デザインの権利と保護

Vol.126 「商標」の勉強会・セミナー開催

2022.6.30

デザイン保護委員会では、2021年9月に「商標について、困ったこと、気になることありませんか」と、会員の皆様にアンケートを実施しました。多くの方にご回答いただき、発注する側、受ける側ともに「商標」のトラブルを経験されたことが多いことがわかりました。皆様のアンケートを元に、「商標」について、法律の知識や調査の方法などを少人数で学ぶ、勉強会を企画しました。ブランデザイン特許事務所 岡村太一弁理士を講師に迎え、「詳しく知りたい、商標のこと!」と題し、全3回、16名の方にご参加いただきました。(編集・文責:デザイン保護委員会 委員長/徳岡 健)

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■「詳しく知りたい、商標のこと!」勉強会
講師:ブランデザイン特許事務所 岡村太一弁理士

第1回 2021年12月7日(火)16:00 〜17:30(Zoomを利用したオンラインでの開催)
・パクってなくても侵害となる商標権の怖さ
・ネーミングやロゴの類似例・最低限抑える類否の考え方
・実は商標制度の肝!商品・役務
・登録になるもの・ならないもの

第2回 2022年1月25日(火)16:00 〜17:30(Zoomを利用したオンラインでの開催)
・商標の類否・商品役務について第1回のおさらい
・J-PlatPatによる文字検索方法
(1)同一を探す(2)類似も探す(3)ノイズ排除(商品・役務と類似群の特定)と類似検索

第3回 2022年2月22日(火)16:00 〜17:30(Zoomを利用したオンラインでの開催)
・第2回のおさらい(ノイズ排除)
・J-PlatPatによる図形検索方法
・図形の類否で抑えるべきポイント
・デザインと商標・意匠・著作権や不競法との関係
・色や位置などの新しい商標で理解すべきポイント

さらに勉強会の内容を元に、4月にはオンラインセミナーを実施しました。こちらのセミナーには19名の方にご参加いただきました。

■「商標で泣く人を減らしたい!~デザイナーに知って欲しいTOP5」セミナー
2022年4月11日(月)15:30 〜17:00(Zoomを利用したオンラインでの開催)
講師:ブランデザイン特許事務所 岡村太一弁理士
・パクってなくても侵害となる商標権の怖さ・実は商標制度の肝!商品役務
・普通の言葉も登録になる!
・商標調査の基礎~検索方法教えます~
・パッケージデザインと新しいタイプの商標

岡村太一弁理士には、勉強会・セミナーとご尽力いただきましたことを、この場を借りてお礼申し上げます。ありがとうございました。

 

商標で泣く人を減らしたい!

ブランデザイン特許事務所 代表弁理士 岡村太一

■目的
「商標で泣く人を減らしたい!」これは私の想いであり、この想いをそのままセミナーのタイトルにしていただきました。

私はこれまで仕事を通じて商標で泣くお客様を沢山見てきました。ご依頼いただいた際には手遅れで商品名や会社名等のネーミングを変更しなければならないという場面に出くわすことも少なくありません。これは調査や出願などの商標ケアの重要性が一般に浸透していないからだと考えております。しかし、弁理士がマイナーだからか敷居が高いからか、商標ケアの重要性を事業者にお伝えしても響かないことも多々あります。

そこで、ネーミングやロゴを含むパッケージデザインの制作段階で事業者と関わることの多いデザイナーの方々に商標ケアの重要性をご理解いただきたいと考え、今回のセミナーを行いました。

 

テーマ

セミナーで話したテーマは以下のとおりです。各テーマについて、具体例を交えて詳細に説明しました。

・パクってなくても侵害となる商標権の怖さ

・実は商標制度の肝!商品役務

・普通の言葉も登録になる?

・商標調査の基礎~検索方法教えます~

・パッケージデザインと新しいタイプの商標

 

デザイナーに知って欲しいNo.1

セミナーでお話した内容「デザイナーに知って欲しいTOP5」のうち、私が最もデザイナーさんに知っていただきたいこと「パクってなくても侵害となる商標権の怖さ」を本記事で詳細に説明します。

 

1.意外と多い商標権侵害

報道等の影響により、商標と聞くと「パクリ」や「他人のネーミングの先取り」をイメージする方もいるかと思います。しかし、世の中の商標権侵害の多くは、パクリや先取りとは無縁の世界で起きています。言い換えると、悪意なく真面目にビジネスをしている事業者同士で商標権侵害の争いになることがあり、このリスクを理解することが事業者にとって重要です。なぜ他人の商標権侵害になることが多いのかについて、以下で詳しく説明します。

