リサーチ & 研究報告

ニッポンのパッケージデザイン<2015年度調査>デザイナー調査
IV.商品開発とパッケージデザイン(そのプロセスとポイント&参考情報)

クライアントとデザイナーの間に欠かせない対話、その両者の共通認識を図る上での参考情報としてご紹介します。
 

パッケージデザインの役割

パッケージには、中身を保護し、取扱いしやすくする「容器」としての役割とともに、作り手からのメッセージや中身の情報を、使い手である生活者に伝達する「コミュニケーションツール」としての役割があります。商品企画で得られた商品コンセプトをベースに、それを伝達するための最適な手法でデザイン表現することが重要とされます。中身に関する基本的な情報に加え、他の商品との優位な点、その商品を購入・使用することで得られる価値、作り手の思いなどが、商品個々にふさわしい印象で表現されます。

コンセプトの違いによって、パッケージデザインの目指すべきところは多様です。商品企画とコンセプト、パッケージデザインの関係は、生産者/事業者とデザイナーとの間でしっかりと共有されることが求められます。
 

商品開発のプロセス(一例)

一般に商品開発には、マーケティング戦略的にいくつかのタイプがあります。
1. 市場にない新たな商品を導入する(パイオニア商品)
2. 他社が先行してつくった市場に後発として参入する(フォロワー商品)
3. 市場は大きくないが特定の層・用途に向けて商品を投入する(ニッチ商品)
4. 市場の変化に伴い自社の既存商品を改良していく(リニューアル商品)
5. 商品のバラエティ化を図る(シリーズ商品)

1は全く新しい市場を開拓する画期的新商品ばかりではなく、新たな用途を付加する、これまでとは異なる購買層を狙うなどで市場を細分化していく商品も含まれます。市場投入時は3のニッチ(狭い)商品だったものが、次第に大きな市場を形成しパイオニア商品化していくこともあります。4は競合の参入や消費者の嗜好の変化などから既存商品/ブランドのメンテナンスを図るもので、中身の改良を伴わずパッケージの変更のみで進める場合もあります。5は容量/入れ数違い、味のバリエーションなどで購入の選択肢を増やし売り場を拡大、店頭効果を高めることでブランド強化にもつながります。

新商品企画のスタートから、商品が市場に出るまでを段階的に示すと図1のようになります。商品企画の目的や戦略によって進め方は異なりますが、ここでは基本的な流れの一例とお考えください。

商品開発のプロセスは3つのステップに大別できます。

◎ 第1ステップ 商品企画
商品コンセプトの立案や中身の開発・試作を進める段階。マーケティング観点での情報収集をおこないます。社会の動き、市場の動向、生活者の購買行動や嗜好調査など目的に適した調査をおこない、分析〜商品アイデア展開、商品コンセプトを固めていきます。この段階からデザイナーが参画するケースもあります。特産品の場合は、その土地ならではの一次産品(原材料)をどう活用し魅力ある商品にしたてていくか、加工・製造上の制約も伴う中でのアイデア展開には、幅広い発想が求められます。

◎ 第2ステップ パッケージ企画
ネーミングの決定からパッケージデザインが内定するまでの段階です。商品コンセプトをベースに、ネーミングアイデアから商標調査、デザインコンセプト立案〜デザイン制作〜検討を進めます。商品コンセプトが曖昧なまま、ネーミングやデザインをスタートすると商品の魅力を的確に伝えられないだけでなく、やり直しなどのロスも多くなります。

◎ 第3ステップ 調査〜決定
デザインの絞り込み〜最終決定前に調査を実施し、有効にアピールする表現であるかの確認をします。結果次第で第2ステップに戻りデザイン案の再検討をおこないます。デザイン調査は、第2ステップの比較的早い段階で「デザインコンセプト調査」としておこなう場合もあります。

