情報の森コラム

茶箱-茶室空間からとびだすコンパクトボックス

[エコ/サステナビリティ] 2010.7.16

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最近、お茶の稽古で茶箱(ちゃばこ)に出会いました。その印象は、わっかわいい詰め合せ!でした。(1)
まず手箱を開けると二段重ねの浅いトレイに、袋で包まれた茶杓(ちゃしゃく)が眼に入ります。
茶筅(ちゃせん)が茶筅筒に納まり倒れないようにトレイのくりぬきから少し覗いています。(2)
トレイをはずすと、底には茶巾筒に納められたれた茶巾、こんぺいとうなどの入った振り出し、茶筅筒と並んで茶入れが袱紗(ふくさ)に包まれた形で茶碗に納まっています。(3)
全部を広げると、ずいぶんいろいろな道具が納まってるのがわかります。(4)

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茶箱用の茶碗のサイズも一般と違います。(5・6)
ふたまわり程もちいさく、まるでままごとセットですが茶碗としての用も足りるし風格もそこなわない。
豪華な唐物道具を飾りたてる初期の茶の湯とくらべ、千利休の登場によってどんどん簡素なエッセンスを尊ぶ茶道確立の道筋では、減量をして充分に用がたりるリデュース志向は、事前に生まれるひとつの美意識なのでしょう。デザイナーとして興味深いところです。

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元来茶室でのお稽古は、道具の置きどころに厳格なきまりごとがあります。春夏秋冬、炉風炉、棚、運び、真行草、薄茶濃茶、それぞれの点前で、道具の扱いかたも置き位置も訳あって微妙に異なります。
へっぽこ門下生としては、あまりのバリエーションに記憶ができず、毎回のお稽古ごと、先生の次の所作への静かなかけ声にゾンビのようにしたがうのみの繰り返しです。

そんなきびしい茶室のルールで苦労していると、状況にあわせて点前の応用を許されている茶箱は開放感いっぱい。写真の道具はお稽古用の質素なもので、名物とはほど遠いのですが、だからこそ、川にも山にも森にも持参できる。
いつでもどこでもお茶を飲みたい飲ませたいとの先人の思いのつまったアウトドアツールとして、花見や紅葉狩りの大好きな桃山や江戸文化の人々にも楽しまれた事でしょう。

iPadの時代だからこそ、見る、飲む、嗅ぐ、触る、聞く五感の味わいを遠ざけない日常の工夫がいるように思います。
ITに対応して人間の身体機能が俊速に変化した訳ではないので、そのズレの疲れがひどいなあと思った時は、茶箱とお湯のポット持参で、ふらりと空の下ですごしましょう。

(記:桑 和美)

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