 

大前提として、商標権はパクリの有無にかかわらず効力が及ぶ権利です。また、同一だけでなく類似にも及ぶため、商標権者以外の者が無断で登録商標の類似範囲で使用すると商標権侵害になります。ここで類似範囲は一般の方が思うより広いと思います。(私も弁理士の仕事を始めた頃には驚いたものです)。

 

例えば、特許庁の審査例でアップル社の「iPhone」は「アイホン」と類似と判断されました。アップル社はiPhoneという名称を商標登録できず、アイホン株式会社(愛知県、インターホンの会社から)ライセンスを受けて使用しています。見た目がこんなに違っても読みが紛らわしいと類似になり得るのです。また、アップル社は「アイホン」のネーミングをパクったわけではないでしょう。

 

このような事例から、偶然の一致で他人の権利を踏むことは起こり得ると実感いただけると思います。もっというと、商標登録は毎年10万件程度なされており年々蓄積しているため、どんどん他人の登録したネーミングと被りやすくなっています。

なお、商標権者よりも先に使用していた場合や、商標権者と地域が違う場合にも商標権侵害となり得ます。先使用権という制度はありますが、商標権者が出願する前から使用していて周知(有名)であること等が必要であり、この周知というハードルは非常に高いです。

 

2.パッケージ事例で考える商標リスク

上記1.を踏まえて、パッケージの具体的なケースで深掘りして説明していきたいと思います。以下の宝酒造(株)の商品「澪(みお)」を見て、商標の問題が起きそうなのは①~③のどれだと思いますか?

 

この拒絶理由通知書に対しては意見書が提出され、宝酒造(株)は非類似であると反論しています。そして、審査官の判断は覆り、最終的に「澪」は商標登録されるに至りました。「じゃあ問題ないじゃないか」と思われるかもしれません。しかし、読みが紛らわしければ類似と指摘されることは頻繁にあります。また、類似するかどうかはグレーなため、「澪」のケースではうまくいったものの、覆らないケースもあります。何が言いたいのかというと、パッと見が全然違っても類似の可能性があり最終的にそのネーミングを含むパッケージを使えなくなるリスクがあるということです。

 

3.商標リスク判断の誤解

ところで、商標調査のご依頼をいただいた際に「Googleで調べて似たようなものが無かったから問題ないと思います。」とお客様から伺うことがあります。しかし、Google検索で発見できるのは実際の使用状況等であり登録商標ではありません。商標法上問題ないかを調べる対象は使用商標(実際の使用状況におけるパッケージやネーミング)ではなく、登録商標(特許庁に登録された文字等)です。そして、登録商標はJ-PlatPat等の商標検索ツールにより発見できます。

最近ではJ-PlatPatをご存知の方も増えてきました。これは喜ばしいことではあります。しかし、特許庁や裁判所の判断の歴史を知らないと「類似の範囲」は分かりません。この類似の範囲を理解するには、文字や図形の類否のみならず商品・役務(サービス)の類否も正確に知っている必要があります。商品・役務の類否も一般の方に商標リスクの誤解を招く要因の一つです(本記事では説明を省略しております。詳しく知りたい方はコチラをご覧ください)。また、調べた時点で類似の登録商標がなくても、後で商標登録出願されてしまえば使えなくなるリスクは残ります。

 

4.最後に

このように、パッケージデザイン作成に際して、a.どこが問題になり得るのかを理解し、b.何のツールで調べ、c.何の登録商標と類似するかを判断し、d.状況を踏まえて出願すべきか否かを判断しなければなりません。この工程を一つでも間違えると、パッケージデザインを変更しなければならない事態になり得ます。なお、この工程も簡略化したものであり、他にも検討すべきことはあります。

 

パッケージデザインの変更を防ぐため、初動の段階で(できればデザイン開始前)デザイナーと弁理士が連携する世の中になるのが私の理想です。弊所では、このような連携が普及するよう試行錯誤しております。この活動にご興味のあるデザイナーの方は是非とも弊所にご連絡ください。

 

講師プロフィール

岡村太一弁理士 ブランデザイン特許事務所

2010年弁理士登録

・商標・意匠の実務を経験した後、2020年に商標・意匠専門事務所「brandesign」設立

・大学講師・セミナー・YouTubeゆるカワ♡商標ラジオ」等多数の情報発信を行う

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