情報の森コラム

ほとんど使われていない四感の世界

[UD/ユーザビリティ] 2014.8.11

嗅覚とユニバーサルデザインの可能性について

人は、視、聴、味、嗅、触の五感を備えていますが、現在では情報の80%以上を視覚から得て生活しています。反対にもっとも使われていない感覚は、犬の1億分の1に退化してしまった嗅覚です。嗅覚は、人の生活にほとんど必要とされない感覚の一つとなってしまいました。機能が退化した理由としては、便利な現代生活において嗅覚によるコミニュケーションの頻度が減ってしまったからだと言えます。

人は幼少期に、モノの色や形を周囲の環境から学びとります。カラーテレビ、パソコン等の影響もあり、飛躍的に色感の領域拡大と色に対する言語変換能力が発達しました。特に言語変換能力については(色と共通言語をつなげる能力)赤、黄、緑、青、…といった原色はもちろん、紫、薄紫、藤紫、江戸紫、すみれ色、パープル、バイオレット、…、むらさき系統の色だけでも容易に数種類を思い浮かべることが出来ます。

ところが嗅覚は、臭い、危険といった匂いには敏感ですが、香り全体を分析して嗅ぎ分ける判別能力については貧弱です。人は、生物学的には4000万もの匂いを感知する嗅細胞を持っているといわれています。ただ、実際の複合化された匂いの成分を区別して感じ分ける能力は低く、それを言語化する標準語の様なものを持ちません。よって社会生活と切り離された機能していない能力と言えます。ところがそんな能力をフルに活用している人達が。香りのテイスターともいうべき、香水や香料などの調香師や、ワインのソムリエといった特殊な仕事についている人達です。

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ソムリエの世界には、香りを表す専用の言葉が用意されています。トレーニングは、その共通言語ともいうべき単語や表現の言い回しを覚えることと、それがどの香りと結びついているのかを学ぶところから始めます。元々はフランスの様なワイン伝統国から生まれた職業ですから、ワインを表す共通言語は彼らの母国語であるフランス語です。日本人には、イメージ出来ない単語や言い回しも多く出てきます。使っていなかった伝達回路を育て、知らない単語を理解するという二重苦のトレーニングという訳です。しかし、色や音の世界と同じで、修練することで嗅ぎ分けや言語化の能力は上達します。ドレミしか弾けなかったピアノが簡単なメロディになる様に、ゆっくりと理屈と感覚の両面で理解していくのです。

思えば、能力はあっても使えないというのは能力を持っていないのと同じですが、それをトレーニングや道具でクリアして、新しい世界の可能性が見えてくるとしたら素晴らしいことではないでしょうか。つまり新しい世界や可能性が開けることこそがバリアフリーの原点だと思うのです。
未だ気がついていない領域に着目し、新しい可能性が開ける方法を発見し活用していくことが、ユニバーサルデザインの抱える問題解決の糸口になると考えています。

(記:丸本彰一)

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