調査研究委員会 研究会レポート
「パッケージデザインの価値はどうなるか」〔第1回研究会〕(2019年3月)
開催日時:2019年3月19日(火)16:00~20:00
開催場所:レンゴー株式会社東京本社大会議室(東京都港区港南1-2-70 品川シーズンテラス17F)
第一部 基調講演:「2030年包装の未来予測 概要」
島田道雄氏(日本包装専士会副会長・未来包装研究委員会委員長、技術士[経営工学部門])
第二部 ディスカッション:「包装の未来とパッケージデザインの価値」
日本包装専士会より: 島田道雄氏・島田賢一氏・橋本香奈氏・北島誠之氏
JPDA調査研究委員会より: 桑 和美・高田知之・福本佐登美・鈴木樹子・巨椋栄蔵・中越 出(進行)
*開催案内に、専士会メンバーの所属を記載しています >>> 第1回研究会案内PDF
総合司会:高田知之、交流会司会:桑 和美
参加者数: 40名(会員27名、一般11名、学生2名)
【第一部 基調講演】16:00-17:00
第一部は未来包装研究委員会の島田道雄委員長による基調講演。同委員会は2016年より「包装を通してあるべき未来を提案する」を目的に、社会的課題と新技術の情報を評価・検討。その結果を昨年の東京国際包装展でテーマ別に4回に分けて発表、そのエッセンスを1時間に凝縮してお話しいただきました。
講演では、SDGsに代表される国連の「我々が望む未来」に沿って考えられた「望ましい包装の未来」が4分野で整理され、その具体的内容が語られました。背景には、グローバルとデジタル社会という共通課題があり、IoP/Internet of Packagingの概念(パッケージは情報機能によりインターネットに繋がり、自ら情報を処理し、伝える媒体としての機能をもつようになる)も示されました。
1)生活者の視点から見た包装の未来:「未来を決めるのは生活者」で、10年後も「~し易い」「~に優しい」「環境への配慮」がパッケージの本質的なキーワード。
2)食品ロスの視点から見た包装の未来:IoPにより「正確な需要予測」「効率的な生産計画」「各工程での品質管理」が進み、食品ロスの大幅削減につながると予測されます。
3)循環型社会の視点から見た包装の未来:世界の潮流は「資源の有効活用とごみゼロ」で、プラスチックのリデュース・リサイクルもさらに進み、対応した素材の実用化も期待されています。
4)包装技術全般としての包装の未来:素材、機能性包材、コンバーティング技術それぞれに細かく予測がなされ、オンデマンド印刷による容器包装の内製化が進行するという例も示されました。
情報量の多さにも圧倒されましたが、「この数字はなんでしょうか?」といったクイズもあり、世界的な社会の動きとパッケージの未来がわかりやすく紹介されました。(>>> 講演概略PDF)
第一部終了後の休憩時間には、参加者の方々に研究会ポスター記載のどのフレーズが気になったかのシールを、また「2030年その時のわたし」からの近況報告を付箋に書いて、楽観的/現実的/悲観的のそれぞれのシートに貼ってもらいました。気になるフレーズでは、「2030年の未来…今までのパッケージデザイナーはいなくなる?」「循環型社会とプラスチックリサイクル 世界の潮流は『資源有効活用とゴミゼロ』」に特に票が集まり、参加者の関心をうかがい知ることができました。
【第二部 ディスカッション】17:20-19:00
ディスカッションに先立ち、調査研究委員会より、2018年度に進めてきたワークショップの内容と課題・仮説などを報告、意見交換の話題(リサイクルとサステナビリティ/買い物という行動)を提供しました。(>>> 報告概略PDF)
ここからは、調査研究委員会・中越の進行でディスカッション、自己紹介に続いて個々の話題で意見交換。
*以下敬称略。発言はポイントのみ抽出、文体はである調に統一しました。
*所属を色分け:赤=日本包装専士会、島田M;島田道雄氏、島田K;島田賢一氏、青=調査研究委員会
1)サステナビリティとリサイクル
中越:パッケージのリサイクルは、生活者の使用後(ポストコンシューマ)の排出次第という面があり、委員会でも分別自動化ができないかなどの話もでた。この辺りでご意見は?
