情報の森コラム

調査・体験日記 パッケージデザインから考察するブランディングの日米比較勉強会

[海外パッケージ事情] 2025.6.17

2023年7月の調査研究委員会のやさしいパッケージ分科会では「アメリカのやさしいデザイン事情」についてイリノイ州在住の菅さんにオンラインでお話しいただき意見交換を行いました。今回は東京での対面会議で再び菅さんをお招きし、日米のブランディングについて、パッケージデザインを通じた比較・考察と、前回に引き続き環境対応の現状をお話しいただき、オンライン参加者も交えた調査研究委員会全体での勉強会を行いました。

・菅 木綿子(すが ゆふこ)さん
国内大手印刷会社、食品メーカーに勤務し商品のデザインに携わった後、インドネシアを経て現在はアメリカ(イリノイ州)在住。日本とは異なる現地のパッケージデザインの様子をSNS等で発信している。
著書:「パッケージデザインを学ぶ 基礎知識から実践まで」(2014年3月18日発売)、「新版 パッケージデザインを学ぶ 基礎知識から実践まで」(2025年3月24日発売)
記事寄稿:パケトラ https://pake-tra.com/author/suga/

・本コラムの内容はあくまで2025年6月時点のイリノイ州をメインとした市場の様子を観察したものとその感想であり、アメリカ全体の状況やグローバルスタンダードを解説するものではありません。

■大手カフェ店舗とその小売商品のデザインから考えるブランディングの日米比較

まずは日米ともに展開されている大手カフェを例に、4つのトピックで比較した内容をお話してくださいました。
1、<店舗>と<市場展開する小売商品>を持つ様々なブランド実例
2、パッケージデザインにおけるブランド構築の日米比較
3、カテゴリー創出とブランドアドバンテージ
4、ブランドの今後の展開予想

1、<店舗>と<市場展開する小売商品>を持つ様々なブランド実例
大手カフェチェーンやファストフードなどの「実店舗をメインに展開しているブランド」が、店舗で提供している商品をパッケージングし小売商品として市場展開することがあります。この場ではアメリカでの実例として、スターバックス、ウェンディーズ、ダンキンドーナツなどが挙げられ、またそれとは逆に小売商品から実店舗に展開された例として、飲食ではありませんが洗濯洗剤の「Tide」がドライクリーニング店の看板に用いられる例などが挙げられました。日本ではホーロー鍋のブランド「バーミキュラ」が後に食堂を構えるなど、「同じブランドの<実店舗>と<小売商品>の関係性」という視点が面白く、日本ではどのような例があるか、またその背景や市場の動向などを議論しました。

2、パッケージデザインにおけるブランド構築の日米比較
中でもスターバックスを例に日本とアメリカを比較したお話では、実店舗のデザインでは大きな差は無いように感じられましたが、RTD商品では大きな違いがあることに気づかされました。(RTD:Ready to Drink、容器入りですぐに飲めるもの)
アメリカのスターバックスRTD商品ではコーヒー飲料をはじめ多種多様な商品が展開されていますが、そのパッケージデザインには全体的に統一されたレギュレーションを感じ難く、一方で日本のRTD商品はデザインに一貫性があり、ヴィジュアル面でのブランディングでは日本の方が繊細に管理されているように感じられました。アメリカのスターバックスRTD商品のパッケージデザインに共通するのはほぼロゴマークのみで、「ロゴがあるだけで信頼に値する」という意味では、少なくとも現時点では過去のブランディングの功績ではあると思いますが、ヴィジュアルデザインが統一されないことは一般的には好ましいとはされておらず、今後のブランド構築にどう影響するのかは興味深いところです。ブランディングデザインというとアメリカが優れているという印象も一部ではあるかと思いますが、この比較は、「何かにおいてどちらの国の方が絶対的に優れている・正しいはず」という固定観念について考える機会になりました。

