デザインの権利と保護

Vol.134 「形状のみ」の意匠と「形状に模様や色のある」意匠

2024.8.29

今回の「知財くんがゆく」のテーマは、「形状のみの意匠と形状に模様や色のある意匠」についてです。デザイン保護委員会の委員、鈴木正次特許事務所 山本典弘弁理士のコラムです。(編集・文責:デザイン保護委員会)

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(ロゴデザイン:大谷啓浩)

知財くんがゆく 第6回

デザイン保護委員会 山本典弘

店舗に並んでいるパッケージでは、模様や色の無いデザインのものは存在しないと思います。通販系では模様の無いシンプルなパッケージもありますが、素材の色は現れています。今回は、意匠法で、模様や色の無い意匠(形状のみの意匠)を考えたいと思います。

意匠法上の「意匠」

まず、意匠法では「意匠」に該当しなければ保護されません。意匠法上の「意匠」とは、(ここでは、画像と建築物は除いて考えます)「物品の形状、模様若しくは色彩若しくはこれらの結合」(意匠法第2条1項)と規定されています。この文言からは「模様のみ」も「意匠」となり得るように思えます。しかし、理由の考え方は諸説ありますが、“意匠は物品と関連つけられたものであるので、「形状が無い物品」は無いであろう”ということで、「形状」は必須の条件と考えられています。
そうしますと、
・(物品の)形状のみ
・(物品の)形状と模様
・(物品の)形状と色彩
・(物品の)形状と模様と色彩
このいずれかが、意匠法上の「意匠」となります。
パッケージのデザインの手順として、模様や色が先にあり形状を作っていく場合や、「形状のみ」の意匠が先に形状が先にあり模様や色を作っていく場合や、同時に進行する場合があると思いますが、いずれにしても最終的には市場に出た際には、前述のように、形状・模様・色彩の全部が備わったパッケージができます。

「形状のみの意匠」と「同じ形状に模様や色を付けた意匠」

法律上「形状のみの意匠」というものがあるので、では「形状のみの意匠」と「同じ形状に模様や色を付けた意匠」とは類似するのかどうか? ということが昔から問題となっています。
まず、意匠法で、互いに類似する意匠の出願がどう取り扱われるかをみてみます。他の登録条件を無視して単純に考えます。
異なる出願人で、「形状のみの意匠」と「同じ形状に模様や色を付けた意匠」が類似する場合を考えます。異なる出願人による意匠登録出願(以下「出願」とします。)の場合、(原則)先の出願日の出願が登録され、後の出願日の出願は拒絶されることになります(意匠法第9条1項)。まれですが、異なる出願人で同日に出願があった場合には、両者が協議して一方の出願のみが登録されます(意匠法第9条2項4項5項)。
次に、同一の出願人による出願の場合を考えます。異なる出願日で、類似する出願があった場合には、先の出願を本意匠、後の出願を関連意匠とすれば、両方が登録になります(意匠法9条2項、10条1項等)。同一の出願人で同日に類似する出願があった場合には、どちらか一方(任意)の出願を本意匠とし、他方の出願を関連意匠とすれば両方登録になります(意匠法第9条2項4項5項、10条1項等。図6の例)。

なおここでは、意匠の類似の判断手法自体については触れませんので、詳細は、デザイン保護員委員会のサイトで、Vol.118「意匠の類否判断について<意匠の“類似”とは>の原田雅美弁理士の原稿などをご覧下さい。

実際の審査例

実際の審査例をいくつか、見てみます。以下の例は、すべて、同一の出願人で、かつ同日に出願されたものです。したがって、互いに「類似」であれば一方が「本意匠」、他方が「関連意匠」となっているはずです。そうならず、それぞれ独立に登録になっていれば、互いに「非類似」と特許庁は判断したことになります。


この例では、形状のみ「a1(b1)」と模様付き「a2(b2)」は非類似と判断されたことになります。「形状のみ」にも特徴があったが「そんなに大きな特徴ではなかった」か、あるいは、模様に「かなりの特徴があった」という判断だったと考えられます。
なお、デザイン保護委員会では、「なぜ2件の出願をしたのだろうか?」という議論になりました。形状だけのa1(b1)は登録にならないかもしれないと考えて、グラフィック付きのa2(b2)も出願したのでは」「形状中心の模倣対策と、形状+模様からの模倣対策を考えたのでは」など様々意見がでました。

図3、図4では、模様付きのc2(d2)ではポンプもありますので、形状も違いますので妥当な判断かと思います。

図6のでは同じ文字が表れていますが、f1はオレンジ基調の透明ですが、f2は乳白色で非透明です。図5のe2、図7のg2では文字以外の模様も付加されていますので、異なる判断になったとも考えられます。一般に写真の場合には「形状のみ(色彩つきでしょうか)」の意匠と「形状、模様、色彩」の意匠とは、非類似と判断されている場合が多いようです。なお、模様としての文字の取り扱いは、『知財くんがゆく』第2回(vol.128)をご参照ください。

「類似 OR 非類似」

では、a1とa2の意匠は非類似ですので、仮に、他人がa2の意匠を製造販売していた場合、a1の意匠権を持っている者は何もいえないのでしょうか? 意匠権がある場合、他人の実施品(パッケージ)に対して、侵害で訴える場合、意匠権についての登録意匠a1と、相手のa2が「同一又は類似である」という条件が必要となるからです(意匠法23条)。

意匠権を持っている人は、裁判では「a1とa2が類似する」という条件を満たすように様々な証拠を提出し、相手方と「類似 OR 非類似」を争います。特許庁の審査で使われた証拠(従来の公知意匠等)とは異なる証拠で判断を争うこともありますので、判断の基準(意匠法24条)は同じでも「類似 OR 非類似」が異なる判断がされる場合も否定できません。したがって、裁判では「類似する」となるかもしれません。
また、「同一又は類似する」の判断とは別の観点から、「a2がa1を“そっくりのまま”取り入れた」と言える場合には(これを「利用」といいます)、侵害を問えるとの考えもあります(意匠法26条)。a2が、無地のa1の容器に「模様を印刷したフィルムを巻いていた」場合には、これに該当するかもしれません。ただし、a2が無地のa1の容器に「模様を印刷したフィルムを巻いていた」場合には、そもそものa2の中にa1が存在しますので、「同一又は類似」で侵害を問えるとも考えられます。

まとめ

このような「形状のみ」の意匠と「形状に模様と色彩のある」意匠の取り扱いをみますと、「形状に模様と色彩のある」パッケージがデザインされた場合、どのような出願としたらよいか、となります。「形状のみ」とするか、「販売されるそのものにするか」「一部模様を省略して特徴的な部分のみとするか」等の選択ができます。登録しやすいか、将来他人の類似品を排除しやすいか、なども考える必要があります。悩ましい判断になります。
実際には、これに、いわゆる部分意匠とする場合も考慮され、どの範囲を「意匠登録を受けようとする部分(実線部分)」にするか、の判断も加わりますので、さらに難しくなります。
1つのデザインに10件の出願できる場合には万全を期すことはできますが、費用対効果で1件のみの出願とする場合には、正解は無いですので、悩ましいところとなります。
なお、「利用」については、言葉足らずですので、別の号でとりあげたいと思います。
以上

今回のコラムについて、ご意見、ご感想などなどありましたらぜひデザイン保護委員会までお寄せください。
(公社)日本パッケージデザイン協会 事務局
デザイン保護委員会「知財くんがゆく」宛
info@mail.jpda.or.jp

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