デザインの権利と保護

Vol.128 意匠で文字はどう取り扱われる?

2022.12.23

連載2回目の「知財くんがゆく」のテーマは、パッケージデザインでは重要な要素である「文字」についてです。「意匠で文字はどう取り扱われるか?」デザイン保護委員会の鈴木正次特許事務所 山本典弘弁理士のコラムです。(編集・文責:デザイン保護委員会)

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(ロゴデザイン:大谷啓浩)

知財くんがゆく 第2回

 

意匠で文字はどう取り扱われる?

 

パッケージデザインでは文字要素を取り込むことが多いと思います。この場合、意匠では文字要素がどう取り扱われるかを検討してみました。

(1)古くは、意匠では「文字は意匠を構成しない」と取り扱われ、写真で出願する場合には、文字と同じ色や地の色などで、文字を読めないように塗りつぶしていました。(【意匠1】【意匠2】)

 

【意匠1】

登録727596号(登録日1988/3/18)「包装用缶」

【意匠2】

 

登録736452(登録日1988/6/23)「包装用箱」

(2)このような背景には、かつて、【意匠3】に対して、登録無効審判が請求され、この審決に対して、東京高等裁判所で審決の適否が争われたことにあるようです()。

この裁判では論点の一つに、「CUP NOODLE」の表示が文字か否かの争いがありました。裁判では「元来は文字であっても模様化が進み言語の伝達手段としての文字本来の機能を失っているとみられるものは、模様としてその創作性を認める余地がある」と原則を述べたあとで、「CUPおよびNOODLEは、ローマ字を読むための普通の配列方法で配列されており、カップ入りのヌードル(麺の一種)をあらわす商品名をあたかも商標のように表示して、これを看る者をしてそのように読み取らせるものであり、かつ読み取ることは十分可能とみられるから、いまだローマ字が模様に変化して文字本来の機能を失っているとはいえない。」として、模様ではなく、文字であると認定されました。ただし、他の理由により、【意匠3】の意匠権は維持さました。詳細は下記【備考】を参照ください。

 

【意匠3】

登録359633号(登録1972/12/01)「包装用容器」

(3)現状の意匠審査基準をみると、文字の取り扱いは、以下のように記載されています。

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『意匠審査基準』3.2.9

「図形の中に、中心線、基線、水平線、影を表すための細線又は濃淡、内容を説明するための指示線、符号又は文字その他意匠を構成しない線、符号又は文字が表されたことにより、意匠が特定できない場合」(タイトル名)

物品等に表された文字、標識は、「専ら情報伝達のためだけ」に使用されているものを除き、意匠を構成するものとして扱う。

<「専ら情報伝達のためだけ」に使用されている文字等の例>

a 新聞、書籍の文章部分

成分表示、使用説明などを普通の態様で表した文字(アンダーライン、「」は執筆者)

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

したがって、このような審査基準のもとでは、出願に際して、【意匠1】【意匠2】のような文字を消す手間はなくなりました。

一方で、審査基準では、何が普通の態様か? 意匠を構成しない部分は地の色になるか?などわかりにくい内容です。少なくとも「情報伝達のためだけ」でない文字は意味内容を表すものではなく、その位置にある模様として取り扱われているようです。

ただし、文字が他人の有名な商標などの場合には、「その他人の業務と混同を生じるおそれ」があるとして、拒絶される場合もありますので注意を要します(意匠法第5条第2号)。

(4)パッケージ関連の登録例をいくつか見ますと、【意匠4】~【意匠62】のようにデザイン化された文字を模様として、その文字が模様のポイントとなって、登録を得ています。これらの登録意匠は、破線(点線)を用いて外枠を表していますが、「破線以外の部分が登録を受けようとする意匠」と判断されて登録になった登録意匠で、通称部分意匠と呼ばれています。なお、【意匠52】では、「L」の模様と横線の地模様の組み合わせになっています。

また、関連意匠制度では同じ出願人であれば、互いに類似している意匠も、本意匠と関連意匠として両方登録になります。したがって、【意匠51】と【意匠52】とが互いに類似し、【意匠61】と【意匠62】とが互いに類似しているという判断になります。特に、「情報伝達の文字」の観点からは、【意匠51】と【意匠52】が類似しているという判断が注目されます。

 

【意匠4】

登録1338991号(登録2008/8/1)「包装用箱」

 

【意匠51】

登録1400293号(登録2010/10/1)「包装用箱」本意匠

 

【意匠52】

登録1400539号(登録2010/10/1)「包装用箱」関連意匠

 

【意匠61】

登録1662677号(登録2020/6/11)「包装用箱」本意匠

 

【意匠62】

登録1662744号(登録2020/6/11)「包装用箱」関連意匠

 

(5) また、パッケージではありませんが、【意匠7】~【意匠9】のような登録もあり、文字自体を形状や模様として取り込んだデザインをして、登録を得ています。

 

【意匠7】

意匠登録第1262787号【登録日】2005/12/22

【意匠に係る物品】道路標示シート

 

【意匠8】

意匠登録第1275226号(登録日)2000/5/12

【意匠に係る物品】ラベル

【意匠9】

意匠登録第1480421号(登録日)2013/8/30

【意匠に係る物品】ポスター

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【備考】

東京高裁昭和55325日判決

昭和53年(行ケ)第30号審決取消請求事件

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/277/014277_hanrei.pdf

※※なお、上記各意匠権で登録意匠は代表図しか掲載しませんでしたので詳細は、特許情報プラットホームJ-PlatPatの意匠>意匠番号照会、で登録番号を入力し検索してください。

https://www.j-platpat.inpit.go.jp/d0000

以上

 

「知財くんがゆく」へのご意見、こんなテーマを取り上げてほしい、ご感想などお寄せください。

(公社)日本パッケージデザイン協会 事務局

デザイン保護委員会「知財くんがゆく」宛

info@mail.jpda.or.jp 

 

 

 

 

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