リサーチ & 研究報告

パッケージデザインの価値はどうなるか研究会
II. 背景と問題意識:Imagining a Future 〜未来に思いをはせる〜

1.調査研究委員会の取り組み

2008年に活動を開始した調査研究委員会が最初に取り組んだテーマは「エコとパッケージデザイン」 。京都議定書が2005年に発効となり、気候変動や資源枯渇の問題を背景に、世界規模のCO2排出削減から身近な3R活動まで、環境に関する話題が大きな関心事となっていました。これらのパッケージの環境配慮策などの情報を収集・整理し、JPDAサイト内【情報の森】で公開してきました。その後「ユニバーサルデザイン」、地域活性化策としての商品開発・デザイン開発をとらえた「ニッポンの特産品・パッケージデザイン」の調査、またEC/ネット通販とパッケージデザインについての研究会開催など、その時々に注目されるテーマへと対象を広げ、研究会の開催、サイトでの情報発信を続けています。

それぞれのテーマについてと調査レポートは【情報の森】の下記ページをご覧ください。(別ウィンドウで開きます)
・エコとパッケージデザイン https://library.jpda.or.jp/pd_forest/eco/429.html/
・ユニバーサルデザインとパッケージ https://library.jpda.or.jp/pd_forest/ud/393.html/
・ニッポンの特産品事業者調査(2013年度) https://library.jpda.or.jp/pd_forest/research/284.html/
・ニッポンの特産品デザイナー調査(2015年度) https://library.jpda.or.jp/pd_forest/research/282.html/

ちょうど10年が経過した2018年には、取り組んできたテーマの「アップデート」を目的に、社会課題を探索するワークショップをスタートしました。2019年からは「パッケージデザインの価値はどうなるか」と題した研究会を継続的に開催し、様々な立場の方々と意見交換を図り TOKYO PACK 2021 の場で提案・投げかけをおこないました。

当レポート内に掲載している各種画像は、TOKYO PACK 2021 セミナーの概要資料PDFにも掲載しておりますので、あわせてご覧ください 2021TokyoPack_JPDA_print.pdf
 

2.課題は常に変化する

社会も人も常に変化している。これが調査研究委員会の問題意識の一つでした。インターネットやスマホがあたりまえに使われるように、デジタルをはじめとしたテクノロジーの進展には目を見はるものがあり、これらは既に暮らしを支えるインフラとなっていますね。
エコの概念もサステナビリティ(持続可能性)へと拡大をしてきました。2015年、国連はSDGs(エス・ディー・ジーズ、持続可能な開発目標)を2030年までの目標として採択、「誰一人取り残さない」社会の実現を目指し、17の目標、169のターゲットを掲げています。

SDGsについて詳しくは、国際連合広報センターのサイトに掲載されています。
https://www.jp.undp.org/content/tokyo/ja/home/sustainable-development-goals.html

では、社会を構成する人はどうでしょうか。一人一人を見ていくと、年齢を重ねるごとに自身のライフステージが変化していき、それに伴い価値観や嗜好、生活行動も変化していきます。
社会が変わると人が変わる、人が変わると社会が変わる。人と社会環境は互いに影響を与えながら、スパイラル的に変化・進化しているといえるのではないでしょうか。

人々の暮らしに欠かせないパッケージもパッケージデザインも、同じように双方の影響を受けながら日々変化しています。何がどう変化し、何と何が関係しているか、今をとらえ、未来に思いをはせつつ、2018年度はベーシックなところから課題探索を進めていくこととしました。
 

3.Imagining a Future ~未来に思いをはせる~(2018)

情報を収集し、整理、まとめていく方法にはさまざまあります。委員会では「ファクトの収集・共有」→「ファクトを関連づける」→「そこから変化や課題を探る」→「仮説を立てる」という手順でワークショップを進めました。
ファクト(fact/事実)を集めるのは、「情報アップデート」の目的が大きく、過去の知識や思い込みではなく「今どうなっているのか」を再認識するステップでもありました。

ワークショップを繰り返し精度を高めていく過程では、包装技術の最新動向や、プラスチックをはじめとした包装材料を取り巻く話題についても、専門機関が主催する展示会や研究会・セミナーなどに参加して、積極的に情報収集を行いました。

パッケージデザインに関わる業務に携わっている私たちには、生活者(ユーザー)と事業者(メーカー/デザイナー)と双方の視点があります。また、身近な暮らしに直結した変化もあれば、グローバルな話題(それも暮らしに影響を及ばす)もあります。仮説の一つとして、従来型の(コンベンショナル)パッケージ、デザイン、デザイナーの対極にはどのようなものがイメージされるでしょうか。
 

4.2極化するパッケージ、デザイン、デザイナー

コンベンショナルなものも時代の求めに応じて変化していきます。従来型の変化を突き詰めていく場合と、ドラスティックな変化、「2極化」で想像してみましょう。

■コンベンショナルパッケージ ←→ IoP(Internet of Package)
パッケージの3大機能は、「内容物の保護」「取り扱いの利便性」「情報の提供」とされています。今後もさらにユーザビリティやリサイクル適性は進化していくものの、EC(ネット通販/ネットスーパーなどの電子商取引)の進展で、店頭決済が少数派になっていくと情報の伝え方も変わります。パッケージそのものがインターネットにつながるIoPの出現で、WEBとパッケージが連携した情報デザインにはICT(情報コミュニケーション技術)のスキルが不可欠になっています。

*IoP(Internet of Package):IoTのThingsをPackageと捉え、包装がインターネットを介してあらゆるモノと繋がる技術として欧米の包装業界にて提唱。「東京国際包装展ーTOKYO PACK 2018」(主催:公益社団法人日本包装技術協会)にて日本包装専士会が未来包装研究の中で紹介。

■コンベンショナルデザイン ←→ エモーショナルブランド
地球規模の環境問題や買い物行動の変化を背景に、生活必需品のパッケージは規格化され、また商品情報がWEB中心になるためパッケージは限りなく無地に近いものになります。その一方で、自分好みやプレゼント需要など、感性に訴えるエモーショナルなデザインがブランド化していきます。私だけのオンデマンドデザインのパッケージも選べるようになるでしょう。

■コンベンショナルデザイナー ←→ AIを使いこなすデザイナー
AI(人工知能)の学習能力が進み、ほとんど機械任せでデザインができあがってくると、デザイナーというよりAIオペレータ。他方、AIを使いこなすデザイナーは、クリエイティブな専門性だけでなく、技術・マーケティング・ブランディングなど総合的スキルと社会性を備え、幅広い分野で活躍しています。

果たして、このような未来がやってくるでしょうか?
ワークショップを進めていく中で、「パッケージデザインの価値はどうなるか」を考えていくこととしました。前提として、パッケージデザインは商品と⼀体のもので、プロダクトデザイン(商品開発) であり、 グラフィックデザイン(コミュニケーション)であることはいうまでもありません。

「価値」は、以下のように主体や状況によってもさまざまです。
・誰にとって:⽣活者/事業者/未来の⼈々/社会・・・
・どんな場⾯で:製造/物流/⼩売=購⼊/使⽤中/使⽤後・・・
・どのような価値をもたらすか:無意識のうちに得ている価値・実感する価値/利便性・機能的価値/嗜好性・感性価値/⽣活者個々⼈の価値観とのマッチング・・・

ワークショップで抽出した課題・仮説の例は、テーマ別(買い物、デザイナーの役割、フードロス、リサイクル)に次のページで紹介します。

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