Vol.107「デザイン業務に関わる法律のポイント(講義の解説)」
本号は、9月14日実施の「クリエーターのための知的財産権の基礎」セミナーの講義内容を当日の講師から伝えていただきます。
デザインを取り巻く現場で出会う知的財産についての様々な疑問、特にパッケージデザインとの関わり、法的に保護できる一番頼りになる法律から始まり、その他の保護法まで、活用の仕方・注意すべきことが、事例に照らして具体的に、簡潔に、解説されています。
セミナーに参加いただけなかった方々にも、紙上セミナーとしてご利用いただけましたら幸いです。
前号Vol.106では、委員会メンバーからの各担当ごとの実施報告と、参加者からのアンケート回答の集計結果がご覧いただけます。 https://library.jpda.or.jp/rights_protection/2541.html/
(2018年11月8日 編集・文責:デザイン保護委員会 担当 丸山 和子)
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情報発信
クリエーターのための知的財産権の基礎/9月14日セミナーのテキスト解説
弁理士 松井 宏記 レクシア特許法律事務所
弁理士の松井宏記です。
2016年にもJPDAで同様のテーマで講演させていただきました。今回は、知的財産の基礎、特に、意匠権、商標権がパッケージデザインにどのように関わるかをお話しさせていただくとともに、いわゆる景表法やパブリシティ権についてもお話し致します。
パッケージデザインを法的に保護するに際して、一番頼りになる法律は意匠法と思います。
その理由は、保護したい内容を戦略立てて出願して権利化(意匠登録)することにより、デザインしたものの周辺まで他社を排除できるようになるからです。
-意匠権を取る方法には-
パッケージデザイン「そのものを意匠登録する」ことに加えて、
・その「バリエーションも周辺で登録してゾーンとして囲い込む出願方法」と、
・パッケージデザインの中の「一部分だけを保護する方法」を戦略立てる必要があります。
前者を関連意匠、後者を部分意匠と呼んでいます。
例えば、下記のパッケージデザインでは、
・左側が「パッケージデザインそのものの全体意匠」、
・右側が「一部分の特徴だけを保護する部分意匠」です。
全体意匠により全体印象が共通するデザインを排除するとともに、部分意匠で部分的にデザインが共通するものも排除しています。
下記は関連意匠の例です。3つの意匠登録があります。
・左側が「パッケージデザインそのものの意匠登録」です。
・中央は「オリジナルの赤波線のみの部分意匠(本意匠)」で、
・右側は「そのバリエーションの関連意匠」です。
本意匠と関連意匠とでは、赤波線であることは共通しますが、波のピッチ(間隔)が異なります。
これらは類似として登録されていますので、少なくとも、この両意匠間の間隔を有する赤波線の意匠は、本意匠または関連意匠いずれかの意匠の類似範囲(権利範囲)になるものと考えられます。
このように、関連意匠を利用した意匠権取得では、権利範囲を明確にしていくとともに、関連意匠も独自の類似範囲(権利範囲)を持ちますので、潜在的に権利範囲を拡大していくことが可能です。
上記の意匠登録は、オレンジジュースとアップルジュースの缶のデザインが互いに類似とされた例です。
同じシリーズの味違いであって、デザインコンセプトが共通しますが、オレンジとアップルでは絵柄は全然異なります。
しかし、類似と判断されているということは、このデザインコンセプトを有する他の味のデザインもどちらかの意匠登録の類似範囲に含まれて保護できる可能性が高いということを示唆していると思います。
-意匠権の権利範囲は、登録意匠の類似範囲までです-
「登録意匠の類似範囲」とは、デザインの類似範囲と物品の類似範囲の掛け合わせで決まります。
よって、物品が非類似のものになると、デザインが似ていても権利範囲外になります。
パッケージデザインの中には、いろいろな包装物に、似たデザインをシリーズで施すことが多いと思います。このようなケースはどのように保護すればいいのでしょうか。
上記の登録意匠は、異物品間で関連意匠とした事例です。
・左側は四角状の箱に施したデザインですが、
・中央は袋状のもの、
・右側は円筒状の容器に施したデザインです。
「箱」、「袋」、「容器」、それぞれ異なるパッケージ物ですが、互いに類似関係にある物品であって、互いの類似範囲に入ることを確認できています。
これによって、他のパッケージ物に同様のデザインが施されても、類似と判断される可能性が大分アップしていると思われます。
次の例は、包装用箱という物は共通していますが、デザインが異なっていても類似と判断されている事例です。
同じフレーム内に同じ文字と同様のタブレットのデザインですが、配置が異なっています。しかし類似と判断されています。これによって、同じフレーム内の同様の文字、同様のタブレットであれば、配置は関係なく類似(権利範囲)となる可能性を高めています。
-次に商標ですが-
最近、色彩商標や位置商標というものが、パッケージデザインや企業カラーを保護するために利用されており、登録商標も出てきています。
上記は、トンボ鉛筆さんのプラスチック消しゴム「MONO」のカラーリングが色彩商標として登録されている事例です。