島田M:日本の分別は日本人ならではかもしれない。中身を消費したら容器は不要であり無くなるのが理想。使用後食べられる可食包装も広い意味での循環型社会に貢献すると言え、海外の展示会ではその提案をしているメーカーもある。
鈴木:アメリカでは日本ほどの分別はないと聞く。日本でも外国人が多い自治体では、多くの国の言葉で分別方法が書かれている。このまま維持できるか不安、生活者が分別するか、回収後に業者が選別するか手間とコストの関係でも気になる。
中越:リサイクルを促進する方法として、箱のたたみ方をわかりやすく表示している例もある。デザイナーの立場ではどうか?
福本:材料・形状に影響するので一概には言えないが、単一素材にすると表示しやすいし、ビンやボトルもリサイクル工程が単純化されて理想的かと。
桑:どうリサイクル配慮するかグラフィックデザインで問われることは多くないが、サポートする仕事は今後出てくるかもしれない。エシカルも気になる。生活者としてはモノを買って運び片付けるのは苦痛。
中越:3Rはリデュース、リユース、リサイクル。PETボトルのリユースは、洗浄や衛生面、耐久性などで課題が多いと聞く。日本は詰替え容器でリデュース(プラスチック使用量の削減)に力を入れてきた。リサイクルは出たものをどう利用するか、循環させるかという視点だが。
巨椋:子育て世代なので、家から排出するものが多い。発泡スチロールを砕いて減容化するのは我が家では父親の仕事。買ってしまうと出てしまう。小分けよりも大容量のものを買うようにしている。
高田:詰替えパウチはリデュースに貢献している。シェアリングエコノミーの考え方では、共同で購入し中身だけをわかるという方法もあり、参考になる。
北島:素材メーカーの立場では、使用量を減らすためにフィルムを薄くすると剛性が弱くなる。それをカバーする工夫も必要で、原料使用量を減らしても全体のコストはさほど下がらないこともある。環境負荷が小さいことを価値として認めてもらう必要がある。リサイクル適正を考えモノマテリアル化が考えられているがどのように回収するかその仕組みも合わせて考える必要がある。また、モノマテリアル化したとしても性能を維持するための工夫も必要。
島田K:(北島さん説明の通り薄肉軽量化を中心とする)リデュースはやることはやった感があり限界に近い。リデュース・リサイクルは包装業界として心掛けているが、リユースに対しては今一歩。マイボトルの使用などどう考えていくか、デザインの人たちにも考えてほしい。
橋本:海外の「LOOP」(詰替え容器での宅配定期購買サービス)では、対象商品が300アイテムにのぼり、詰替え容器はステンレス鋼、アルミニウム、ガラス、および加工プラスチック(耐熱性や強度の高いプラスチック類)で100回以上のリユースに耐えないといけないと聞く。デザインの腕の見せ所、デザイナーの出番ではないか。
会場参加者から:落語の「らくだ」に屑屋の話が出てくる。家の中のモノを買っていってくれる。価値高いものにはいい値がつく。お金に替わると面倒くさい部分を引き受けてくれるのではないか。
2)買い物という行動
中越:パッケージは買い物という行動と切り離せない。買い物には、必要なものの調達という効率性と自分の価値観にあったものを手に入れる楽しみとの両面がある(ECでもリアル店舗のどちらでも)。委員会でもいろいろな案・意見が出たが、パッケージデザインやコミュニケーションでできることはあるか?
