デザインの権利と保護

Vol.129 パッケージのラベルデザインは商標ではどう取り扱われる?

2023.2.27

連載3回目の「知財くんがゆく」のテーマは、「パッケージのラベルデザイン」は商標ではどう扱われるか?についてのコラムです。身近な2つの商品の事例を、昨年実施した「商標」の勉強会の講師を務めていただいたブランデザイン特許事務所・岡村太一弁理士に解説していただきます。(編集・文責:デザイン保護委員会)

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(ロゴデザイン:大谷啓浩)

知財くんがゆく 第3回

パッケージデザインを法的に守る場合、意匠登録や商標登録が考えられます。意匠については新規性(自己の公開によっても登録できなくなる)等のハードルがあります。そこで、今回は商標に絞ってパッケージデザインについて検討します。判断が分かれた商標の事例を比較しつつ解説します。

出願人:かどや製油株式会社(以下、この記事では「かどや」と呼びます)
商品:ごま油(不服2017-9799)
※拒絶審決(登録できなかった

  

出願人:キッコーマン株式会社(以下、この記事では「キッコーマン」と呼びます)

商品:加熱処理をしていないしょうゆ(不服2018-9768)

登録審決(登録できた

上記2つの事例では、いずれも破線部が商標を構成する要素でないとされています。言い換えると、パッケージの外形は対象外であり、(外形が類似するか否かにかかわらず)キャップや胴部の色や模様等が類似する他社の模倣排除を狙う出願ということになります。

パッケージデザインを出願すると、識別力がないとして商標登録できない可能性があります。例えば、会社名、ワインポイントマーク等の商標として分かりやすい目印があれば識別力の問題はありません。本事例の2社も、以下のように、会社名「かどや」や暖簾記号「角+図形」又は「萬+図形」を含めた出願商標は識別力の問題を指摘されずに商標登録されています。

 

商標登録第5207145号            商標登録第6102817

     

しかし、本件の2例のようにメーカー等を特定するための分かりやすい目印が無い場合、原則的には識別力が無いとして商標登録できません。ただし、例外があります。一定期間パッケージデザインを使用することによりメーカー等を特定できる程有名になっている場合には登録できることになっています。この有名か否か(周知性)は、パッケージデザインを付けた商品の市場シェア、売上、販売期間(使用期間)、宣伝の規模等の様々な要素が考慮され、判断されます。そして、周知性は出願人が立証する必要があります。つまり、出願人が市場シェアや売上等の証拠を特許庁に提出し審査官が周知性を認めれば登録になります。

本件の2例は、周知性が争われ、結論が分かれたケースです。感覚的にはいずれも長年使用され有名な気もします。以下は、特許庁が出願人の主張と証拠に基づいて認定した周知性の考慮要素に関する事実の一部です。

上記のとおり、市場シェアや使用期間の点では、かどやのごま油の方がキッコーマンの醤油のスコアを上回っています。この2点は、一般的には周知性の考慮要素として重要とされています。では、何が判断を分けたのでしょうか?

その答えは主に出願商標と現実のデザインとの“同一性”にあると考えられます。

 

周知性の判断の前提として出願商標と使用商標の同一性が必要です。使用商標とは現実に販売されている商品のパッケージデザインとここでは考えてください。かどやのごま油もキッコーマンの醤油も現実のパッケージには文字や図形を含む点では完全に同一ではありません。しかし、特許庁の審査基準上、完全に同一である必要はないとされています。とはいえ、審査基準を見ても同一性判断のための明確な基準は記載されておらず、個々のケースの具体的な事情や証拠により判断が異なります。

 

そこで、個別のケースを具体的に検討するため、以下、本件の2事例について出願商標と使用商標とを比較します。

 

    出願商標           使用商標

   

使用商標は以下のURLから引用

https://www.kadoya.com/products/page01.html

 

    出願商標           使用商標

  

使用商標は以下のURLから引用

https://www.kikkoman.co.jp/products/product/K050305/index.html

 

ごま油の方は、胴部のラベルのデザイン自体が金色の細線及び太線があるか否かで異なります。また、ラベルに文字や暖簾記号が重なっています。これに対して醤油の方は、デザイン自体の相違はありません(若干抽象化されているとしても同一視できると特許庁に認定されています)。また、「生」のロゴも模様も他の文字や暖簾記号等と重なっていません。2つの事例における特許庁審決の判断理由を比較すると、これらの点が決定付けたと理解できます。

どの範囲であれば同一性が認められるのか、言い換えると、どこまで抽象化しても問題なく登録されるのかは、見極める必要があります。ごま油の事例では、仮に同一性を重視し出願すると登録できたかもしれませんが、それだと他社の模倣を適切に防げなかった可能性もあります。逆に、かどやの象徴として広告目的で商標登録する場合には同一性を重視し登録を狙うという戦略もあります。つまり、どこを商標出願の対象とするかは他社の使用状況事業戦略によって異なるといえます。このため、パッケージデザインの商標登録を狙う場合、法的観点のみならず、この2点を踏まえて慎重に進めていく必要があります。

また、文字等の他の要素がラベル等のデザインに重なるか否かやデザインの独自性も登録の可否に影響すると考えられます。そうすると、デザインする際にパッケージデザインの商標登録を意識することにより、将来、パッケージデザインが法的に守られる可能性を高めることができます。そして、商標登録されれば広告的なアピールにもなります。法的保護や広告視点も見据えたデザインの実現のため、是非とも弁理士にご相談ください。

 

筆者プロフィール

岡村 太一 ブランデザイン特許事務所代表弁理士

2010年弁理士登録

・商標・意匠の実務を経験した後、2020年に商標・意匠専門事務所「brandesign」設立

・大学講師・セミナー・YouTube「ゆるカワ♡商標ラジオ」等多数の情報発信を行う

岡村太一弁理士が講師を務めていただいた勉強会「詳しく知りたい、商標のこと!」の記事はこちらです。

https://library.jpda.or.jp/rights_protection/3491.html/

 

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