消しゴムの分野で、このカラーリングから連想する商品は何?と聞かれると、みなさんは、トンボ鉛筆さんの「MONO」と答えると思います。このように、特定分野で有名であって、特定商品を連想させるようなカラーリング自体を商標登録できるようになっています(但し、求められる有名性はかなり高いです)。
これにより、他社は、消しゴムの分野で、このカラーリングをMONOと混同するような形で使用をすると商標権侵害になります。
トンボ鉛筆のニュースリリースはこちら。 https://www.tombow.com/press/170301-2/
他にも、企業カラーを表すカラーリングとして、下記の三井住友銀行のカラーリングが商標登録されています。これにより、主に銀行業務において、このカラーリングを三井住友銀行と混同するような方法で使用すると商標権侵害に該当します。
カラーリング自体がブランド力を有しているので保護されている実例といえます。
カラーリング以外にも、パッケージデザインやプロダクトデザインにおいて、特定の位置に特定の目印が刻まれていることがあります。
例えば、下記は日清食品さんのインスタントラーメン「カップヌードル」のパッケージデザインに使用されている装飾(通称:キャタピラ)です。
この上下の帯型の図形だけで日清食品の「カップヌードル」と認識することができることが認められて商標登録されています。
よって、この上下の帯型図形を使用していれば、文字商標が異なっていても、上記位置商標の商標権を侵害することになります。
日清食品のニュースリリースはこちら。https://www.nissin.com/jp/news/7083
-以上のように、パッケージデザインの保護方法としては-
第一に「意匠出願を戦略立てて行う」ことだと思います。
そして、意匠権で独占状態を築いて、長年の営業活動の結果、ブランドと認識されるようになれば、「色彩商標、位置商標(その他立体商標もあり)で商標登録を目指す」のがよいと思います。
-次に-
不当景品類及び不当表示防止法(いわゆる景表法)について、簡単に説明します。
「景表法」は、商品やサービスの品質等について虚偽表示を規制するとともに、過大な景品類の提供を防ぐことを目的としています。
特に気になるのは「不当表示」と思います。
不当表示には、
・「優良誤認表示」(内容の不当表示)と
・「有利誤認表示」(条件の不当表示)、
・そして「その他誤認されるおそれのある表示」があります。
景表法については、消費者庁のウェブサイトに詳しく記載されています。
https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/#introduction
実際に排除命令を受けた表示の例も記載されています。実例を見ていますと、悪意はないまでも、ややこしく記載するあまり、誤認されやすい表示となっているようにも思えます。
内容表示は明確に行うことが肝要と思います。
-パッケージデザインを行うに際して、「パブリシティ権」も気になります-
パブリシティ権とは、人が持っている顧客吸引力を中核とする経済的な価値を保護する権利と言われています。人にはプライバシーの権利がありますが、芸能人やスポーツ選手等の有名人は、肖像権やプライバシーの権利が制限されると解釈されている一方で、有名人の肖像は商品サービスの広告に使用されることで分かるように経済的な価値を有しています。この経済的価値を守るのがパブリシティ権です。
有名人にはパブリシティ権が認められる一方で、物(人以外のたとえば競走馬)にはパブリシティ権は認められないとされています(ダービースタリオン控訴審判決。平成14年9月12日東京高等裁判所判決)。
また、有名人の肖像を使用する場合であっても、「その肖像等を時事報道、論説、創作物等に使用されることもあるのであって、正当な表現行為等として受忍されるべき場合もある」として、「専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするといえる場合に」違法なパブリシティ権侵害となるとの判断基準が判示されています(ピンク・レディ事件。最高裁判所 平成21(受)2056、知的財産高等裁判所 平成20(ネ)10063)。
-まとめ-
逆に、自社がパッケージデザインを行う場合でも、他人の意匠や商標の権利を侵害してはいけません。また、パッケージ内の表示の問題として、景表法に注意をする必要がありますし、芸能人等の有名人の肖像をパッケージに使用する場合には、パブリシティ権にも注意が必要です(今回はお話しませんでしたが、そのほかにも、他社商品の模倣を禁じている不正競争防止法、他人の著作物の使用を禁止している著作権法、にも注意が必要です)。
こういった法的クリアランスにも万全の注意をしてください。
今回のセミナーでは、講演後、多数のご質問をいただきました。内容としては、故人のパブリシティ権に関するもの、著作権処理に関するものなど、具体的なご質問でした。デザイナーのみなさんがデザイン活動をするに際して、「あれ?これ法的に大丈夫?」と迷われることは多々あると思います。その一方で、知らぬ間に他人の権利を侵害していることもあります(例えば、意匠権や商標権の侵害では過失が推定されますので、そんな意匠権や商標権があるのは知りませんでしたという主張は通用しません。クリアランスの義務があるわけです)。
攻めの姿勢で権利取得を行うとともに、自らの創作物について法的クリアランスを行うことも、さらに重要と思います。
(以上)
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