福本:AIやロボット技術の進化によりこの先状況は急速に変化してくる。例えばリアルの店舗はなくなり、コンビニが自動運転で家までくるようになると、パッケージデザインはどうあるべきかの議論もより重要になってくる。IoPにより、自分の欲しいものが店内で光って場所を知らせる、棚から手に取ると顔認証によりその人の母国語で説明されるなども既に夢の話ではない。
桑:いつも買うものはEコマースで配達してくれるとしても、買い物に行かなくなると人は動かなくなる。高齢化が進む時代に、動く=出かけるモチベーションになるようなウェルネスにつながるしくみが必要なのでは。実際に触って試せるなど実店舗ならではの体感が重要視される。
巨椋:現在九州に勤務、福岡空港近くにセルフレジの店がある。店を出るときには会計が終わっている。棚の上にカメラがありデータを取得、監視されている感もあるが、体験としての店づくりが変わるかもしれない。
島田M:アメリカのウォルマート、アマゾンゴー、小売りの現場を視察した。 Eコマースの包装容器も減るかもしれない。リアル店舗では、Eコマースに頼らずに生き残るライフスタイルショップ、セレクトショップといった店の取組みもある。独特の品ぞろえで「あなただけ」といったワクワク感があるとともにイベント感を店で感じられる。健康は大事で、これからのショッピングのキーワードには欠かせない。ドラッグストアの例では、アメリカのドラッグストアは調剤薬局が一緒で、薬剤師が健康の相談に乗る、またスーパーマーケット並みの品ぞろえ、販売だけでなくカウンターではビールも飲める、ワンストップの機能がある。
中越:買わずに持たない、借りるのも昔は「お醤油切らしたからちょっと貸して」というのもあった。ECは重いものを自宅まで運んでもらえる。重いものを持ち帰らずに済む分、余分に買ってしまって食品ロスの一因になってしまうかもしれない。
福本:“LOOP”のような容器リユースは、容器の標準化も大事になっていくのではないか。普段使いとしてECで調達する商品のデザインと特別感のあるエモーショナルな商品のデザインとは大きく分かれていきそうだ。ECでは簡素化されたパッケージによって無駄を排除する一方、エモーショナル方向では、パッケージデザインは元々何のためなのかを考えさせられる。
中越:パッケージを楽しいものにする、暮らしを彩るということ?
福本:ものによって違ってくる。たとえECが大きな割合を占めたとしても、ギフト需要など “もらって嬉しい” などの感情に訴える部分は大事にすべき。
中越:ECでも、ロハコのようにデザインに特徴的なものもある。開発側ではなく生活者自身としては?
北島:クルマで通勤しているが、会社帰りに買い物というのはない。買い物は店でものを確認してネットで買うことも多い。届けられるものにデザインを求めていない、必要最小限の情報でいいパッケージとそうでないものとに分かれていくであろう。
橋本:自身は食品を勉強して家庭科の教員免許も取ったが、実は不健康な生活を送っている気がする。買い物はいかに短時間で済ませるかを考える、パッケージの使い勝手は自分では気にしていない。働く女性にもいろいろなタイプがあることを知ってほしい。
島田K:自分でも料理をするが、妻にいろいろ聞いてみた。パッケージ:使い終わったら捨てるだけ、コストでしょ、その分もっと安くしてよ。ヘコ缶:許せない。使い勝手、開けやすさ:この辺は譲れない…いろいろ聞くと共通の取り組むべきキーワードが出てくる。
島田M:最近買ったものはメガネ、鼻当ての跡がつくのが嫌で、鼻当てのないツルで止めるメガネを買った。アドバイスをしてくれる、先々メンテナンスをしてくれるという(対面の)買い物は楽しい。コンセルジュの機能があると良い。食品でも可能性があるのでは。
高田:委員会のワークショップで「会話できるパッケージ」という案を出した。今後高齢者ばかりになると話をしたくなる欲求が出てくる。町に出て買い物ができればいい。コミュニケーションができる場づくり、世の中全体のデザイン、パッケージだけでなく快適な暮らしを考えていきたい。
中越:講演や報告で、「パッケージはいろいろなものとつながり機能が拡張する」「パッケージデザイナーの役割も拡張する」という話があった。パッケージの表面をデザインするだけでなく、ウェブを含めコミュニケーション全体をデザインするようになる、との話もワークショップで出た。乗り物でもななつぼしのように移動だけではなく、それ自体が目的になっている例もあり、買い物も同じように二極化が進んでいくのではないか、というのが委員会での仮説。
さて、今後に向けてどのような課題が出てきたかと感じるか?
