ご当地レトルトカレー・パッケージデザイン考 9)続々・シズル表現あれこれ
その7)では、持ち上げについてご紹介しました。器からのカレー持ち上げは、食べる人の目線。器によそう、鍋からよそうのは料理人の目線(時に第三者の目線というのもあります)。その8)では、盛り付け小道具など演出面を見てきました。
今回は特徴的な撮影アングルにフォーカスしたお話です。撮影アングルを変えると全体が見えたり、いつもと違う目線になって特別な印象になるなど、いろいろな効果が期待できます。
*商品名の次はパッケージ裏面に表示されている販売者名または製造者名です。(法人格省略)
*参考価格は、時期、場所で異なる場合があるので、ご承知おきください。(特に記載がない場合、税込み価格)
また、記事掲載以降に販売終了となる場合もあります。
■真上からの「真俯瞰」
「真俯瞰」という言葉は日常的にはあまり使わないものではありますが、料理撮影やデザインの現場では、よく耳にします。レシピ本や雑誌で料理の完成品を見せるショットや、ちょっとオシャレな雰囲気にする時に使われることもあります(器やクロスなど小道具も影響)。最近は印刷物での静止画だけでなく、動画サイトでも料理の手順を真俯瞰で撮影したものを目にすることが多いですね。
◆北海道
つぶカリー
アイチフーズ(北海道札幌市)
参考価格:689円
すっきりした白のバックに白いお皿、真俯瞰のカレーが際立っています。上部中央、文章の背景に北海道の形がエンボス(型押し)されています。商品名は「つぶカリー」。その8)までに取り上げた59品の中で「カリー」という表記は一つだけでした。「カレー」「カリー」あるいは「咖哩」、表記についても今後の考察対象にしたいところです。
◆秋田
豚なんこつキーマカレー
白神屋(秋田県能代市)
参考価格:583円
こちらは黒のバックに白いお皿。ライスは花びら型でキーマカレーが周りを取り囲んでいます。シズル写真を画面左上に寄せ、左と上は直線でトリミング、全体を見せないからこそのインパクトも出ます。真俯瞰での丸いお皿は、四角い箱に丸をどう配置するか、さらにロゴや文字をどうレイアウトするか、画面構成の妙も見どころです。
◆京都
京の九条のねぎのグリーンカレー
こと京都(京都市)
参考価格:537円
注目いただきたいのは器。取手が見えているので、これはスープカップのような深さのある器であることがわかります。ライスがないのでカレーだけを味わっていただきたいということか、あるいはパンと一緒に? 写真に映っていないモノに想像が広がります。私事ですが、筆者は毎朝ご当地レトルトカレーをトーストと一緒に食べています。
■器の縁
ここまでの3点は、(内側が)白い器で、カレーと背景との境目を作っています。器の余白をどの程度にするか、俯瞰にするとその幅が強調されますので、器選び、盛り付けの際の大事なポイントです。
色や独特の質感のある器は、その8)でいくつか例があったように、デザインの雰囲気づくりに大きく影響します。
◆和歌山
備長炭山椒カレー
永遠 さかぐら(和歌山県岩出市)
参考価格:648円
目に飛び込んでくるのは堂々たるとんかつ。とんかつ&ちゃんこのお店で提供されている「山椒ロースかつカレー」のカレーをレトルト化。備長炭×ぶどう山椒、和歌山自慢の名産コラボとのこと。右下に「とんかつとご飯は商品には含まれません」の文字。お店で使われているお皿の柄(縁の刷毛目)が、そのままデザインの一部になっています。
◆福島
会津の黒カレー
佐久間建設工業 森林事業部(福島県三島町)
参考価格:800円
もう一つ黒いカレー。材料の会津地鶏も桐炭も、カレー製造も地元三島町。真上というほどではないものの高いアングルで、大き目の器はザラッとした質感の和皿、縁周りに暗い色の釉薬。パッケージは、上部と下部を円弧上に折り曲げて厚みをつくる「スピンドルカートン」という形態で、正面が曲面になります。ハンバーガーチェーンのアップルパイの箱と同じスタイルです。
◆長野
自家製雑穀のカレー
雑穀レストラン「野のもの」(長野県伊那市)
参考価格:550円
木の器の縁近くまで盛られたカレー。俯瞰の写真は、どう配置するかがデザインの決め手、とは先に申し上げたとおり。ここでは、上半分にカレーのシズル、下半分に素材の雑穀、という具合に対称的に配置し、中央に商品名。ライスとカレー、2種の雑穀によるそれぞれの色の切り返しが印象的ですね。
俯瞰の写真はかなり高いアングルからの撮影。ご紹介できなかった中には、逆に通常の目線よりもとりわけ低いアングルで撮影し、具材を立体的に見せるシズル写真もいくつか見受けられます。
これまで3回にわたってシズル写真を取り上げてきました。まだまだ多くの事例があり、カメラマンや料理スタイリスト、パッケージデザイナー、ディレクターの日々たゆまぬ努力をひしひしと感じます。興味は尽きませんが、次回からはまた別の、ご当地商品らしい話題を取り上げていきます。
(記:中越 出)