エコとパッケージデザイン

デザインの現場訪問 第3回

レンゴー デザイン・マーケティングセンター(2012年10月)

パッケージとして、輸送包装材として時代のさまざまな側面を映しだす段ボール

段ボールを中心とする総合パッケージング・メーカー、レンゴー株式会社は2009年に創業100周年を迎えた段ボールの草分け企業。デザインの力で段ボールに新たな価値を生み出すデザイン・マーケティングセンターにお邪魔をして、段ボールの持つ機能、メディアとしての価値、環境対応など幅広いお話をうかがいました。
(お断り:掲載画像のパッケージサンプルは現在流通していないものもあります、ご了承ください。)


●段ボールにはメディア価値がある!
青果物、飲料、食品から家電にいたるまで、あらゆる商品の包装に広く利用されている段ボール。それだけに、輸送、保管を主眼に、商品を包み守るという機能面だけがクローズアップされがちで、本来パッケージが持っている情報発信ツールとしての側面がやや軽視されてきたのが現実でした。
「パッケージというより輸送包装材と思われているせいかメディアとしての価値が理解されにくく、“情報発信できるんですよ”と伝えることが大きな課題となっていました」(デザイン・マーケティングセンター 佐藤聖子さん)
そこでレンゴーでは段ボールを「Medi Dan(メディダン=メディア段ボール)」と名付け、クライアントに単なる包装材としての資材購買の枠を超えた活用をデザインによって働きかけてきました。
「輸送包装材としての物流用段ボールは、識別用に品番、品名のみが入ったものがほとんど。対して“Medi Dan”は商品の存在をアピールして買い物客を惹きつけ、商品の価値や企業の情報を伝える役目を果たします」(佐藤さん)


左が「Medi Dan」、従来型(右)と比較するとそのメディア効果がよくわかる

●消費者に訴える段ボールをめざして
1980年代までの段ボールの役割は物流機能が主体でした。包む・保護する・運ぶという機能に特化し、効率の最大化を図る段ボールは、東京オリンピックが開催された1960年代の高度成長で一気に生産量が増加、その後も経済成長の波に乗って大きく成長を遂げていきました。
1990年代頃からは消費者の価値観の変化や、売り場の多様化への対応が求められるようになりました。商品価値を訴求していける表現が求められるようになったのです。デザインの必要性も着実に増していったものの、低成長期に突入した1990年代末からは厳しいコストダウンの波にさらされ、中身識別用の文字情報のみという物流機能主体の方向に一気に引き戻されてしまったといいます。
ブランドの品質感をパッケージでも表現しようと、デザインや印刷精度を追及するクライアントも一部存在する一方で、生産する半分近くの段ボールではデザイン性の低いものへと変わっていきました。白段ボールもより低価格な茶段ボールへと切り替わっていくなか、デザインチームではコストをかけずにデザイン効果を発揮する手法として、茶色地にも映える白インキの採用や、積み重ねた時に絵柄が連続する「バーチカルデザイン」など、段ボールのメディア効果を追求し続けました。
その後、コストダウンの方向に力点を置いていたクライアント側からも、あらためて段ボールを情報発信ツールとして活用しようという動きが出はじめたのです。


積み重ねた時に絵柄が連続する「バーチカルデザイン」の例。
キャラクターには白インキが使われている(ベースは茶段ボール)。

●店頭コミュニケーションの新たな武器に
段ボールが注目された背景には、スーパーや大型量販店の販売スタイルの変化もありました。青果物だけでなく、酒類、飲料、食品から洗剤などの日用品までが段ボールのままで平積みされるようになったのです。商品のバリエーションが増え、改廃のローテーションも短期化するなか、ディスプレイや商品告知媒体としても機能する段ボールは、売り場にとっても非常に効率が良かったわけです。
「さらに輸送から流通の現場に関わる多くの人びとの眼に触れるという、段ボールならではの特徴もあります。エンドユーザーに加え、流通やメーカー関係者、関連会社、生産者に対するインナーブランディング効果も期待できます」(佐藤さん)
青果物などで初出荷時期に「初採り」「初出荷」と表記するのも、直接関わる生産者や市場関係者のモチベーションを高めようとの狙いから。アピールポイントが明記されていれば、小売店での販売オペレーションのサポートにもなります。スーパーのチラシなどに段ボール箱の写真がそのまま掲載されることも増えました。
こうした需要を汲みとり、デザインチームでは平積みにしたときに側面がディスプレイ台の裾巻的効果を発揮するデザインや、開封してディスプレイする際に開口部がフレーム効果を持つデザインなど、店頭効果を狙ったデザインを心掛けているといいます。
「手にとって近い距離で見る商品パッケージと異なり、段ボールのデザインでは遠目に見たときに強いことが重要です。量塊性、色面力、注視効果、大量に陳列されたことによる売り場全体における面の構築、積み上げた時の連続性など多面的な効果を考えながらデザインしています」(佐藤さん) 
実際に調査してみると、識別表示のみの段ボールに比べ、デザインを考慮した「Medi Dan」は発見促進力、情報訴求力、購買喚起力ともに2割近く向上したといいます。また、無地段ボールを単に窓開けしただけの場合の注視力が33%なのに対し、フレームデザインした場合には63%と、ほぼ倍近くの効果があったことが確認されています。(レンゴー デザイン・マーケティングセンター調べ)
このように段ボールはコミュニケーションツールとしても極めて有効な媒体であるといえるのです。