北島:光るパッケージという先ほどの話、光らせる素材は開発されてきている。どんなタイミングで光るかどう使うかといったアイデアが必要。
福本:技術開発と同時に、なぜそれが必要か、どう活用するか、そこにデザイナーは柔軟な発想で寄与できる。技術×デザインはさらに重要になっていく。
会場参加者から:ロボット開発に携わっている。物流では労働力が問題、特にECでのピッキングなどロボットによる自動化も進んでいる。数十万点の商品から適切にピッキングするには、吸引力で持ち上げる際に平らな面が必要、カメラでの画像認識のしやすさもあり、パッケージの形状・素材・グラフィックが問われる。ロボットのハンドリングに適した設計・デザインをお願いしたい。
中越:リサイクル適性や使い勝手の良さと同じように、自動化適正もパッケージデザインの設計要素になっていることを実感する。最後に登壇の皆さんから一言ずつ。
島田M:IoPでひとつひとつが情報をもつようになると、ICタグをどの段階でつけるか、経産省はメーカー(ブランドオーナー)というが、資材メーカーでつけるのが(トレーサビリティの面でも)一番いいのでは? 先程の会場参加者からのロボットハンドリング設計もそうだが、技術だけでなく(サプライチェーン含め)トータルで考える人がいない、又、分野を超えて連携した取組の機会が少ないのが問題。技術はそれぞれにあり、それをどう社会に展開していくかの知恵が必要である。
島田K:パッケージデザイナーの役割が広がる、まさにそう思う。最後はゴミになるパッケージ、でもそのパッケージは正しく再資源化されるもの。技術もデザインもいろいろやりようがある。包装業界での大きな動きは、プラにどう向き合うか。国として使用量削減25%を目指している。再生原料(リサイクル原料・非石油資源原料)の使用促進はさらに進む。これを選ぶとサステナビリティにつながると伝わるように、デザインや表示により再生原料を使っているパッケージであることをわかりやすく示したい。今回はいい機会を得た。
橋本:包装技術協会発行の『包装技術』の編集委員をやってきて、資源循環特集も予定している。再生材料であることが一目で識別できる、アメリカにはリサイクルラベルがある。リサイクルできることがわかる、デザインでどう工夫するか、デザイナーの研究課題としていただきたい。
北島:技術とデザインの対話は有意義。光、香りなどこんなこともできるという技術は開発されると考えられるが、出口(用途)が見つからないものも。デザイナーとディスカッションできれば、見つかるかもしれない。
桑:普段メーカーと仕事をしている自分の経験だけではなく、パッケージデザインの価値はどうなるかを考える上で、専士会の2年の研究は参考になった。未来を考える望遠鏡をもらった。気が付いていない変化、それを乗り切るための準備が必要、備えよ常に、be prepared。
福本:自宅(東京都区内)に「エシカル消費をしよう」との回覧版が回ってきた。エシカルが一般に浸透してきている。環境に配慮している事がいいデザインの基準のひとつになる、価値が変わっていく。その価値はなんだろうかともっと突き詰めて議論をしていきたい。
高田:時間の制約もあり話し足りない感がある。なぜ未来を考えるのか、サステナブルにしないといけないのか、デザイン=生活者視点×出口の見つからない技術、こういう組み合わせで今後も、2回3回と続けていきたい。
巨椋:自分はパッケージデザインが大好き。九州勤務になったこともあり、デザイナーである自分の役割も変化した。パッケージそのものだけでなく、クライアントの販促、商品企画にまで関わるようになった。世界がどうなっていくか、交流を持ち続けたい。
鈴木:ここ数年大きな変化が起きている。会場には消化不良な方もいらっしゃるかもしれないが、同じステージで議論ができる共通の出発点に立てたと思う。こういう議論をさらに深めていきたい。
中越:デザイン×技術のクロッシング、それぞれに課題が提示された。2回3回と続けたい。引き続きの交流会でも対話をしていただきたい。
時間の関係もあり、ディスカッションはここまで。第一部の基調講演に始まり、ディスカッションまで非常に濃密な研究会となりました。
会場を移しての交流会は、JPDA・伊藤理事長の挨拶でスタート、軽食と飲み物での和やかな雰囲気の中、登壇者に対し個々に質問がなされたり、参加者同士でも意見交換を行うなど盛況のうちに幕を閉じました。
参加者アンケート(回収数30)では、「今回の研究会を意義あるものと感じた」という意見が多くを占め、「社会とデザインがかかえる問題を皆で共有できた」「立場の異なる人が一堂に集まる場は貴重だと思う」「このテーマを続けてほしい」などの自由回答をいただきました。一方、「時間が短すぎる」との指摘もあり、今後の第2回、第3回にむけて、話題の絞り込み、事前資料共有の方法なども検討していきます。
ご登壇いただいた講師の皆様、今回の会場をご提供いただいたレンゴー様、並びに関係各位に御礼申し上げます。 (報告:中越 出)
担当委員会:調査研究委員会
担当理事:桑 和美/高田知之/中越 出
担当委員:足立美津子/巨椋栄蔵/加藤真弘/黒瀬克也/佐野良太/鈴木樹子/西島幸子/福本佐登美/丸本彰一/三原美奈子