リサーチ & 研究報告

ニッポンのパッケージデザイン<2015年度調査>デザイナー調査
III.委員によるアンケート後の座談会(調査研究委員会メンバーでの意見交換)

電話アンケートを担当した調査研究委員会メンバーによる意見交換の場として座談会を行いました。
■座談会出席者:足立美津子、藤森 宏、加藤憲司、桑 和美、斎藤郁夫、高田知之、中越 出、福本佐登美
 司会進行:佐野 良太
■日時 2015年3月25日 16:00〜18:00
 

電話アンケートを終えた印象

◎ 肝が据わっている
桑 少数精鋭で仕事をしている方が多い。地元の生産者や企業と密に接し長くお付き合いされている。信頼を得、仕事も3年くらい経って成果が出るような長いテーマの中で、パッケージデザインだけでなく、プランニングから販促、店舗の設計アドバイスまでいろいろこなし、生計を立て、成功事例を作り、生きがいを感じている。そういう肝が据わった方が多いと感じた。
佐野 肝が据わったとはどういうところですか。
桑 地方では安くやって欲しいとか、コンセプトなどない場合が多い。こんなモノができたので何とかして欲しいという。話をよく聞き、できないことはできないとはっきり伝え、信頼関係を作り、ちゃんと結果を出して、また次の仕事が来る道を作っている。そういうのが、肝が据わっていると思ったところ。

◎ ダイレクトだからやりやすい
高田 面白いのは、特産品の仕事は生産者の思いがダイレクトにくるのでやり易いと言っている点。「予算面では苦しい面も多いが、仕事としては特産品の方が面白い」と。モチベーション的には特産品の方がある、といった感じを受けた。
佐野 それは皆さんそういう印象ですか。
中越 やはりその土地で仕事をし、その土地を盛り上げるというか、愛着がある。自分のふるさとに帰ってやるという方もいれば、その土地が好きになって、パッケージ以外のイベントに関わった方もいた。そこが好きというか、稼げるかどうかだけではないものが大きなモチベーションになっている、といった印象を受けた。

◎ デザイン代
斎藤 印象に残っているのは、デザイン代がとりにくいということ。売上に応じた割引をされている。
藤森 予算の規模はともかくとして、最初にきちんとデザイン代の話をしてから進めている。それでお断りをしたケースもあったとか。
佐野 地方の方が正直ベースで仕事をされていると思った。できること、できないことをはっきりと伝えている。

◎ 助成金
福本 意外だったのは助成金を日常的に上手に活用しているということ。デザイン費を出せないクライアントも多いので補助金の取り方の助言もする。幅広く対応している様子が分かる。
藤森 私がインタビューした方も、助成金を使ってなんでもいいから商品を作るというのではなく、生産者のこれを売りたいという思いが最初にあって、それをマーケティングやデザインで助けて結果を出している。正直、そのやり方が地方では大事なのかなという印象を受けた。
 

特に印象に残った成功事例

佐野 印象に残った成功事例ということについてお話を伺いたいと思う。

◎ 物語を作る
福本 「商品に地域らしさを表現したい」ということで「素敵なウソをつきましょうと」物語を作ったという方の話が面白かった。ありそうなことを妄想してロマンチックな物語にして、そこに商品をからめた。差別性もあって話題になったと。
中越 商品の個性をイメージさせるストーリーを作って共感を得ようということですね。

◎ 仕事の範囲の違い
佐野 デザイナーはブランディングやストーリー作りはあまり関わらないものなのですか。
中越 ナショナルブランドはクライアントの規模が大きく、基本的にデザイナーは、ある程度ストーリーがある中で、特に表現の部分を期待される。私がインタビューした中では、製品とか商材をどうやって商品に仕立て上げるかというアイデアや、どのようなネーミングやコピーがふさわしいかまで考えたという。その点でナショナルブランドとの違いを感じた。ナショナルかローカルかというよりも会社の規模、専門部署の有無、商品開発経験の長さといったものの違いか。
佐野 商品ができ上がっていない段階から相談を受けることが多いということですか。
桑 そう思う。こんなモノができたからと言って渡される。「食べてみて、どうしたらいいと思う?」と聞かれる。そこで企画のゼロベースにひるまず、「こうしたらいい」、「ああしたらいい」と考えている。ネーミングから始まり、「安いからといって大袋にしないで小袋のほうがいい」と言ったような、作る側では思いつかない消費者目線からのメリット、そこから導かれる価値を提案している。

◎ 売り方などの提案をする
中越 ベテランのデザイナーほど「売れる」、「売れない」の目利きができているので、売れそうにないものを提示された場合に、それを売れるようにするにはどうしたらよいか、ということをクライアント以上に考えている。
高田 生産者が、どこで誰に売るかをあまり意識しないときがある。こういう場合、パッケージはこうしないといけないと話したりすることもある。いいモノができたからこれで世の中を良くしたいと、思いだけが強くなる。だから商品の販売チャネルについても考えてあげないといけない。
桑 生産者は「いいものを作りたい」の思いが基本なので、デザイナーは欲しくなる、買いたいものへの視野と知識をもってアドバイスできなければ勤まらない。今回の電話で話した方たちは良い仕事をされている。地域産品に関わって成功している人は視野が広いと思った。

◎ コンサルティング
佐野 事業家のお手伝い。コンサルタントみたいな役割でしょうか。
加藤 自分は「なんでも屋」と言っていた方がいた。売り方も聞かれるし中身も相談される。なんでも相談をしてもらい、それで人間関係を作って、売れるモノを提案する。

