調査研究委員会 研究会レポート
「特産品のパッケージデザインの作り方」〜全国60社の特産品事業者調査から見えてきたこと〜(2014年3月)
開催日時:2014年3月5日(水)18:00〜20:30
開催場所:レンゴー株式会社東京本社 15階大会議室
パネリスト:榊 博史氏(有限会社榊経営研究所 代表)
金澤和彦氏(デザインコーディネーター)
小川 亮氏(株式会社アイ・コーポレーション[2014年7月より株式会社プラグ]代表取締役)
※小川氏は事業者調査報告を兼ねる
総合司会:加藤憲司 / パネルディスカッション司会進行:桑 和美
参加者:57名(会員48、一般7、学生2)
【Part1 事業者調査報告】
生憎の春の嵐の中、鹿児島や名古屋など遠方からも多くの参加を頂き、会場は満席で期待の熱気溢れるなか始まりました。まずは中越理事から協会ホームページのコンテンツ「パッケージデザイン【情報の森】」についての紹介を少し。「ニッポンのパッケージデザイン」の事例が今後増えていくことを予告し、次の調査報告へと繋ぎました。
調査研究委員会が昨年9月に実施した「全国特産品事業者調査」の結果報告は委員の小川氏から。地域産業活性化におけるパッケージデザインの役割を知るために、この調査は行われました。調査方法は特産品開発に取り組む事業者479社へアンケートを郵送する形で実施し、返信頂いた61社分をまとめました。調査目的は、特産品開発において事業者がパッケージデザインをどのように開発しているか現状を把握することです。回答事業者の属性は加工食品の製造者が7割弱、従業員数は20人未満が7割強、売上1億円以内の中小企業が半数を占めました。
商品開発において重視していることでは「商品コンセプトの開発」、「味」に次いで「パッケージデザインの開発」は3位で60%強と高比率。そしてデザインは社外デザイナーへ依頼が45%、印刷会社や包材メーカーに依頼が33%と続く。1商品あたりのデザイン料は1万円未満が12%、1〜5万円未満が45%、5〜10万円未満が15%、10万円未満が全体の7割強。またそのデザイン料も「印刷料に込みで払っている」が55%、「デザイン料として払っている」は30%。パッケージ開発においての一番の悩みは「気に入ったデザインが出来ない」55%、「費用がない」46%、「消費者の好みが分らない」40%と続く。デザイン担当者に今後手伝ってほしいこととしては、「新しいデザイン」57%と筆頭、次に「ネーミング開発」50%、「キャッチコピーの開発」43%と続き、意匠としてのデザインだけでなく、パッケージに表現されることをトータルでサポートすることが求められていることが分りました。
パッケージデザインの重要性は理解されているものの、思ったようには出来ない様々な悩みがあることが、今回の調査では浮き彫りになりました。
報告中、会場のあちこちからは「リアル」、「生々しい」、「分かる」といった声が漏れていました。
【Part2 パネルディスカッション】
まずはパネラーの自己紹介から。(以下、登壇順)
◎金澤和彦氏……茨城県出身。大学卒業後(株)ポーラにて化粧品のパッケージデザインを行う。その後、独立し自然の中で住みたいと北海道へ移住。十勝平野の美しい林の中に住まい、当初は特産品のパッケージデザインを自ら手がけながら、現在はデザインコーディネーターとして地元の商品開発に携わる。地域の活性化のためのイベント企画や環境保全活動にも積極的に関わる。また、とかち帯広デザイン振興協議会会長を担い、帯広・旭川・函館(現在は札幌も)の三都市交流会を行い、「田舎にもデザイナーは居る」と情報発信し、地元クリエーターとクライアントを繋いでいる。氏曰く「地域へ首を突っ込まないと、地域のことは考えられない」。
◎榊 博史氏……経営コンサルタント/中小企業診断士。大学卒業後阪急百貨店へ就職。その後バブル絶頂期に独立。独立2年後に津軽半島柏村(現つがる市)に出来たジャスコの日本初のショッピングセンターを見学したのをきっかけに、「都会で、富裕層に、高付加価値商品を売る」仕事であったのを「これからは郊外の時代」と方向転換する。暫くして住まいを広尾から神奈川県三浦郡へ移し、地域で生きる術を私生活でも学ぶ。南房総にある「道の駅とみうら枇杷倶楽部」のコンサルテーションが特産品に出会った最初の仕事。地域が持続的に儲かるには、モノだけではなく観光、飲食やサービスに領域を広げて行くことが大事。農畜産品の売上は日本全国でたかだか9兆円と低い。氏曰く「価値を上げて、作った人の手残りを如何に増やすかが自分の仕事だ」。
◎小川 亮氏……デザイン会社社長。大学卒業後キッコーマン(株)に入社し、宣伝・販促・調査などに携わる。その後独立し(株)アイ・コーポレーションを立ち上げ、パッケージデザイン開発を行っている。主には大手メーカーの食品や化粧品のデザインを担い、年に数回特産品のデザイン開発を手がけている。調査研究委員で今回の調査のまとめを担当した。
ディスカッションは質問に答えて頂く形でスタートしました。
Q:(調査結果を踏まえて)地方の仕事で食べていけるのでしょうか?
