Vol.136 デザインの公開後に意匠登録を受けられる?-意匠の新規性喪失の例外規定について-
今回の「知財くんがゆく」のテーマは、「デザインの公開後に意匠登録を受けられる?」についてです。デザイン公表後に意匠登録を受けるための制度「意匠の新規性喪失の例外規定」について、のぞみ特許事務所 木村智加弁理士に解説してもらいました。 (編集・文責:デザイン保護委員会)
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(ロゴデザイン:大谷啓浩)
知財くんがゆく 第7回
デザインの公開後に意匠登録を受けられる?-意匠の新規性喪失の例外規定について-
のぞみ特許事務所 弁理士 木村智加
日々生み出される多数のデザインのうち、どのデザインが世の中に受け入れられるか、事前に予測することは容易ではありません。SNSで思いがけず話題になる等、公表してしまった後から意匠出願しておけばよかったと悔やんだ経験をお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
大丈夫です、デザインの公開後も、意匠登録を受けられる場合があります。
今回は、デザイン公表後に意匠登録を受けるための制度「意匠の新規性喪失の例外規定」について、近年の改正点とこれに伴う注意点を中心にご紹介します。
デザインの公開と意匠登録の要件
意匠法はパッケージデザインの保護において中心的な役割を担っていますが、意匠法による保護を受けるためには、特許庁へ出願し、意匠登録を受ける必要があります。
意匠登録を受けるためにはいくつか要件がありますが、主要な要件として、「新規性」と「創作非容易性」があります。意匠登録出願前から知られていた意匠や、そのような意匠から簡単に創作することができた意匠は、意匠登録を受けることができないものとして、審査で拒絶されます。審査で公開の事実が見逃されて登録となった場合にも、後に登録が無効とされたり、権利行使ができなくなったりします。この原則は、自ら公開した場合も適用されます。
【新規性・創作非容易性】(意匠法第3条第1項各号、意匠法第3条第2項)
・出願前に公開されたデザインと同一又は類似の意匠(「新規性」要件)
・出願前に公開されたデザインから容易に創作することができた意匠(「創作非容易性」要件)
については、意匠登録を受けることができません。
しかしながら、デザインの公開の態様は以下に例示するように多様で、誰もが手軽に情報を発信することができるようになったことから、出願の検討を始めた時にはすでに新規性がなくなっていた、という事態が増えてきています。
・クラウドファンディングで公開
・展示会へ出品
・WEB(HP、SNS等)で発表
・チラシ配布
・雑誌等への掲載
・店舗・ECサイトでの販売・・・
意匠の新規性の喪失の「例外」
それでは、出願前に公開してしまった意匠について意匠登録を受けたい場合、何か手立てはないのでしょうか。そのような場合に活用できるのが、「意匠の新規性の喪失の「例外」」規定(意匠法第4条)です。
「意匠の新規性の喪失の例外」規定(意匠法第4条第2項)は、
・デザインの創作者や意匠出願を行う権利の承継人の行為に起因して新規性を喪失した場合に、
・公開したデザインを、
・「新規性」「創作非容易性」の引例から除外してもらえる制度
です。
ただし、出願日が公開日に遡及するわけではありませんので、公開後出願前に他人がこれと同一又は類似の意匠を出願または公開した場合には、原則、登録を受けることができない点に注意が必要です。
「意匠の新規性の喪失の例外」適用の要件
この「意匠の新規性の喪失の例外」規定の適用を受けるためには、一定の条件があります。
まず、新規性喪失の例外規定の適用の対象となる公開行為は、以下の公開に限られます。
【公開者】 公開デザインの創作者又は意匠登録を受ける権利の承継人による公開
【時期的要件】出願より1年前までの公開
また、例外規定の適用を受けるためには、以下の手続を行う必要があります(意匠法第4条第3項)。
・出願時に適用申請を行う(後からの申請不可!)
