リサーチ & 研究報告

調査研究委員会 研究会レポート
「暮らしになじむロハコのパッケージデザイン」(2017年10月)

開催日時:2017年10月25日(水)16:00-20:30
開催場所:東洋インキ株式会社 大会議室(京橋エドグラン29F)

講演:
「ECだからこそ実現できる、暮らしになじむCB商品」
中里裕治氏/アスクル(株) バリュー・クリエーション・センター 部長
「リセッシュ ロハコデザイン」
中井理恵氏・丸山双葉氏/花王(株) パッケージ作成センター
「生姜とハーブのぬくもり麦茶 moogy」
水上寛子氏・寺島愛子氏・遠藤楓氏/キリンビバレッジ(株) マーケティング本部マーケティング部

パネルディスカッション: 「これからのネット通販のパッケージデザイン」
講演の中里氏、中井氏、丸山氏、水上氏、寺島氏、遠藤氏
宮城愛彦/JPDA調査研究委員 (株)インターブランド シニアデザインディレクター
加藤真弘/JPDA調査研究委員 ファシリテーター

司会:桑和美/加藤憲司
参加者数: 116名(会員 97名〔法人会員65、個人会員32〕、一般 17名、学生 2名)

【Part1 講演】16:00-17:45
企業のデザイン部門の方、デザイナー、一般・学生の方など予想以上に多くの方に参加いただき、今回のテーマが注目されているものであることを実感しました。司会の桑和美理事からの趣旨説明で研究会がスタート。JPDA加藤芳夫理事長のあいさつに続き、Part1の講演会へ。

最初に登壇するのは、アスクル・中里裕治氏。

BtoBでスタートしたアスクルの事業は、その後BtoCのロハコへと展開、当初のEC(電子商取引)は、嗜好品が中心で使用する機器もPCがメインだったのが、第2世代ECは、日常使いの商品をスマホで注文するようになってきている、と中里氏は語ります。ロハコのユーザの多くは女性、大都市圏が多く、女性の7割が就労しているといいます。ECサイトは流通業であると同時にメディアでもあり、サイト内でウェブマガジン「Style LOHACO」を掲載し、ライフスタイル提案もおこなっています。
2014年には、アスクル社内に研究拠点「LOHACO EC マーケティングラボ」(以下、「ラボ」)を立ち上げ、現在は127社とビッグデータを活用した新たなECマーケティングの研究と実践に取り組んでいます。2017年は48社と「暮らしになじむデザイン」のコラボレーションを進めているとのこと。このコンセプトは、ECならではの商品の可能性を探っていく中で、店頭を意識せざるをえない通常の商品に対し、生活者起点のCB(コンシューマブランド)=生活者と一緒に創るオリジナル商品づくりへと発展。その具体的な商品事例の数々が中里氏より示されました。ユーザがレビューに書くコメントを分析し、ラボ参加企業と共有、「忙しい女性の暮らしをより豊かに」「ストーリー性のある商品」「便利な機能」をキーワードに新たなCB商品づくりのコラボに取り組んでいます。2017年10月に発表されたCB商品は、61商品を数えます。最後に「ECをブルーオーシャンへ」という言葉で、中里氏の講演が締めくくられました。

続いて登壇したのは、花王の中井理恵氏と丸山双葉氏。「リセッシュ」で始まったロハコとの3年間の取り組みが時間を追って語られました。花王では、コンセプトの「暮らしになじむ」を「心地よいデザイン」ととらえ、オリジナルパッケージデザインの開発を進めました。ECの場合は商品特徴や機能はWEB上で伝えることが出来るのでパッケージは家で使う時の心地よいデザインを目指したとのこと。2015年のナチュラルストーンデザインボトルは、「インテリアとしての心地よさ」を追求、当時のナチュラル志向も反映して「自然と暮らす」をテーマにしています。常に意識していたのは、家で置かれる時にどのように見えるか、感じられるか。暮らしにそっと溶け込むような「天然石」も質感やモチーフにこだわり、手描きによるもの。外装にはマットシュリンクを採用。サイトでのイメージコミュニケーションもナチュラル感で一貫したものとなりました。
2017年に登場した「リセッシュリラックスリネンデザイン」では、「お気に入りのファブリックの側に置いておきたいデザイン」をテーマに、工芸品のようなしつらえに。狙いは、「商品ストーリーを感じる心地よさ」。布生地選びからこだわり、さらにたわみを持たせ写真を撮ったうえでグラフィック化し、人のぬくもりを感じる、すりガラスのような透明感、といった表現を目指しました。そして、2018年は「様々な生活空間での心地よさ」をテーマに、商品もトイレ洗浄スプレー、キッチン用ハンドソープなどに拡大、それぞれの場に適した「心地よさ」を提供するデザインが紹介されました。

