リサーチ & 研究報告

ニッポンのパッケージデザイン<2013年度調査>結果概要
II.特産品開発を取り巻く環境(外部専門委員 榊 博史)

1.特産品とは

特産品の定義に明確に定められたものはなく、特産品と深くかかわりのある地域ブランドの選定基準も、各自治体や地域によって異なっています。
一般的には、「特定の地域で産出された一次産品やその加工品」、「特定の地域で加工された商品」(この場合は必ずしも原材料は地域内のものでなくてもよいとする場合もあります)、あるいは「特定の地域を象徴する産品や商品」、などと定義されているケースが多いようです。
 

2.特産品と観光による地域活性化

日本の多くの地域で人口が減少するようになり、各地で地域活性化の必要性が高まっています。
地域の活力の源泉は人口であり、人口を減少させないためには地域に雇用を創出することが必要となります。もともと多くの産業が立地する大都市圏以外の地方において、地域に雇用を創出することができる有力な産業は「特産品製造・販売」と「観光」です。このような理由から、地域活性化の有効なテーマとして「特産品」と「観光」が注目されるようになってきました。

日本も、国全体で人口が減少する状況下でメイドインジャパンを新たにブランディングする「クールジャパン」と海外からのインバウンドを増加させる「ビジットジャパン」が国レベルの施策として重要になっています。
地域外に特産品を販売して地域外からの所得を獲得し、また地域外から観光客を誘致して地域外からの所得を呼び込むことによって地域内に雇用を創出し、人口を維持・増加させようとする視点から、近年特産品の注目度が高まっているのです。
 

3.特産品製造と着地型観光

近年、地方で活気がある施設として、全国に1,000ヶ所以上ある「道の駅」があげられます。多くの場合、道の駅には特産品の売店や、特産品を用いた料理を食べることができる飲食店が設置されています。さらに最近では、この道の駅が、特産品を栽培する農場での収穫体験ツアーや特産品加工場での加工体験ツアーなどの集合場所になっているというケースも増えており、道の駅の観光ターミナル化や特産品と観光の融合が進んでいます。

観光業界では、このような地方発着の観光形態を「着地型観光」といい、近年注目されるようになってきました。着地型観光はいわば観光の直販形態であり、地方の観光事業者の収益を確保し、所得向上に寄与するものとして、力を入れている地域が増えています。例えば、全国道の駅グランプリで日本一となった「道の駅とみうら枇杷倶楽部」(千葉県南房総市)では、枇杷(びわ)を使用したメニューを開発しカフェで提供するほか、さまざまな体験ができるサテライトも設置して、地域の観光拠点となっています。枇杷のハネモノも全て加工品に使われるようになり、農業所得が大きく向上しました。また、大都市圏からの送客業者との連携や、ポータルサイトを立ち上げ直販を行うなどコミュニケーションにも力を入れています。

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このように特産品の開発製造と観光が両輪となって産地のブランド化が図られています。農産物の場合、青果として提供する場合と加工品として販売する場合とが考えられますが、レシピ開発や加工品開発では、消費者との直接の接点(販売機会)をもつ小売り業や飲食業とのコラボも多く行われています。前述の道の駅の例のように、集客・販促のためのさまざまなコミュニケーション施策も必要です。これら一連の流れをまとめたものが、図表1です。

II_Fig_1

観光で訪れた人が特産品を購入し、さらに後日お取り寄せで購入したり、ギフトとして他の方に贈ることもあります。また、アンテナショップや百貨店の物産展、通販などで特産品を購入したことがきっかけで、その産地を観光で訪れることもあります。商品パッケージは、特産品そのものの販売促進だけでなく観光の宣伝にもつながります。消費者とのコミュニケーションツールとして、パッケージデザインは重要な役割を果たしています。
 

4.特産品と6次産業化

「1×2×3=6」の6次産業化が特産品開発で注目されています。
6次産業化とは、1次産品の生産者や地域内の加工業者が、地域内で加工品製造(2次)や商品販売(3次)までを完結して行うことです。

1次産品の生産者の所得を増やすには
①消費者に直販する
②直売所など地域内の小売り施設で販売する
③そのまま出荷できないハネモノなどを加工原料として活用する
④生産者自らが加工品の製造や販売を行う
などの方策がありますが、このうちの③④が6次産業化の取り組みといわれるものです。

