デザインの権利と保護

Vol.137 フミ・ササダさんに聞く「デザインで世界とつながる!」 グローバル市場で共感を生むデザインと知財の秘訣 セミナー報告

2025.7.17

アジア各国をはじめグローバルで活躍されている、JPDA元理事長でブラビス・インターナショナル代表取締役社長のフミ・ササダさんを講師にお迎えし、「海外でのパッケージデザイン開発」「日本と海外のブランディングの違い」「海外のAI事情」などを中心に知財関係での経験、苦労されたことなどを語っていただきました。
(セミナー報告 デザイン保護委員会/稲垣 幸美)

日 程:5月27日(火)16:00 〜17:30
会 場:artience株式会社 大会議室
講 師:株式会社ブラビス・インターナショナル 代表取締役社長 フミ・ササダ様
実 施:JPDAデザイン保護委員会/協力:JPDA事務局
参加者:56名(JPDA会員49名、一般7名)

セミナーの主な内容

ブラビスの海外進出のきっかけと展開
・ブラビスは「アジアナンバーワンのブランディング・デザイン会社となる」という目標を掲げ、2008年6月にソウル支社、2013年に上海、2015年にバンコクに進出しました。
・この「ナンバーワン」は規模や売上ではなく、「アジアで素晴らしいブランディング・デザインの会社は?」という問いに対して「ブラビス」と挙げられることを意味しています。海外進出のきっかけとして、JPDA、APD、ASPaC、ペントアワード、BBS(ブラビスブランディングセミナー)など、これまでの様々な活動が挙げられています。
・アジアではコンペ受賞歴などの「権威と実績」が重要視され、「先生」として尊敬される立場が必要とされます。
・フミ・ササダ氏は、運を掴むためには自らが「動く」ことが大切だと語っています。(運=自分を運ぶこと)

アジアのクライアントが日本に期待する7つのポイント
・「Simple Design(シンプルなデザイン)」
・「Japanese Aesthetics(日本の美意識)」
・「Innovation(革新性)」
・「High Quality(高品質)」
・「Manga & Character(漫画とキャラクター)」
・「Kawaii Design(かわいいデザイン)」
・「Sustainability(持続可能性)」

海外クライアントからの依頼内容の理解に苦しんだ事例
中国の若い人向けお茶飲料「小若同学」のパッケージデザインの依頼では、中国式のブラックジョークや、中国で誰もが知るキャラクター「小明(シャオミン)」を入れてほしいとの要望があり、日本人には理解しがたい文化の違いから苦労がありました。この商品は成功し、賞も受賞しましたが、訴えが追いつかないぐらい類似商品が多数登場しました。

各国(韓国、中国、タイ、アセアン諸国)のデザインビジネスの特徴と課題
・韓国:
デザインビジネスにおける「実力」の影響度は日本と中国の中間に位置します。コネクションも重要で、企業規模を問わずインハウスデザイナーが存在するため、デザイン外注は日本より少ないです。
・中国:
成功には「先生として尊敬されること」「中国人が認めるデザイン賞を取ること」「中国にオフィスを構えてデザイナーを雇うこと」が重要です。モノマネ商品は減り、オリジナリティのある自社ブランドへの取り組みが進んでいます。広大な国土のため地域ごとに強いブランドが存在し、物流の困難からECへの移行も増えています。デザイン料は必ず先払いしてもらうことが肝要です。
・タイ:
外国企業が会社を設立する場合、49%しか株を保有できません。日本人社員を派遣する場合、日本人1人に対しタイ人4人の雇用が必要です。タイ語は3段表記で難しく、現地のデザイナーの感性が重視されます。
・アセアン諸国:
10ヶ国で構成され、それぞれ人種、言語、宗教が異なります。ブランディングやパッケージデザインの重要性を理解している企業は少なく、デザインへの積極的な投資にはまだ時間がかかるとフミ氏は判断しています。

ブラビスのアジア進出を決定するための3つの基準
・化粧品・美容への投資額(文化度)
・飲料の甘さ(文化度が上がると無糖化する傾向)
・袋麺の価格(デザイン料が支払えるかの目安)
※20~30円の袋麵ではデザイン代が払えない。

海外クライアントとの業務委託契約と知財訴訟費用保険
・業務委託契約書では、「著作権の定義」「第三者の権利の使用」「発生した著作権等の帰属」の3点に注意が必要です。特に、不採用成果物の著作権はデザイン会社に帰属することを明確にする必要があります。
・海外からの知財訴訟リスクに備えるための「海外知財訴訟費用保険制度」も紹介されました。