3、カテゴリー創出とブランドアドバンテージ
他方で、引き続きアメリカのスターバックスRTD商品を観察すると、発売後に消費者の支持を得たと思われる自社の強みを即時パッケージデザインに反映し、より明確に表現することでブランドが構築されていく様子が見て取れました。例えばエナジードリンクでは、カフェインにケミカルな印象のある他社品に対し、スターバックス商品はプラントベース(植物由来)であることを明確に表現し差別化を図っているように見えるとのことで、確かに、既にある実店舗や手淹れのコーヒーのイメージをうまくアドバンテージとして扱い、新たなカテゴリーを創出することでブランドを強固にしていく意図を感じました。

4、ブランドの今後の展開予想
カフェ(コーヒー)ブランドの存在は、その土地でコーヒーがどのように飲まれてきたか、現在では何がどのように飲まれているのか、歴史や生活といった背景が大きく関係しています。様々なブランドが存在する中、それぞれが誰とどのように発展してきたのか、しようとしているのか、菅さんのお話を起点に歴史や現状を見返しながら各ブランドの未来や戦略について考察・議論しました。日本の飲料食品業界でクリエイティブや製造に携わる委員の参加もあり、多様な意見を交えることで大変意義のある会になりました。

■イリノイ州における環境対応の現状と日米比較

前回、約2年前のイリノイ州ではプラスチックを排除する流れからアルミへの移行が多く見られるという状況についてお話をお聞きしました。その背景には回収されたゴミの多くが埋め立てられるという現実があり、日本のゴミ処理の状況とは大きく異なることを知り、環境対応も各国一律ではなく各地のゴミ処理の状況により異なるのではないかと議論しました。
現在、その後も脱プラスチックの流れはありつつ、「生産や物流の過程で廃棄される資材」を減らす動きも多く見られるようになったとのことでした。実例として、ハーゲンダッツのチルドデザート(ヨーグルト風食品)の蓋が統一され、全フレーバーで同一資材を使用していることが紹介されました。日本ではなかなか難しいと思われる思い切った例を委員一同驚きながら拝聴しましたが、企業の「社会のために、(何かを割り切ってでも)一旦舵を切ってみる」という姿勢と、それを消費者も甘受するという双方の柔軟さは、アメリカらしさの一つのように思います。

■菅さんのお話を伺って

今回も、菅さんの広い知識と観察に基づいたお話は旅行などの一時的な訪米で見るだけではわからない深い視点で、大変勉強になりました。今回初めて参加する委員も非常に面白く拝聴することができ、また委員同士で後日改めて議論する場を設けたことで、それぞれが考え、発信する機会に繋がったと考えます。
パッケージデザインは、それを通じて見る歴史、社会、文化、世界との比較など、様々な視点で見ることで新しい発見があります。パッケージデザイン、面白いですね!

(調査研究委員会:小林絵美[記]、足立美津子、加藤真弘、川村将久、栗山薫、黒瀬克也、桑 和美、齋藤郁夫、笹原浩造、鶴見裕也、西本千奈美、三原美奈子(五十音順・敬称略))

1から考えるやさしいデザイン アメリカ・イリノイ編 <PART1> はこちら
https://library.jpda.or.jp/pd_forest/column/3805.html/

《各テーマに関する商品は以下リンク参照》

・スターバックスRTD日本の商品
https://stories.starbucks.co.jp/ja/press/2024/pr2024-5097/
https://www.starbucks.co.jp/press_release/pr2023-4914.php
https://www.starbucks.co.jp/press_release/pr2024-5240.php

・エナジードリンク:スターバックスUS
https://about.starbucks.com/press/2024/starbucks-introduces-new-ready-to-drink-coffee-line-up-including-refreshed-fan-favorites/

・エナジードリンク:モンスター
https://www.monsterenergy.com/en-us/energy-drinks/

・Tide
https://tide.com/en-us

以上

ページの先頭へ