・出願から30日以内に証明書を提出する。
証明書の記載例等、具体的な手続方法については、特許庁のサイトに詳しくまとめられていますので、ご参照ください。
https://www.jpo.go.jp/system/design/shutugan/tetuzuki/ishou-reigai-tetsuduki/index.html
証明書提出要件の緩和(令和6年1月1日以降の出願に適用)
出願から30日以内の証明書の提出について、これまでは、全ての公開についての証明書の提出が求められていました。例えば、販売についての証明、HP掲載(掲載サイトごと!)についての証明、雑誌掲載についての証明等、1年間に行われる公開行為は多種多様で、かつ、複数回に及び、これら全ての公開についての証明を漏れなく行うことは、大きな負担となっていました。
そのため、長年改善が求められていましたが、近年ついに改正が行われ、令和6年1月1日以降の出願については、同一又は類似する意匠を複数回公開した場合、2回目以降の公開について、証明書の提出の省略が可能となりました。
この改正により、最先(初めて)の公開については、必ず証明書を提出する必要がありますが、同一又は類似する意匠の2回目以降の公開については証明書を提出する必要がなくなり、手続負担が大幅に軽減されました。
証明書提出の注意点
一方で、改正に伴う注意点がありますので、ご紹介します。
(1)非類似の意匠の公開
最初に公開された意匠と非類似の意匠の公開は、証明書提出の省略が認められません。この類似・非類似の判断は、公開された意匠同士で行われます。
①模様違いで非類似のケース
パッケージデザインの場合、容器の形状にも、プリントされた模様にも、両方特徴がみられる場合があります。プリントされた模様に特徴がある場合、容器の形状が同一でも、意匠としては非類似と判断されるケースがあります。
容器の形状に特徴がある場合には、意匠登録出願は色彩・模様を付さずに外形線のみを表した、いわゆる「形状のみの意匠」として出願することが多いのですが、この出願意匠と容器形状は同一でも模様の異なる複数のデザインを出願前に公開していた場合、公開意匠同士が類似か非類似か慎重に検討を行い、非類似と思われる意匠の公開については、証明書の提出を忘れず行う必要があります。模様違いにより非類似にもかかわらず、一方の公開についてのみ証明書を提出していた場合、他方の公開意匠によって拒絶を受ける場合があります。
②形状違いで非類似のケース
次に、同一の模様が非類似の容器に付され、全体として非類似と判断される場合があります。図4の意匠登録1373431号と意匠登録1367804号とは、非類似の意匠として登録されています。例えば意匠登録1367804号の包装用箱の意匠出願にあたって、出願前に同一の模様を付したリップスティックの意匠(意匠登録1373431号の意匠)を公開していた場合には、リップスティックの意匠の公開について証明書の提出を怠ると、創作容易(公知のリップスティックの意匠に表されていた模様を周知の直方体型の箱に付したに過ぎない)であるとして拒絶される可能性があります。
非類似の意匠の公開について証明書の提出が省略できないことは当たり前のようにも思われますが、パッケージデザインの場合、上記①、②のようなデザインの公開について証明書の提出を忘れがちですので、注意してください。
(2)証明書の提出時期
公開意匠同士が類似と考えていたところ、審査では非類似と判断され、新規性なし又は創作容易との拒絶理由を受けとる事態も起こり得ます。近年意匠審査の迅速化が進んだとはいえ、拒絶理由が通知される時には、出願から30日以内である証明書の提出期限を過ぎていて、手遅れとなることが殆どです。公開意匠同士の類似、非類似の判断は、出願時に慎重に行ってください。
(3)その他
今回の法改正に伴う注意点ではありませんが、外国出願を予定している場合には、出願予定国/地域との法令の違いに注意が必要です。国/地域によって、新規性喪失の例外規定の有無や、対象となる公開行為、期間、期間計算の起算点(出願日前か優先日前か)が異なります。例えば、中国では、例外が認められる期間が出願日前6カ月で、対象となる公開行為も、中国政府が主催する又は認める国際展示会での公開等に限定されています。
意に反する公知
