情報の森コラム

シニアシミュレータ体験記

[UD/ユーザビリティ] 2014.7.29

少々以前の話ですが、(公社)包装技術協会(JPI)が主催するセミナーの一環で、シニアシミュレータの装着体験をしてきました。この高齢者体験プログラムは、(公社)長寿社会文化協会(WAC)が開発したシニアシミュレータ「うらしま太郎」を利用して、高齢者(75歳~80歳程度)の体の動きを疑似体験するというもの。
WACのインストラクターの指導のもと、サポーター、おもり、手袋、耳栓、メガネなどを装着し 、PETボトルのキャップ開封、カップ麺のシュリンク開封、小袋開封といったパッケージ利用に関わるものや、小銭入れから指定の硬貨を取り出す行為などにトライしました。

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装着してから歩いてみます。思うように足があがらない、つま先があがりにくいので躓きそうになります。見え方、聞こえ方も変わって不安になり、かなり神経を使います。また、足、腕、指先の動きがぎこちなく、あらゆることがスローモーになります。「よいしょっ」と気合を入れないと腕もあがらないし。
パッケージの開封体験では、カップ麺のシュリンクフィルム・・・いつものように底のシール部をつまんで開けようとしましたが、うまくつまめない。これは指先の感覚が乏しいのと小さいところに力が入りにくいのと両方が関係しているようです。

PETボトルのキャップ開封は、シュリンク開封よりはすんなりいくと思っていたのに(普段なら握力50キロあるし、と過信)、すべるし、力が入らない。キャップをひねって開けるのはあきらめて、利き手(重りやサポーターを装着している右手)でキャップだけ押さえて、左手でボトル本体を回してようやく開封できました。左手は手袋はつけているとしても、重りも何もつけていないので、これはシミュレータ体験としては禁じ手ですが、ひねるような回転行為は径が大きい方がやりやすいのは物理の法則。そういえば、普段から「本体側をひねる」というのはよくやっているような気もします。これまであまり意識せずにやっていたことにも気づかされます。
分別のために、PETボトル本体からシュリンクラベルをはがすのには一苦労。シミュレータメガネをかけているのでぼやっとしてミシンの位置がみつけにくい。手触りでもわかりくい。ようやく見つかってもきっかけがつかめない。家だったら、ハサミかカッターでラベルを切るのだろうなと思いつつ、結局断念。

指先が思うように動かないと、小銭入れから硬貨を出すのも大変です。スーパーのレジで並んで待っている時に、前にいる高齢者が硬貨を一枚一枚取り出してはトレイに出している光景に遭遇することがありますが、まさにそれを体験。はっきり見えないので選ぶのに時間がかかる、やっと見つけてもそれをつまめない、つまめても腕をあげにくいので一枚一枚出しては置いて、ということになります。
消費税が8%になって一円玉に触れることも多くなりました。コンビニではさまざまな電子マネーが利用できるようになりましたが、スーパーではクレジットカードも含めて自社系に限定しているところもあり、まだまだ現金支払いが中心です。端数を出して切りのいい金額のお釣りをもらう、というのも気持ちがいいですし、お釣りが500円ピッタリになるように少々複雑な計算をするのは頭の体操にもなりますしね。(五百円玉貯金のためにわざわざやったり)

できそうでできない、かつてすんなりできていたことがうまくできない、こういうのは本人が一番イライラするのでしょうね。今回の体験を通して、加齢によって見え方、聞こえ方、体の動きはどうなるのかを実感したと同時に、これまで気がつかなかったこと、なぜそうなのか(スーパーのレジでの高齢者の動きなど)が理解できました。シミュレータ装着体験は一瞬にして「うらしま太郎」になる(=年をとった感じになる)ので、装着前の感覚との違いを実感します。高齢者は、見え方、聞こえ方、筋力や感覚などがだんだんと変化してきているのでその違いを十分に認識していない可能性もあります(中年も程度の差はあれ同様でしょう)。安全に関わることはもとより、ストレスを軽減し暮らしやすい社会とは?モノづくりとは?を改めて考える機会となりました。

シニアシミュレータ「うらしま太郎」についての詳細は、(公社)長寿社会文化協会(WAC)サイトをご覧ください。
http://www.wac.or.jp/urashima/urashimataro.html

(記:中越 出)

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