「初出荷」を段ボールでPR(左)、フレーム効果を持つデザイン(中)、そのままディスプレイできる形状(右)


コラム1)【段ボールのはじまり】
段ボールの歴史は今から150年以上前、19世紀のイギリスで貴族の服の襟元をヒントに、波状に加工した厚紙をシルクハットの内側に使ったのが始まりというのが定説です(1856年に特許取得)。その後、アメリカで片面段ボールが生まれ、電球の包み紙など壊れやすいガラス製品を守るための緩衝材として使われるようになり、広く普及しました。そして、ほどなく両面段ボールが開発され、輸送用包装材としても利用されるようになっていきました。
日本では1909(明治42)年、レンゴーの創業者・井上貞治郎によって事業化されたのが始まりです。輸入品の梱包材に目をつけ、波状の厚紙製造に成功し「段ボール」と命名しました。数年後、両面段ボールによる段ボール箱を開発。最初に採用されたのは化粧品の包装用外箱でした。段ボール箱はその簡便性に加え、製造当初から既に印刷適性がアピールされ、のれんや看板のように利用できると謳われていたようです。


段ボール製造機第一号(左)、段ボールの宣伝ポスター(中:戦前、右:昭和30年ごろ)


●新たなステージはマーケティングツール
「2000年代からは輸送包装、消費者包装に加え、3つめの機能としてマーケティングツールとしての役割も果たすようになりました」(佐藤さん)
商品情報に加えて、企業戦略と連動したコミュニケーションツールとして、インストアブランディングや販売促進に活用される例も増えました。「エコボトルになりました」「開けやすくなりました」など、商品のリニューアルポイントをクローズアップすることもあります。また、告知に過大なコストをかけられない寄付や支援金を募るキャンペーンでは、店頭でさりげなく着実に告知するメディアになります。さらにキャラクターだけをクローズアップしたり、いくつものブランドのキャラクターを混在させたりと、消費者との接点、まさに情報媒体(メディア)として活躍するようになりました。
さらに近年では店舗を持たない通販においては、段ボールそのものが「店構え」として機能しており、コミュニケーションメディアとしての活躍の場を拡大しています。
「個包装をまとめる二次包装となる段ボールは大きな面を活用でき、しかも個別のパッケージよりも表現内容の自由度があります。パッケージデザインという以上に広告デザインとしての可能性があるメディアといえます」(佐藤さん)

段ボールの<これから>

●段ボールはエコパッケージの王様
「しかも当社における段ボール原紙の古紙利用率は97.9%、まさにリサイクルの優等生です」(佐藤さん)
段ボールは約7~8回もリサイクルされるといいます。その背景には世界に誇る日本の高い古紙利用技術がありました。しかも茶段ボールはバージンパルプ本来の色が基本のため調色も最小限で済み、再生時にも脱墨(漂白)の必要がありません。かつて、コストダウンの目的で進行した茶段ボール化は、現在ではエコ資源の象徴として、その優しい素材感がギフトなどでも広く活用されるようになりました。
「環境負荷も減らせ、コストも抑えられる一石二鳥の茶段ボールを、更にデザインでどれだけ様々な表現を付加できるかが、私たちにとって重要なテーマです」(佐藤さん)
また、製品開発の面でも環境対応に取り組まれています。段ボールの厚みをこれまで定番だった5ミリから4ミリに変え、強度は同等ながら印刷特性が格段に向上した「Cフルート」を開発し、現在では生産量の5割を超える切り替えを達成しています。
「環境もパッケージのひとつの付加価値と捉え、『軽薄炭少』をキーワードに、より軽く、より薄く、二酸化炭素(CO2)排出量の少ないパッケージを提供することを目指しています。昼間のすべての電力を太陽光発電でまかなう福島矢吹工場はその取り組みの象徴です。廃棄物やCO2排出量削減も含め、工場からオフィスまで『軽薄炭少』を念頭に、全社的に環境保全に積極的に取り組んでいます」(佐藤さん)