◎ 現場に行く
足立 モノが作られている現場や、生産者の元に行って話すケースが多いとも聞いた。
斎藤 地場のメーカーと直でやり取りをする場合は、どこまで聞き出すかがポイントらしい。相手と信頼関係を築き、よくわかったという状態になるまで話を聞く。聞いているからデザインが作れる。
足立 現場に行くことで、生産者からデザイナーだからと構えていた壁が取り払われ信頼関係を築ける。それでいろいろなことを話してくれるようになったそうだ。

◎ 地方の仕事は楽しい
加藤 今回の調査で一番心に残った言葉がある。「東京のほうが仕事は沢山あるのに、なぜ出てこないのか?」と聞いたら、「こっちにいる方が生産者と直接話ができて、一緒に商品を作り上げていくのが楽しい」と言う。だから地方で仕事をしていると。
高田 「楽しい」がキーワード。ナショナルブランドの仕事をするより、こちらの仕事が楽しいと。
足立 商品を作るために仲良くなって、意気投合してやっていくのが楽しい。例えば飲み会などで人づてに紹介をしてもらう。作り手と一緒になってするのが楽しいと。

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印象に残った理由

佐野 キーワードとして「楽しい」とか「ワクワクする」という以外に、印象に残ったキーワードはありますか。ナショナルブランドとの違いの話を。
桑 「地元」がキーワード。やはり地元が近いからできるんだと思う。私もその土地を知るために、ブドウ農家の種付けの現場などに行くが続かない。「こうしたい」「ああしたい」と思っても予算が少ないと交通費だけで終わってしまう。やはり地元に根付いて、そこで確実に食べていければ面白いと思う。一方ナショナルブランドは、納期が厳しく商品の回転が速いが、すごい競争の中で勝ち残っていく面白さがある。
中越 クライアントと直接仕事をしていると、プロセスがシンプルなのでクライアントがOKというとそれでOK。ナショナルブランドだと多くの人が関わっているので相当練り上げられている。特産品の場合は少ない目で決まるので、場合によってはクオリティが落ちるのでは、といった不安を感じることがあるという。
 

成功事例になるために

佐野 成功をしているデザイナーの秘訣、バックグラウンド、理由に共通点はありますか。
桑 人に強い。人と繋がり、人の話を聞き出す。みんな規模が小さく人数も少ないため、人と組むことが絶対に必要になる。
佐野 そのために意識して心がけていることがあるのか。

◎ 一つのクライアントと長く付き合う
高田 感じるのは、無理に広げていないということ。これ、と思ったところと深くつきあっている。「この人と心中する」くらいのイメージがある。一つのクライアントに深く入っている。仕事のスパンも長い。ナショナルブランドよりもはるかに長い。
中越 販路も確定しておらず、発売日もはっきりと決まっていない。できたら売るという場合もあるか。
佐野 私が聞いた中では、途中でお付き合いのなくなったクライアントはないと言っていた。20年来のお客様が5、6社あると。末永くお付き合いしている。ダメなところは最初からダメ。
中越 新しい仕事はクチコミで紹介されて仕事がくるとも。
加藤 JPDAのマイワークスから電話がかかってきた、と北海道のデザイナーの方も言っていた。あとは賞を取って、いろんな所で名前を広げてもらって、それで次の仕事がくるという人も。
 

我が身を振り返って、自分が見習いたい所

佐野 今回の成功事例にならい、自身がデザイナーとして見習いたい点、学びたいと思う所があったか。

◎ よく話を聞く
加藤 「クライアントとよく話している」ということをすごく感じた。なにがやりたいのか、これはどうやって作っているかとか、その会社をよく知ってからパッケージを作る。それは人間関係を作るということでもある。
桑 「話す」じゃなくて、「よく聞き出す」ことが大事。
加藤 依頼するクライアント側にも分かっていない部分がある。デザイナーに投げてしまえばなんとかしてくれるだろうと。そこを話し合って埋め、理解し、お互いに分かり合ってから、というところを見習いたい。

◎ 何が重要か意識を持つ
佐野 生産者は自分が作っているモノはよく分かっている。しかし、メーカーとなると、自分たちが作っているモノや売ろうとしているモノが何かを、内部では意外に分かっていない?
福本 介在する人が増えてくるからだと思う。農家の方みたいに自分が実際に作っているのではないから。間に多くの人が関わるため、それぞれの人が自分の関係するところしか分かっていない。
桑 相手が企業のトップなら、トップの思いと同じくらい自分も理解をしようと努めてデザインしなければいけない。企業のトップはこういうプランニングで売りたいと考える。でもデザインの形などはよく分からない。商品の中身や、どういう相手にどう売るかをイメージし、コンセプトなどに疑問を感じたときは「ターゲットは合っていますか?」など率直に意見をぶつけ、対等に付き合わないとトップの方も信頼をしてくれない。成果が出ればまた信頼が増す。
福本 私もデザインの会社をしているが、ナショナルブランドの仕事も場合によってさまざま。そう思うと地方の仕事も同じ、という印象を受けた。本質は一緒だと思う、あたり前に流すのではなく、本質的なところまで入り込んでデザインの仕事をしていくことがやはり大事になる。
佐野 常に本質に立ち返って考えることが大切ということですね。お疲れ様でした。

ニッポンのパッケージデザイン<2015年度調査>デザイナー調査

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