講演の最後は、キリンビバレッジの水上寛子氏、寺島愛子氏、遠藤楓氏、「moogy」開発チームの皆さんです。キリンビバレッジでは、ロハコとのコラボにあたり「自分たちがターゲット、私たちがほしいものをつくろう」と、中味の開発から始めます。「いいわたし、いい暮らし」をテーマに、中味開発で大事にしたことは、女性、健康、毎日、の三つ。そこからの開発コンセプトは「冷えが気になる女性の味方!ぬくもり4素材でつくる、常温でもおいしい健康麦茶」。中味が完成、さて、パッケージは? スーパーやコンビニの棚に並ぶパッケージは、「2秒戦争」といわれるほど厳しい競争にさらされていて、目立つ、わかりやすい、おいしそう、安心(中身を見せる)といったものが求められるので、うるさいぐらいおしゃべりなものになりがち。本当に鞄に入れたり、デスクに置いておきたいものか? チームでブレストを重ねてのアイデア出し。EC(ロハコ)のみでの販売だったため、味や素材の説明はサイトに任せることで、おしゃべりなパッケージから脱却し、まるでお気に入りの雑貨のようにいつでもそばに置いておきたくなるものを目指しました。
毎日のコーディネートや、その日の気分で選べるように、テキスタイルのようなデザインで16種類の柄に。柄にはそれぞれ名前がついており、季節ごとのイメージを手描きで表現。大量生産の商品であっても、愛着を持ってもらえるような細かな工夫をパッケージに込めています。また、SNSを積極的に活用、チームのメンバーで様々に働きかけ、ユーザと交流できるリアルイベントを開催し、「moogy」を盛り上げているといいます。

【Part2 パネルディスカッション】 18:00-19:30
ディスカッションのテーマは「これからのネット通販のパッケージデザイン」。前半に登壇した6氏に加え、JPDA調査研究委員会の2名が加わります。討議のファシリテーターを務める加藤真弘委員と、インターブランドに勤務する宮城愛彦委員が、それぞれ自己紹介を兼ねてパッケージデザインに対する考えを披露、ディスカッションの話題を提供します。

加藤委員のプレゼン要旨:北欧パッケージマニアとして感じる北欧のパッケージデザイン(日用品、飲食料品)の特徴として、シンプル(文字や色を多用しない)、有機的(モチーフは花や草木、手描き)が挙げられ、生活での使用時に重点が置かれている。この特徴は、暗く長い冬を家の中で過ごす北欧の環境や、マーケティングでメジャーな北米学派(交換価値・短期取引)とマイナーな北欧学派(利用価値・長期取引)との思考の違いにも影響を受けていると思われる。世界の幸福度ランキング(2017年)では、ベストテンに北欧5カ国が並ぶのに対し、日本は51位となっている。使用時重視の北欧のパッケージデザインには日本人が日常を幸せに過ごすためのヒントが隠されているのではないだろうか?

宮城委員のプレゼン要旨:勤務するインターブランドは、1974年にロンドンで設立された、世界最大のブランディング専門会社。同社ではブランドは成長しているととらえており、第1世代「アイデンティティの時代」、第2世代「価値の時代」、第3世代「体験の時代」を経て、現在は第4世代「あなたひとりの時代」と定義している。現代のブランドは1Wayのメッセージではなく、共に創り・共感するもので、生活者の真のパートナー。パッケージもそのツールのひとつ。事例として紹介するのはドラッグストア店頭に山のように積まれたトイレットペーパーのパック。多くは買ったら隠したくなるパッケージ(トイレットペーバーのパックを持ち歩く姿を見られたくない)。あるドラッグチェーンのPBでは、「トイレットペーパーを楽しくする」というコンセプトで、パック外装に意匠(食材の入った紙袋風=提げる、赤ちゃん=抱く、ラジカセ風=かつぐ・・・)を施し、持ち方と合わせて絵になるものとした。店頭に大量陳列するので、同時にチェーンの顔にもなっている。

ここからは、加藤委員の進行でディスカッション。(以下敬称略。発言はポイントのみ抽出。
所属を色分け:緑=ロハコ青=花王赤=キリンビバレッジ、黒=調査研究委員会)