1次産業の活性化のために、行政機関や支援機関、生産者団体が6次産業化を積極的に支援しているため、近年新たな特産品が開発されるようになり、特産品ブームのきっかけの一つにもなっています。
 

5.特産品の販路

特産品の販路としては下記のようなものが一般的です。
①通販やeコマースによる消費者への直販
②地域内の直売所や道の駅における販売
③地元スーパーのアンテナショップコーナーでの販売
④地域の給食や弁当業者などへの卸売り
⑤地元や大都市圏で行政が設置するアンテナショップでの販売
⑥地元や空港、駅などのお土産物店での販売
⑦郵便局や百貨店のギフトカタログに掲載しての販売
⑧地域ぐるみで出店する、物産催事での催事販売

特産品は多くの場合、原価率や納品ロット、生産量などの様々な面で、大手小売業の取引条件とはミスマッチが起こるケースが多いため、上記のような特産品独自ともいえる販路が販売の中心になるのです。特産品生産者、加工業者やその関係者は最終的にどの販路にどのくらいの量を販売することを目標とするかを具体化しながら、商品開発や加工などを行うことが必要となります。
物販、飲食とも消費者にどのような形で提供するかにはいくつかのパターンがあります。販路によっては関係する事業者が多くなり、それに応じて利益配分も変わります。(図表2)

II_Fig_2

上図の、物販の⑥⑦のように加工、卸し、小売りを他者に委ねる従来型の一次産品での出荷では、大量出荷が可能になるものの利益配分は小さくなります。一方、前述の6次産業化では、物販の①~③、飲食の①のように、生産者は消費者や、消費者と接点をもつ店舗(小売り業/飲食業)と直接取引を行うため、利益配分は大きくなります。ただし、生産者自身が販路開拓をしなければならず、これには非常に労力がかかります。
生産者の販路開拓を効率的に行うためにも、パッケージで商品の魅力度を高めることが、6次産業化や地域の所得向上のために不可欠なのです。

販路に適した商品開発を行うにあたっては、売り場や消費者について十分な情報を得る必要がありますが、生産者や地域の加工業者は、顧客の中心となる大都市圏に居住する消費者のライフスタイルやし好を容易に知ることができないのが実態です。図表3に示すように、販路や消費者、競合品や市場、商品開発などでさまざまな課題があります。また、行政などの支援を受けても現実にはミスマッチとなったり、一回だけのスポット取引に終わり、結果的に販路拡大につながらないという場合もあります。パッケージデザインを活用したブランドづくりも必ずしも十分とはいえません。

II_Fig_3

市場や消費者をよく知るパッケージデザイナーには、地域の生産者、加工業者とのコミュニケーションを通じて、パッケージデザインそのものだけでなく商品開発やブランディングなど、さまざまな課題にも対応することが期待されます。
 

6.特産品の付加価値

特産品は大量に販売することで利益を得るよりも、産地である地方の風土をはじめとする、特産品ならではの付加価値を消費者にきっちりと伝えることにより販売量が増え、利益率が上がり、地域にもたらす所得が増えるのです。 では、特産品の付加価値とは何でしょうか? どこででも手に入るものではないその土地ならではのもの、地元ではあたりまえでも外の地域の人たちには珍しいもの、その土地の風土に根差した一次産品やその加工品、長い間に培われてきた加工法や技術、モノそのものだけでなく背景にある歴史や文化の物語、さまざまなとらえ方があるでしょう。その中心にあるのは、風土です。(図表4)

II_Fig_4

風土とともに、その土地に根差した人々の思いやこだわりが地域そのものや特産品をなお魅力的にしていきます。その魅力をどのように伝えていくかが問われます。例えば農産物であれば、特産品にある、
①栽培法へのこだわり
②加工法へのこだわり
③作り手やその文化の物語
これらを商品とともにきっちりと伝えることができる、ネーミング、パッケージ、プロモーションがますます重要になっていきます。パッケージは産地という「地域」と、地域が生み出す「特産品」の両方の魅力を店頭で消費者に訴求するコミュニケーション媒体です。特産品からヒット商品が生まれれば、地域の知名度が上がり地域ブランドの価値もアップします。さらにこのことが観光にも波及し、いずれ定住者の誘致にもつながる好循環を生み出していくのです。

外部専門委員 榊 博史(榊経営研究所代表)

ニッポンのパッケージデザイン<2013年度調査>結果概要

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