コラム2)【段ボールは景気の鏡】
輸送や保管に欠かせない段ボールは「景気の鏡」といわれます。現在、段ボールの世界総生産量は約2000億?で、そのうち日本の生産量は約130億?と中国、アメリカに次ぐ第3位。上位3カ国で世界の生産量の約半分を占めています。
日本の場合、段ボールの需要先は加工食品がもっとも多く4割強、青果物は輸入物の増加や作付け面積の減少により現在では1割強となっています。電気・機械系分野は、海外に生産拠点が移ったことで段ボールの使用量が減少し、1割を切るようになりました。一方、近年急増しているのが通信販売です。
ちなみに家庭に届く段ボールの数は一家庭当たり月平均4.7個、1年では56個で、7割の人が段ボールを資源と認識して資源回収に出しています。(レンゴー デザイン・マーケティングセンター調べ)
国内の段ボール生産量は、東京、神奈川、埼玉、千葉の1都3県の面積に匹敵し、標準的な段ボール箱で日本人一人当たりに換算した場合は、一人あたり年間約150個となります。


●デザイン力に期待大! 段ボールの未来を拓く
ユニバーサル・デザインという側面でも、積み上げた段ボール箱の隙間に楽に指が入る面取りや、潰す時でも手にやさしい縁の波型カット、封かん材の要らないノンステープル構造など着実に進化しています。こうした改良のアイデアは、デザインという視点から行われることも多々あるようです。
「膨大な設計ノウハウを持つ包装技術部門が社内にあるのでコミュニケーションもとりやすく、連動して開発することもできるのが私たちの強みになっています」(佐藤さん)
あらゆる産業にとって不可欠な段ボールの製造を手掛けてきたレンゴー。対象となる商品は野菜から船外機にいたるまで、商品価格は数10円のものから数十万円以上のものまで。ネットワークは全国津々浦々におよび、クライアントは全国ブランドの大手企業から地方の農協や小規模生産者まで規模も業種も極めて広範囲です。
「段ボールのデザイン依頼も多様化している一方で、段ボールでのお付き合いがきっかけとなって、商品の企画、開発やデザインのお手伝いをさせていただくようになるケースがとても多いですね。今日は段ボールのお話しを中心にさせていただきましたが、それ以外のパッケージデザインもあらゆる分野のものを手掛けています。」(佐藤さん)
輸送包装に加え、消費者包装、マーケティングツールとその役割を次々と開拓し、技術面、環境面からも注目されるようになった現在、段ボールに寄せられるメディアとしての期待もどんどん膨らんでいるのを実感しているとのこと。デザイナーに対する期待度もますます高まっているのは間違いありません。
段ボールそのものから中身商品の企画、開発に至るまで相談も依頼も多種多様になるなか、デザイナーも営業とともに全国を飛び回ることが多いとのこと。フットワークの軽さと守備範囲の広さ、そして元気がデザインワークの礎となっているようです。

最後は、長時間の取材にお付き合いくださったデザイン・マーケティングセンターの皆さんと記念撮影。レンゴーと段ボールの歴史、具体的な商品づくりにおける環境配慮の事例まで丁寧にわかりやすくお聞かせいただきました。デザイン・マーケティングセンターの縄田幸男部長、佐藤聖子課長、調査研究委員としても活躍の宮城愛彦さん、そして広報部・後藤光行部長、ありがとうございました。
(調査研究委員:桑 和美、丸本彰一、中越 出)
〈訪問:2012年8月〉
※部署名、役職名は訪問当時のものです。

【段ボールについてもっと詳しく知りたい方は…】
下記サイトにて、レンゴーの環境への取組みや段ボールに関するさまざまな情報が紹介されています。
■段ボールはリサイクル https://www.rengo.co.jp/environment/recycling.html
■段ボールおもしろブック https://www.rengo.co.jp/book/
■まんが「段ボールのひみつ」(学研キッズネット/レンゴーが編集協力) https://kids.gakken.co.jp/himitsu/library041/
 


>>> JPDA エコパッケージヒストリー

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