1)ロハコの魅力とは
加藤:メーカーやデザイナーにとってのロハコの魅力とは? まずは第三者の立場で宮城さんから。
宮城:今日の話を聞いて、「買い物って楽しい」ということを思い出させてくれた。皆さん、やりきっているなという印象。作り手の思いがにじみ出ている。そこまでやる気にさせるロハコの魅力を聞きたい。
水上:メーカーと一緒に商品をつくっていく姿勢がロハコには強い。生活者目線でふだんはなかなかできなかったこと、他にはできないことができる。
中里:自分たち流通業はモノを作れない。メーカーの力を最大限発揮してもらい、魅力的な商品を作っていただくことが重要。購買データなどもメーカーと共有して、暮らしの中で生活を豊かに、便利にする商品をメーカーに作っていただく。
丸山:デザイナーになった理由でもある、モノを作りたい、表現したい、こうなったらいいんじゃないかという純粋な気持ちで取り組んだ。普段の仕事も全力で取り組んでいるが。
加藤:デザイナーの笑顔がロハコのサイトを見ていても感じ取れる。
遠藤:他のサイトでは制約も多く、メーカーの思いがなかなか紹介できない。ロハコのサイトには提案や発見もある。
中里:メーカーが作った商品デザインにロハコがダメ出しをすることはない。考え方についてのディスカッションはするが、デザインは既にクオリティが高いので、何もいう必要がない。
中井:ロハコの方たちが大勢いる前でデザインを見せる。デザインに対してわくわくした気持ちで聴いてもらえる。

2)ロハコと店頭商品のパッケージデザインの違い
加藤:パッケージデザインの違いを掘り下げて聞きたい。花王のリセッシュは、同じ商品でパッケージデザインを変えている。他と比較しやすいのでまず聞きたい。
丸山:商品、ブランドはパッケージデザインだけでなく多くの要素で成り立っている。ECと店頭ではデザインをする時の目的が違う。力いっぱいデザインしているという行為はロハコも通常も変わらない。
加藤:パッケージに表示する情報量の違い、制約条件の違いもあるとのこと。キリンビバレッジは?
遠藤:確かに目的が違う。コンビニは棚の争い。フェイスを守る=ブランドを守らないといけない。売るためのデザインと一緒に生活したくなるデザインとは違う。
中里:アスクルの理念「お客様のために進化する」をいつも意識している。BtoBの事例だが、「消臭」とパッケージに大きく記載された消臭剤が高級レストランのトイレにあったらどうか? あるレストランではシュリンクをはがして置いてあった。なので、それにふさわしいデザインの消臭剤をアスクルのオリジナル商品として作った。B2Cのロハコでも日用品のデザインにこだわる方がいる。デザインで解決できる例は多い。
宮城:不特定多数に向けてデザインするのと、すぐ側にいる人(明確なターゲット)に向けてやるのとでは感覚が違う。
加藤:大量生産だがクラフト感を出すという考え方はあるか? デザインで温かみを出すというような。
丸山:ロハコに限らず、“温かみあるクラフト感”は最近のトレンドの1つではあると思う。
水上:加藤さんから北欧デザインの話があったが、moogyでは北欧っぽさを意識したわけではない。暮らしになじむという視点で結果的にそう見られることがある。
加藤:マット素材は、ネット通販のパッケージデザインと親和性が高いか? クラフト感をマット素材で出すなど。
水上:マットは手なじみがいいので採用した。飲料パッケージでは特に新しい試みではない。
中井:天然石の質感にこだわったからマットになった。デザイン次第で、マットにこだわらなくていい。

3)消費者が欲しいデザインとは
加藤:最近のデザインのトレンドなどで感じることはあるか?
中里:お客様が欲しいデザインという点だけでパッケージデザインを考えていない。お困りごとを解決する視点が重要。例えば、電池のパッケージ、単3と単4の違いを数字で大きく分かりやすく表示した。ブランドや品質の安心感を求めるお客様もいれば、分かりやすさを優先するお客様もいる。トレンドは意識していないし、デザインが好き、嫌いという観点だけではない。
寺島:お客様が欲しいデザインは、価値観や年齢層によっても異なると思うし、そのモノを使用する環境も影響するのではないか。なので、消費者が欲しいデザインを一概にひとつに決めることはできない。また、食品には中味の情報のわかりやすさも重要で、普段はデザイン性とセットで考えている。
宮城:売る、買うということだけでなく、買った人が商品とどう接しているかがブランドの体験。そこをロハコ商品は課題解決してくれていると実感した。
加藤:使う時よりも買う時を重視したデザインが多い。パッケージを作る人、店頭に並べる人、こういう人たちもハッピーにしてくれるようなデザインが通販で実現している