▼商工会議所会員向け 保険制度「「海外知財訴訟費用保険制度」
https://www.ishigakiservice.jp/intellectual-asset
▼特許庁「海外知財訴訟費用保険に対する補助」
https://www.jpo.go.jp/support/chusho/shien_sosyou_hoken.html

商標権と著作権で問題となった国内と海外事例
デザインバーコードのミスにより、数百万円の損害が生じた事例が紹介されました。ネイティブチェックの重要性も強調されました。

AI生成画像の著作権問題とパッケージデザインへの影響
AIが過去のデザインデータをいくら蓄積しても今までになかった新しいアイデアをだすことは不可能と考えていましたが、ChatGPTの出現により、画像検索や処理能力の向上が更に進化した場合、AIによりパッケージデザインを含むデザイン開発が出来るようになってきました。

海外企業からの問い合わせ
海外企業からはデザイン料と納期に関する問い合わせが多く、フミ氏は問い合わせ元の国の状況に合わせて価格を設定しています。日本のデザイン代は適用せず、日本の企業よりも1週間プラスしたスケジュール案を提示しますが、価格が合わないことからビジネスにつながるのは少ないとのことです。

質疑応答

Q)様々な国に会社を置かれ、現地スタッフに仕事を任せているとのことですが、フミ先生のデザイン監修はなされるのでしょうか?
A)全体的に日本でチェックしていますが、タイでは独自で開発しているケースもあります。

Q)その際、現地に足を運ばれた時の感覚で判断なされるのでしょうか?
A)そうです。これまでの訪問で自分の中にその感覚は残っています。

Q)アジア現地のデザイン教育はどこまで来ているのでしょうか?
A)アジア現地でのデザイン教育は進んでいる。ASPaCでは2010年頃は日本がダントツによかったが、だんだん他の国が良くなってきて2019年は日本とアジア地域のデザインクオリティの差がほとんどなくなっていた。2019年頃の最高賞はほかの国の方が取っていました。

Q)敢えて日本の企業ブラビスに依頼する理由は?
A)まだまだ日本のものに対する信頼感があることや、ブラビスがグローバルイメージを出していることが挙げられます。

Q)インドへの進出は?
A)インドへの進出は、貧富の差が激しく、ターゲット設定が難しいと感じているため、まだ見通しは立たないです。

Q)現地採用のデザイナーを採用するにあたり大切にしていることは何でしょうか?
A)ASPaCの審査を行っていたことから各国の先生と親交を持つことができたのと、その国
のトップレベルのデザイナーとの繋がりを得られたことは幸運でした。

Q)拝見した作品から、食品分野から環境配慮の点で、アジア、ヨーロッパのトレンドパッケージがどう変化していくか?
A)キットカットの紙のパッケージが最初。脱プラでよかったが、タイではレジ袋をやめバナナの皮を使って包む、容器を小さくしてフードロスを支援する。しかしどの国もまだそこまでは進んでいない。これからです。環境配慮型のパッケージに関しては、まだこれからであり、デザイナーよりもメーカー側の取り組みが中心になるのではないでしょうか。

セミナー参加者アンケートまとめ

今回セミナーにご参加いただいた人数は56人、そのうちアンケートへご回答いただいた方は52名(回答率93%)と非常に多くの方がアンケートにご協力いただくことができました。

参加者の内訳で最も高かったのがメーカーでデザインを担当されている方(インハウスのデザイナー)で、10年以上の経験をお持ちの方でした。これだけ経験豊富な方にご参加いただけたのですが、今回が初参加の方が最も多く、私たちも、より広報活動に励み、多くの方にご参加いただけるセミナーを企画しなければいけないと再認識させられました。

セミナー内容に関しては「よく理解できた」「とても役立ちそう」「とてもわかり易かった」といたように、トップボックスに票が集まり、非常に好評であったことが分かります。

特にセミナーの長さに対しては「ちょうどよい」以外に「やや短い」「短い」をいった票があり、自由回答には「楽しかった」「もっと聴いていたかった」といったコメントも多く、フミさんの経験豊富で示唆に富み、お話上手で温かいお人柄などが偲ばれる内容でした。

今後取り上げてほしいセミナーのテーマも「海外の知財」に最も票が集まり、続編を期待されるコメントも多く、機会をみてぜひまたフミさんのセミナーをお願いしたいと思います。
(アンケート報告 デザイン保護委員会/齋藤 郁夫)

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(編集・文責:デザイン保護委員会)

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