2015_04sankou_fig1
 

商品コンセプトとネーミング

商品開発において、コンセプト立案は重要なプロセスの一つです。その商品とはそもそも何かという考えを明らかにし、関係者で共有、目指すベクトルを確実にそろえていくためにもコンセプトには明快さが求められます。

コンセプトは、短い言葉の「コンセプトワード」で端的に表現すると関係者間での共有がしやすくなります。特にアピールすべきポイントは何か、購入した人が得られる価値は何か、強みは何かを明確にし、かつ絞り込んでおく必要があります。あれもこれもと多くを盛り込むと、わかりにくいものになりかねません。

「コンセプトワード」を突き詰めていくと、ネーミング(商品名)やキャッチコピーへと発展させていくこともできます。「コンセプトワード」は開発関係者間といった限定された範囲で使われるのに対し、ネーミングは生活者とのコミュニケーションに使われるもので、商品イメージの大枠をかたちづくるものです。商品コンセプトや特長を的確に表現しているかといった意味性の面と、覚えやすさ、言いやすさ、語感・音感など印象の面とで案の検討をおこないます。漢字・ひらがな・カタカナ・Alphabetなど表記の仕方によっても印象が大きく変わる場合があります。

特徴のあるネーミングやロゴタイプは商標や意匠として登録することで知的財産権が保護されます。ネーミングを決定する前に他者の権利に抵触しないか商標調査をおこないます。全く同一ではなくとも類似商標は権利侵害とみなされるので、専門的な判断を要します。結果次第では、発想を変えての再考が必要になります。

特産品は、日常的に利用される生活必需品とは異なり、ある種の特別感が期待されることが多いものです。その土地の風土や原材料、製法に関わる物語性など話題性につながるコンセプト、ネーミングが求められます。
 

パッケージ企画と製造

容器包装としてのパッケージは、中身が接し主に品質保持の機能を果たす一次包装(内装)と、複数をまとめる/一次包装を保護するといった役割の二次包装(外装)、物流に利用される段ボール凾など目的毎に複数で構成されます。一次包装にはガラスびん、プラスチックボトル、フィルムパウチなどがあり、中身や製造工程との関係だけでなく、店頭や使用時の印象、使い勝手、環境負荷、コストなど多くの要因を加味しつつ選択・設計・製造されます。二次包装も同様です。

ガラスびんやプラスチック容器、紙凾などは形状も多彩です。容器包装メーカーが予め用意している汎用容器を利用するほか、製造ロットやコストの条件をクリアできればオリジナル形状のボトルや紙凾をデザインし、商品の独自性を強く打ち出す場合もあります。これら形状・形態の中には商標・意匠・実用新案・特許などで知的財産権が保護されているものもあり、チェックが必要です。また、自治体によっては過剰包装防止を目的に「空間率」を条例で定めています。デザインや表示に関する法令は多岐に渡っており、これらに適合させて設計・制作する必要があります。
 

デザイン案の依頼・制作

ある程度パッケージの形状設計が完了した段階で、グラフィックデザインを進めるのが一般的です。どのような方向性のグラフィックにするかいくつかのデザインコンセプト案を予め検討したうえでデザイナーに依頼する場合と、デザインコンセプトの提案も含めて依頼するなどケースバイケースです。特産品デザインの場合は、早い段階からデザイナーが参画し事業者とともにデザインコンセプトを固めていくケースが多いようです。図2に、デザイン依頼時の制作シートの一例を示しますので参考にしてください。

2015_04sankou_fig2

>>> パッケージデザイン制作シートのPDFをダウンロードする

デザイン検討段階では、必要に応じて複数案に絞ったうえで調査を実施します。想定した購買層に好まれるデザインか、店頭効果はどうか、商品コンセプトが伝わるデザイン表現になっているかなど、客観的な評価が必要です。
 

さらにパッケージデザインを知るために

パッケージに関する参考資料や関連リンクをご紹介します。(順不同)