金澤:北海道へ移住した当初はデザインフィーも低く、難しかった。デザイナーの地位が低く、著作権という意識も低く、提案したデザインが断りも無く他の商品にも展開されてしまっている話も聞いた。現在はデザイナーの存在価値を上げ、地元の若者が「デザインで生きて行こう」と思えるよう活動している。お百姓さんという言葉はなんでもやる人という意味であったと思い、自分も商品企画の段階から様々な役割を担い、長い時間と手間をかけて開発を手伝い、コーディネイションフィーが取れるようになった。デザインだけではなく、頼んでくれた人が豊かになる、延いてはその地域が豊かになるように考えている。
榊:自分も移住を考えた当初は沖縄を目指していた。しかしながら売上が1/8になることが分かり、社員を食べさせていけないので諦めて、葉山への移住を決め在宅勤務とした。地方での仕事は「○○専門のコンサルです」というようなことではなく、自分が柔軟になり幅広い仕事をこなすことで売上につながる。しかしながら仕事だけを追わずに、クライアントのためにならないと判断した場合は依頼された事業を諦めさせる場合もある。結果的にそれで信頼を得て、その地方の他の事業者を紹介してもらうこともある。
Q:金澤氏はデザイナーからコーディネーターへどのように転身されたのでしょうか?
金澤:ポーラ時代は口下手で、プレゼンテーションの時に自分の考えを上手に説明出来なかった。独立して北海道へ移住した直後の二年間は殆ど仕事が無く、開き直って地元の、自分が興味が湧くことにどんどん首を突っ込んだ。人と人のコミュニケーションからモノが作られて行くのが面白く、気がついたらおしゃべりになっていて、それが高じてコーディネーターになれた。地方は担い手が足りないので、人的パワーが周りに伝わり、その後色々と声が掛る様になった。
Q:少し切り口を変えて、補助金について伺います。補助金は事業に有効でしょうか?
金澤:補助金は使ってお終いというケースが多くあまり有効ではないと思う。役所の実績のためにやらされた感が強く、事業者がヤル気になっていないケースが多く問題。「特産品を作る」は間違いで「特産品になる」が正しい。ブランドを作るのは1,2年では無理で何年もかかるもの。であれば、補助金が3年で切れてしまうのはおかしいと思うが、反面、補助金がきっかけで人が繋がり、人が育ち発展していけば良いと思う。最終的には人、特産品の源泉は人だと考える。
Q:デザインの力は特産品開発にどれくらい有効でしょうか?地方では商品開発からトータルで関わって行く仕事のやり方になるのでしょうか?
榊:まずコンサルは必要ないと思う(笑)。作り手・売り手のモチベーション×素敵な商品×良いデザインのマッチングが大事。コンサルは組織としてお金を使う時の合意形成に必要なだけ。
金澤:現在はフレームワーク造りの仕事が多い。デザインはその一部と思う。いろんな人が仕事に関わったその結晶がデザイン。
Q:特産品のデザインをすることの魅力は何でしょうか?
小川:きっかけは何年か前に“石垣市パパイヤ研究所”というところから問い合わせがあったこと。最終的に仕事には至らなかったが、その時社内がワクワク感に包まれた。地方で良いモノを作っている人と仕事をする、現場で作り手の話を聞き、おいしい空気を吸って、美味しいご飯を食べる、その全てが魅力的。反面、商品の企画やマーケティングにおいて、自分達の無力さを実感するという意味でも良い仕事だと思う。
Q:地方の仕事をどうやって取っていますか?
小川:東京と一緒だが、目立つことが大事。自著「図解でわかるパッケージマーケティング」を県へ贈呈し、勉強会などあれば無償で協力する。そういう場に参加するのはヤル気のある良い作り手。こういう場で人脈を作り仕事につなげている。
金澤:自分も旭川市で頼まれて講師をやった際に聴講者から仕事を依頼された。デザインの地産地消も大事と考えているので旭川のデザイナーへと繋いだ。
この後、会場より多数の質問があり、続く交流会も意見交換の場として予定時刻を超えて白熱しました。
担当委員会:調査研究委員会
担当理事:桑 和美/中越 出/丸本彰一
担当委員:足立美津子/小川 亮/加藤憲司/齋藤郁夫/高田知之/西島幸子/平尾朋子/藤森 宏/松樹青太/宮城愛彦