ここまで、自ら意匠を公開する場合についてお話しましたが、自己のデザインを秘密にしておくつもりが他者に公開されてしまった場合は、どうなるでしょうか。例えば、秘密保持契約を結んだ相手方との商談で提示したデザインを、無断で公開されてしまったような場合です。
出願前に秘密として管理していたにもかかわらず、他者によって公開されてしまった場合にも、公開から1年以内に出願をしていれば、意に反する公知として、意匠の新規性喪失の例外規定の適用を受けることができます(意匠法第4条第1項)。
出願時の意匠の新規性喪失の例外規定の適用を受けたい旨の申請や、出願から30日以内の証明書の提出を行う必要はなく、出願後に、上申書や意見書で、意に反する公知であったことの説明や、証明書の提出を行うことができます。
ところで、特定かつ少人数での商談でのデザインの提示は、新規性を喪失するでしょうか。
新規性の喪失について、特許庁『(2024年1月1日以降の出願に対応した)意匠の新規性喪失の例外規定についてのQ&A集』59頁〈コラム9〉では、「少数かつ特定の人に対してであっても、秘密でないものとして意匠を公開した場合には、その意匠は新規性を喪失してしまいます。」とされています。
https://www.jpo.go.jp/system/design/shutugan/tetuzuki/ishou-reigai-tetsuduki/document/index/ishou-reigai-qa24.pdf
その商談が、第三者に開示しないことが暗黙のうちに求められ、かつ、期待されると考えられる場合には、秘密保持契約を行っていなくとも、秘密でないものとして公開されたと判断される(新規性を喪失していない)と考えられますが(参考:東京高判平成 12 年 12 月 25 日(平成 11 年(行ケ)第 368 号))、後で問題とならないように、開示資料には「秘」、「部外秘」、「非公開資料」などの記載を行って、商談相手と共通の認識を持つようにしておくのがよいでしょう。
リニューアル品に関する意匠登録出願
それでは、デザインの一部を変更するリニューアルを行う場合、リニューアル品について意匠登録を行うことは可能でしょうか。
当初のデザイン(初期デザイン)について最初の公開から1年を経過すると、初期デザインの公開に関して意匠の新規性喪失の例外規定の適用を受けることはできません。そのため、初期デザインと、リニューアル品のデザインとが類似する場合、リニューアル品に関する意匠登録出願は、初期デザインによって新規性がないとして、拒絶されます。
そのような場合には、リニューアルした部分のみを意匠登録を受けようとする部分とする、「部分意匠」の出願を行うことで、リニューアル品についても意匠登録を受けることができる場合があります。
また、もし初期デザインについて意匠登録を受けている場合には、初期デザインと類似するリニューアルデザインは、初期デザインを本意匠とする関連意匠として登録を受けることができます。関連意匠は本意匠の出願の日から10年を経過する日前まで出願可能です(意匠法第10条第1項)。10年もの間出願可能であるのは大変便利ですが、その間に公開してしまった初期デザインによって関連意匠の出願が拒絶されないでしょうか。
心配ご無用です。本意匠と同一又は類似する自己のデザインの公開については、新規性喪失の例外規定の適用を申請しなくても、関連意匠出願の拒絶の理由とされることはありません(意匠法第10条第2項)。
なお、関連意匠登録を受けるためには、関連意匠の権利の設定の際に本意匠の権利が維持されている等、出願日以外にも必要とされる条件があります。
まとめ
意匠の新規性喪失の例外規定は、適用を受けるための手続が大幅に改善され、使いやすい制度となりました。上記注意点に留意いただき、ぜひ積極的に活用してください。
以上
■筆者プロフィール
木村 智加 弁理士
・特許庁意匠審査官(包装用容器、スマートフォン、画像意匠等を担当)を経て、2020年のぞみ特許事務所に入所。
・意匠専門の弁理士として、国内外での権利化、クリアランス調査、鑑定等を担当。
・日本弁理士会意匠委員会 委員(2022年~)。工業所有権審議会試験委員(意匠)(2023年~)。
今回のコラムについて、ご意見、ご感想などなどありましたらぜひデザイン保護委員会までお寄せください。
(公社)日本パッケージデザイン協会 事務局
デザイン保護委員会「知財くんがゆく」宛
info@mail.jpda.or.jp