調査研究委員会 研究会レポート
「タイポグラフィを基礎から考える」 スペースの知覚と制御 2(2012年10月)
講師:木村雅彦氏(GKグラフィックス部長・タイポグラフィ学会副会長)
春田ゆかり氏(春田デザイン室・タイポグラフィ学会会員)
開催日時:平成24年10月12日(金)15:15~20:00
(講演 15:15~16:45 ワークショップ&講評/交流 17:00~20:00)
開催場所:レンゴー株式会社東京本社 15F 大会議室
参加者数:講演52名 ワークショップ28名
前回の欧文書体のセミナーの続編として、講師にGKグラフィックスの木村雅彦氏と春田デザイン室主宰の春田ゆかり氏をお招きし、「タイポグラフィを基礎から考える-スペースの知覚と制御2」と題した、和文書体(漢字と仮名文字)の歴史を俯瞰する講演とレタースペーシング方法を応用した和文の制御方法の実習セミナーが開催されました。
前半の講演では、木村氏と春田氏のお二人を講師として52名が参加しました。
内容は、前回の欧文セミナーに続くものとして、中国3300年にわたる漢字の歴史の中で書体がどのように変遷したかについて、また和字に関しては飛鳥時代に始まる漢字の伝来から和字(ひらがな、カタカナ)への展開と変遷をそれぞれの柱としてお話しいただきました。
漢字も和字も、変わりゆく政治状況(例えば国家の統一のために行われた書体の統一)、変わりゆくメディア(青銅→甲骨→石→木簡→竹→紙→電子メディア)、変わりゆく道具・方法(彫、印、筆、印刷、コンピューター)などから、新たに生まれ・変り続けて来たことを時系列で俯瞰するお話しは、大変分かりやすいものでした。
彫るための書体、威信を伝えるための書体、神に語りかけるための書体、国家を統一するための書体、教典の拓本として広まった書体、筆を使った表情のある書家の書体、印刷するために調整された書体、歌舞伎など特定の分野の宣伝に使うために作られた書体など、書体が生まれた背景とそれにまつわる様々な情報を交えてのお話はたいへん興味深いものでした。
とくに講演のしめくくりの《昔の書体を今ある技術に置き換えて、文字が作られている。歴史の中で生まれた書体を今の時代に活かした書体が生まれ…ただ感覚的に書体を使うのではなく、歴史・背景を知ることで、これまでよりもっと意味が出てくる》というメッセージが心に残りました。書体というものは、伝統に裏打ちされた、不可侵のもののように思っていましたが、必要に応じて時代ごとに作り替えられて来たものであることを知ったのは、驚きと同時にこれからの可能性を感じさせるものでした。
講演に引き続き、後半は20代から30代の若手を中心に28人が参加した和文のスペーシングの実技が行われました。前回同様に紙にプリントされた文字を、一文字ずつ切り取り、分解してみて、調整しながら動かしてみる。その中で、文字の重心とエレメントによって生まれるアキの微妙な空間の差を理解すること、感じる目を養うことを目的とする実習でした。
受講者が、横書きの漢字の『東京都新宿区』と縦書きのひらがなの『いつくしま』と、二つの題材のうちから一つを選び、お二人からのレクチャーとアドバイスをいただきながらスペーシングにおいて注目すべき《距離》《重心》《濃度》などを理解し、実際に文字組を行うというものでした。とくにひらがなでは、前後関係、つながり、曲線のうねり、力の関係性までも考えるという高度なものでした。日常、私たちの回りに氾濫している文字組では、それほどスペーシングのことまで考えられておりませんが、まず目を養うこと、そこから全ては始まることを目指した実習でした。
実技の講評に引き続いての交流会では、講師と語り合う若い参加者の熱心さ、前向きさを感じさせられました。そして、今回も、木村氏、春田氏よりご持参いただいた多くの歴史的資料を実際に間近で見ることができたことも、それぞれにとって大きな収穫であったと思います。講演、実技ともに充実した内容で、参加した方々も多くの収穫があったと感じているのではないでしょうか。この講演のためにたいへんな労力と時間を費やして準備して下さったことを思い、お二方に感謝いたします。
(JPDA東日本委員会 江藤正典)
担当委員会:東日本委員会/調査研究委員会
担当理事:東日本委員会 伊藤 透/竹内清高/野末俊作 / 調査研究委員会 桑 和美/中越 出
担当委員:東日本委員会 内山淳子/江藤正典/國吉英二郎/佐藤雅洋/添田幸史/田口頼幸/竹澤さつき/竹廣光春/谷口和隆/西島幸子/東泉沙也夏/平田克己/古城晴美/牧之瀬文隆
調査研究委員会 足立美津子/小川 亮/加藤憲司/木嵜日出郷/小阪ゆき/齋藤郁夫/高田知之/西島幸子/秦 智子/原 雅明/平尾朋子/藤森 宏/宮城愛彦