会場の加藤芳夫理事長よりコメント:ロハコのモノづくりには共感できる。ロハコ専用品という目的の中でこの表現ができている。店頭商品もいろいろある。自身も「持っていて楽しい」「他の人に見られてうれしい」といった視点でデザインをしてきた。ここ10年ぐらい、店頭での「2秒」、説明の力が要求されている。店頭がPBばかりになってしまったら、他を求める人がいる。ロハコが大きくなって違う流通が多くなると、また変わってくるであろう。いい悪いではなく。
自身が関わったペントアワードの作品集を見ると楽しくなる。学ぶことも多い。日本にはロハコ以外にも楽しいデザイン、問題解決しているデザインは多々ある。北欧は、国の規模や企業競争、気候、生活スタイルなど日本と単純に比較できない。日本ならではの感性というのもある。これが一番だと決めつけない方がいいのでは。

4)今後の展望
宮城:生き生きとモノづくりをして、それをうれしく使っている人がいる。パッケージが人の手に触れる瞬間に思いを込めることを忘れてはいけないと感じた。
丸山:ネットの力、口コミの力は大きく、ブランドという考え方が崩れてきている。ネットも売り場も変わっていく。その変化にデザインもついていかねばならない。
中井:企業が自社の垣根を超えた活動(イベントなど)をしている。パッケージデザインだけでなく、人を驚かすことができればいい。
中里:「暮らしになじむデザイン」の商品が全てではない。ロハコにおいては「暮らしになじむデザイン」は取り扱い商品の一部に過ぎない。今後は個人の感性が重要になっていく。商品は売り場とセット。スーパーやコンビニの店頭では、すぐ手に取れる商品パッケージが求められている。店頭やECの次に新たな「売り場」が出来たならば、その「売り場」に合った新たな商品パッケージを考えないといけない。暮らしになじむデザインを、ひとつの価値観としてロハコが提案すると、それを望む人たちが一定数いることがビッグデータで見えてきた。時代の流れにのっとって、商品もパッケージも変化していくであろう。
水上:デザインとしてのこの新しい試みは、ロハコの世界観、ECだから、で成り立っている。ロハコのエッセンスを他にも大事にしていくとデザインが面白くなりそう。
遠藤:入社してから、パッケージが担う役割が大きいことを実感した。競争に勝つために伝えることが多い。店頭はいわばカッコいい戦場。生活者は家で過ごす時間が長くなって、生活意識も変化してデザインに対する嗜好も変わっていきそう。
寺島:昔の日本や、海外市場には、例えばロゴだけのシンプルなパッケージだったり、商品を抽象的に表現していて、思わずなんだろう?と興味を引くパッケージも多い。今の日本はパッケージに何でも詰め込んでおしゃべりになっている分、情報として買うときの手助けにはなっているかもしれないが、純粋にパッケージからワクワクしたり、そこから感じる魅力は減っている気がする。もう少し隙があるデザインが増えても良いのではないかと思う。
加藤:ロハコ・オリジナル商品のデザインが兆しとして出てきて、今後店頭商品も含めてこのトレンドが大きくなっていくのではないか。店頭重視か生活重視かバランスの問題。これまでのパッケージデザインがずっと通用するとは限らない。誰も考えつかなかった価値観が広がっていくかもしれない。「暮らしになじむデザイン」が大きな転換点となるのではないか。

時間の関係でパネルディスカッションはここまで。各パネリストそれぞれの立場からのコメントに加え、会場から加藤理事長の一言もあり、率直なディスカッションが交わされ、あっという間の90分でした。Part3は、会場を移しての交流会。軽食と飲み物での交流会ではパネラーと参加者と、あるいは参加者同士でなごやかな雰囲気の中、活発に意見交換がされました。
参加者に書いていただいたアンケート(有効回答81件)では、「有意義だった」「やや有意義だった」を合わせて、全体の9割を超えていて、タイムリーなテーマだったと思われます。フリーアンサーでは、「今後のデザインに対する意識が変わった」「メーカーやデザイナーの本音が聞けた」「1人1人の意見が深くて、長い時間だからこそできたセミナーだと思う」「いつも以上に現場の声が聞けた」といった意見をいただきました。調査研究委員会では、今後も時代に求められるテーマで研究会を実施していきます。最後になりましたが、ご登壇いただいた講師の皆様、今回の会場をご提供いただいた東洋インキ様、並びに関係各位に御礼申し上げます。(報告:中越 出)

担当委員会:調査研究委員会
担当理事:桑 和美/加藤憲司
担当委員:足立美津子/巨椋栄蔵/加藤真弘/黒瀬克也/佐野良太/高田知之/中越 出/西島幸子/福本佐登美/藤森 宏/丸本彰一/宮城愛彦

調査研究委員会 研究会レポート

ページの先頭へ