委員会 山本典弘

同じ商品(デザイン)の横展開をすることが多々あると思います。マチのない包装用袋に入れたり、包装用袋6個入れた包装用箱に入れたり、さらに大容量のボトルに入れて商品展開することがあります。同じ商品や同じシリーズ商品の場合、パッケージによらず、同じ模様で展開したいところです。
このような場合について、意匠権を考えてみたいと思います。
例えば、図1のような同じ模様を、長方形のマチなしの包装用袋とした場合、6面の包装用箱とした場合、円筒形の茶筒のような包装用容器とした場合です。これらの場合では、意匠としては“互い類似していない”と判断されていることが多いように思います。

【図1】 

【図2】 

意匠が類似するとは

意匠法で、意匠は「物品(建築物、画像)」についての「形態(形状、模様、色彩とこれらの組み合わせ)」です。ここでは、パッケージについて考えますので、建築物や画像を除いた「物品」だけとします。
意匠権の効力は、同一又は類似の意匠の範囲に及びます。「意匠が同一又は類似するか否か」を判断する場合、「物品が同一又は類似」か否か、「形態が同一又は類似」か否かで考えるとされています。教科書などは図3のような対応表で説明されています。「意匠が類似」となる場合は、「形態が同一又は類似」でかつ「物品が同一又は類似」の場合です。形態が「非類似」あるいは物品が「非類似」であれば、意匠としては「非類似」となります。

【図3】

関連意匠から意匠の類似をみる

意匠法では、自己の「本意匠(基礎意匠)」に類似する意匠は「関連意匠」として登録を得られるという関連意匠制度があります。つまり、「本意匠」と「関連意匠」とは互いに類似する意匠となります(関連意匠の意匠同士が類似するか否かは判断されていません)。逆に、2つの意匠が本意匠・関連意匠の関係に無く、独立して登録していた場合、その2つの意匠は互いに「非類似の意匠」ということになります。なお、これはあくまで特許庁の審査における判断で、裁判所でどう判断されるかはなんともいえません(裁判所でも尊重されると思われます)。
なお、2020年の意匠法の大改正の前年の審査基準の改正で、「全体意匠」と「部分意匠」の垣根がなくなり(「全体意匠」と「部分意匠」が類似する場合もあることになりました)、意匠出願する際に【部分意匠】という記載欄もなくなりました。したがって、今では「全体意匠」「部分意匠」という概念はなくなり、「部分意匠」は「部分に関する意匠」「部分について登録を受けようとする意匠」などと呼ばれています。しかし、この原稿では、便宜上、なじみのある「全体意匠」「部分意匠」という表現を使っています。
例えば、図4のように、円筒型の意匠で、多少高さが違う(径が違う)場合には、互いに類似すると判断されています。妥当なところだと思います。

【図4】

一方で、図5のように、面の模様がほぼ同一ですが、マチのない長方形の包装用袋と、奥行き(厚さ)のある包装用箱では、互いに「非類似」と判断された例があります。

【図5】

このように、2つの意匠が互いに「非類似」と判断された場合、図3のように、形態そのものが非類似の場合と、物品が非類似の場合があります。一般に物品が類似するか否かは「用途機能の共通性」で判断されているようです。これをあてはめると、箱と袋では「袋を切って開けるか」「蓋を開いて開けるか」「再封鎖するか」その機能の差まで判断されると用途機能の共通性がなくなり、「物品が非類似」と判断された可能性もあり得ます。ただし、物品が非類似か、形態が非類似か、あるいは物品も形態も非類似か、その判断は不明です。
この図5の事例をデザイン保護委員会のメンバーで議論した際にも「え!非類似になっているの?」という肌感覚でした。
図5の事例では「全体意匠」ですが、同じ「包装用袋」同士、「包装用箱」同士が関連意匠で登録されています。これは、互いに色違いの意匠ですので、類似の判断は妥当かと思います。

【図6】

その一方で、図6の事例は、一点鎖線の内側の模様部分を「意匠登録を受けようとする部分」とする「部分意匠」です。模様を同じにする「包装用箱」とマチが無い「包装用袋」が類似するとされ(図6の右側)、「包装用箱」と円筒形の「包装用容器」(しかも曲面)が類似する(図6の左側)、という判断がされています。なお、『知財くんがゆく』の第1回目で書きましたように、ざっくりいうと「読める文字は意匠を構成する模様から除外して考える」ので、図6の場合、模様を構成するデザインの要素は少ないものです。なお、読める文字の部分が文字の形をした模様があるという判断かもしれません。
また、「部分意匠」の場合、破線(点線)はどこまで特定しているかなかなか難しく、この模様(一点鎖線内)が画期的な場合もありますが、図5の事例ように「包装用箱」が「包装用袋」と類似しないとする判断と比べますと、若干の疑問が生じます。

横展開の場合の意匠の活用

図5の場合、包装用箱と包装用袋が互いに非類似とはいえ、かなり類似に近い状態にあるかもしれません。
また、図5の場合を、仮に図6のように正面の模様だけ(青の一点鎖線の内側)を「意匠登録を受けようとする部分」とする「部分意匠」の出願とした場合を考えます。図6の登録例から考えますと、両意匠は互いに類似するという判断になったかもしれません(予想)。

【図7】

なお、図5の場合、出願人の考えとして、あえて「包装用袋」「包装用箱」を「全体意匠」で出願している場合もあります。模倣する際には販売されている商品を見ますので、販売されている商品をベースにして「全体意匠」で意匠登録を組み立ていたかもしれません。「部分意匠」の場合、「部分として登録を受けようとする部分」を決め打ちしていますので、「その決め打ちした部分」自体の類似の範囲は狭いのではないか、という考えもあるようです。
このように、検討すべき点は様々考えられますが、商品(デザイン)の横展開する場合には、やや意匠法は苦手なところで、工夫が必要になります。

まとめ

この点、商標の場合には、図8のようにパッケージの内容物が登録商標の「指定商品」になりますので、パッケージの中身が「指定商品」と同一又は類似で、同じ登録商標(図形の商標。図1、図2では模様)が入っている限り、登録商標Aの使用になり、各パッケージ(包装用袋、包装用箱、包装用容器)に商標権Aの効力が及ぶことになります。よって、提供するパッケージの形状は問いませんので、商標の方が横展開に対応しやすいとも考えられます。

【図8】

このように、商品やデザインを横展開する場合には、意匠か商標か、両方か、など考えて、使う権利を考えていく必要があると思います。

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