■パッケージデザインについて知る(JPDAおよび会員による主な関連図書・順不同)
◎パッケージデザイン作品集
『年鑑日本のパッケージデザイン2015』 企画/監修:日本パッケージデザイン協会(六耀社 2015年)
『パッケージデザインインデックス2014』 企画/監修:日本パッケージデザイン協会(六耀社 2014年)
◎パッケージデザイン解説書
『パッケージデザインを学ぶ』 白尾隆太郎・福井政弘・ほか(武蔵野美術大学出版局 2014年)
『シクトマップス パッケージデザインのすべて』 フミ・ササダ(宣伝会議 2011年)
『パッケージデザインの勘ドコロ』 企画/監修:日本パッケージデザイン協会(六耀社 2011年)
『図解でわかるパッケージデザインマーケティング』 小川 亮(日本能率協会 2010年)
『パッケージデザイン−夜も地球もパッケージ』 金子修也(鹿島出版会 1989年)

■デザイナー/デザイン情報サイト
◎デザイナーを探す
日本パッケージデザイン協会 マイワークス(JPDA会員作品の紹介)
Japan Designers(さまざまな分野のデザイナーデータベース)
◎デザイン活用に関して
東京都中小企業振興公社 デザイン活用ガイド

■特産品に関連した公的団体のサイト(支援事業や特産品情報など・順不同)
◎中小企業庁 商業地域サポート
◎日本商工会議所
・feelNIPPON 地域力活用新事業∞全国展開プロジェクト
◎全国商工会連合会
・むらからまちから館
◎J-Net21(運営:中小企業基盤整備機構)
・農商工連携事業
・地域資源活用事業
◎食品産業センター
◎本場の本物

2013年度調査結果概要ページでも、参考情報を掲載しています。合わせてご覧ください。(別ウィンドウで開きます)
>>> 2013年度調査結果概要 V.参考 パッケージデザインと特産品
 

おわりに

各地域に根付いて、特産品のパッケージデザインに関わるデザイナー(≒地域で活躍するパッケージデザイナー)と、その地域との縁には、いくつかのパターンが見受けられます。
・土着型:最初からその地域で活動し、現在に至る
・Uターン型:他の地域で経験を積んで、生まれ故郷など縁のある土地に戻った
・Iターン型:他の地域から元々は縁のない土地に移り、活動拠点となった
いずれもデザイン活動を通して、その地域を盛り上げることにデザイナー自身が深く関わっていて、それ自体がエネルギーの源にもなっているようです。これらのいわば地元密着型デザイナーがいる一方、他の地域や 全国各地で特産品開発やパッケージデザインに取り組んでいるデザイナーもいます。いずれの場合であっても、よく話を聞く、聞き出すことに力を注いでいる、という共通性があります。
・その土地・地域をよく知る(風土、気質、生産者の思い、本人の愛着…)
・時には余所者・専門家の視点で、価値を発見し具体化する
多くの場合、デザインによる課題解決の前に、課題が何かを発見するところから関与しており、それがクリエイティブに大きく反映されています。

パッケージデザイナーは、狭い意味でのパッケージデザインのみに関わるととらえられがちですが、今回調査対象の方々は、商品開発・ブランディング・パッケージデザインを三位一体で取り組んでおり、それがデザイナーとしての強みになっています。そこに至る経緯は様々で、最初から幅広く取り組んできたケースもあれば、クライアントの相談に応えつつ実績を積み、自ら領域を拡大してきたケースもあります。商品の売り先は地元に限らず、大都市へ、さらには海外展開も想定するなど、幅広い視野で的確なデザインコンセプトが構築されています。

地域産業活性化の一翼を担うデザイナーへの期待は今後ますます大きくなっていくことでしょう。今回のデザイナー調査報告書が、領域拡大を目指すデザイナーの方々への刺激となり、また生産者・事業者とデザイナーが相互理解を図る上での参考となれば幸いです。
最後になりましたが、調査に御協力をいただきましたデザイナーの方々、関係の皆様に厚く御礼申し上げます。
 
(2015年12月掲載 調査研究委員会)

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